- 著者
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丸山 洋平
吉次 翼
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集 2016年度日本地理学会秋季学術大会
- 巻号頁・発行日
- pp.100043, 2016 (Released:2016-11-09)
2011年3月に発生した東日本大震災から5年以上が経過した。その間、被災地および被災者に対する様々な支援が行われてきたが、集団移転、復興まちづくりの長期化、福島第一原発事故に伴う避難指示区域の設定等の理由により、居住地の変更を余儀なくされている人々が多数存在している。被災者の移動による転出と転入が生起しており、結果的に東日本大震災は被災地とその周辺自治体の人口分布変動を引き起こしている。人口移動を把握する方法として住民基本台帳人口移動報告を利用することが考えられるが、平時から住民票を動かさずに転居するという実態がある。それに加えて、原発避難者特例法等により、原発付近に居住できなくなった人々が、元の自治体に住民票を残しながら避難先自治体で行政サービスを受けることが可能になっており、とりわけ福島原発周辺自治体の人口移動を正確に把握することが困難であった。2016年6月末に2015年国勢調査の抽出速報値が公表され、都道府県と人口20万人以上の市で男女・年齢5歳階級別人口を分析できるようになった。本報告では被災自治体、特に福島県と県内人口20万人以上の市である福島市、郡山市、いわき市を対象として、2010年から2015年までの年齢別の人口移動、その結果としての人口分布変動を分析する。そして、それを以て被災地の復興計画や地方人口ビジョン・地方版総合戦略に見られる将来人口の見通しを批判的に検討することを試みる。なお、国勢調査の抽出速報値は、標本誤差の影響によって後に公表される確定値から少なくない乖離があることに留意する必要がある。 総人口の変化を見ると、2005年~2010年、2010年~2015年の2期間の人口増加率は、岩手県は-4.0%、-3.8%、宮城県は-0.5%、-0.6%、福島県は-3.0%、-5.7%であり、福島県において震災後に人口減少傾向が強まっている。2010年~2015年の年齢別純移動率を見ると、岩手県、宮城県では過去のパターンからの変化が小さいが、福島県では年少人口の大きな転出超過、前期高齢者の転入超過、後期高齢者の転出超過等があり、年齢構造が大きく変化し、少子高齢化の進行を早める結果となっていた。福島県内の3.市では、福島市といわき市の総人口が減少から増加に転じており、県内人口移動の影響が想起される。年齢別の純移動率を見ると、年少人口が転出超過になる点は福島県全体と同様であるが、福島市と郡山市では高齢期の転入超過が明確に表れているのに対し、いわき市では20歳代後半以降の全年齢層で転入超過になるという違いが見られる。浜通り地方にあるいわき市は沿岸部ではあるものの、福島第一原発付近の町村の多くが街ごといわき市へ移転し、原子力災害による避難者のための災害公営住宅が集中的に整備されていること等から、高齢者だけではなく幅広い年齢層で転入超過になっていると考えられる。中通り地方にある福島市と郡山市にも復興公営住宅が集中して整備されており、これが高齢者の転入超過に結びついていると推察される。以上をまとめると、福島県からは子どものいる世帯が主に流出し、県内では被災者向けの施策の影響で特定の都市部に人口が集中するという変化が起きているといえるだろう。 原発周辺地域の居住制限は短期間で解除されるものではなく、被災者は長期にわたって避難先での居住を続ける可能性があり、将来的には特定地域が極端に高齢化すると考えられる。加えて、年少人口の流出は将来の再生産年齢人口の減少から出生数の減少へと結びつき、福島県全体の少子高齢化を加速させる。各自治体の地方人口ビジョンを見ると、郡山市といわき市は原発避難者の状況分析と将来推計を行っているが、福島県と福島市では特に言及されていない。また、地方人口ビジョン全般に言えることだが、将来の出生率と純移動率に楽観的な見通しを与えた推計結果を目標人口に相当するものとして扱っており、とりわけ被災自治体では、こうした目標人口を掲げて現実を直視しないことが、復旧・復興を長期化させるのみならず、かえって地域の持続性を損なう可能性もある。今後の復興計画を単なる精神的な規定ではなく、実質的かつ効果的な政策枠組みとして機能させるためには、震災後の人口変動を踏まえ、よりシビアな将来人口の見通しを基準とする政策形成へと舵を切る必要がある。