著者
吉本 治一郎
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2008

農博第1721号
著者
吉本 治一郎 西田 隆義
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.446, 2004 (Released:2004-07-30)

広葉樹の幹から滲出した樹液には多くの昆虫が吸汁のために集まることが知られている。そのような場所では穿孔性昆虫のボクトウガ科Cossidaeの幼虫も頻繁に観察されることから、これらが特に滲出に関係しているのではないかと考えられている(市川 私信)。そこで、本研究において、ボクトウガ類の幼虫が樹液資源の存在様式とそれらに集まる昆虫群集の構造にそれぞれどのような影響を及ぼしているのかについて調査を行った。2002年には全パッチ(滲出部位)の約61%で、2003年には約36%で、幼虫または幼虫の巣の存在をそれぞれ確認した。これらは幼虫の穿孔と樹液の滲出との関係が示唆されたパッチであると言える。幼虫個体数の季節変動は両年とも総パッチ数の変動とほぼ一致したが、後者で若干の時間的な遅れが見られた。また、2002年には、幼虫個体数の増加に伴って樹液食昆虫の種数と個体数が有意に増加した。翌年にも、巣が存在したパッチ(幼虫存在パッチを含む)において、樹液の滲出期間、樹液に覆われた面積(パッチ表面積)ともに幼虫および巣のないパッチを上回っていた。さらに、群集の属性(総種数・総個体数・多様度)に関しても同様の傾向が見られたが、種によってその傾向は異なり、特に、ケシキスイ類、ハネカクシ類、ショウジョウバエ類など、いわゆる樹液スペシャリストに属する種の個体数は、巣のあるパッチの方で顕著に多くなっていた。以上より、ボクトウガ類の幼虫は樹液の滲出を促進し、その分布とフェノロジーが樹液資源の存在様式を規定することが示唆された。さらに、これらは資源を介して群集構造にも間接的に正の効果を与えていることが明らかになった。だたし、これらの効果は種によって異なっていたことから、樹液に対する依存度などの種固有の生態学的特性が相互作用に反映されたのではないかと予想された。