著者
辻村 和也 松尾 広伸 谷口 香織 吉村 裕紀
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.182-189, 2022-10-25 (Released:2022-11-03)
参考文献数
33

テトロドトキシン(TTX)に起因する食中毒は,全国的に毎年発生している.本研究では,2011年から2017年に長崎県で発生したTTXに起因した食中毒8事例について,食品残品,患者血清および尿中のTTX濃度の定量結果をまとめ,試料中のTTX濃度と症状との関係を整理し,比較検討した.その結果,食品残品においては,4事例7試料で,有毒(弱毒:4試料,強毒:2試料,猛毒:1試料)と位置付けられた.患者尿中TTX量では,既報において,3事例とも重症度分類3~4相当のTTX量であったが,実データでは,重症度分類にばらつきがあった.血清中濃度では,喫食後約12~24時間に最高血中濃度到達時間(Tmax)があり,24時間以内に血清中TTX濃度が19.5 ng/mL以上に上昇することが,呼吸に異常を起こす重症度分類3以上になる一つの目安と推察された.また,1~3 ng/mL付近が症状の発現や快方・消失の目安になる濃度と推察された.一方,TTX排泄においては,重症の2名の結果であるが,血清中TTX濃度の対数と摂取後の時間には,負の相関が認められ,これにより,血清中TTXが対数関数的に減少することが示された.また,血清中TTX濃度の半減期(T1/2)は,17.5時間および23.7時間だった.本調査で得られた結果は,TTX類に関する食品衛生学的知見をさらに深め, TTX類のリスクアセスメントの一助になると思われる.
著者
辻村 和也 吉村 裕紀 田栗 利紹 本村 秀章
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.253-259, 2017-12-25 (Released:2017-12-28)
参考文献数
31
被引用文献数
7

2015年11月長崎県において,腐肉食性巻貝であるキンシバイ(Nassarius(Alectrion)glans)喫食による食中毒事例が発生した.本食中毒事例は,国内でも3例目の珍しい事例であり,知見が乏しい.そこで行政および医療機関の協力のもと,経日的に採取された患者血清および尿中のテトロドトキシン(TTX)濃度推移と巻貝中の毒成分解析を行った.LC-QqQ-MS/MSによるTTX分析の結果,調理済巻貝の食品残品,患者血清および尿のすべてからTTXが検出された.食品残品試料では,1個体でヒトの致死量に達する量のTTXを含有するものもあった(食品残品試料2:2.5mg/individual).また,患者血清においては,発症日翌日に最高濃度42.8ng/mLを示し,2日分の尿中排泄量は2.4mgと試算された.以上の結果から,本事例では患者は少なくとも致死量相当のTTXを摂取したと推察された.また,キンシバイの毒性成分解析のため,TTX定量分析に加え,LC-QTOFMS/MSによるTTX類縁体探索およびマウスバイオアッセイによる総毒量算出を行った.その結果,キンシバイの総毒量はTTX単体でないことが明らかになり,残余毒力の一部分はTTX類縁体である11-oxoTTXが占めることが推察された.以上の結果,本事例を含めキンシバイは過去の事例と同様に,食品衛生上極めて危険な種であると考えられた.