著者
益子 美由希 山口 恭弘 吉田 保志子
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.153-169, 2022-10-24 (Released:2022-10-31)
参考文献数
68
被引用文献数
1

全国一のレンコン産地である茨城県では,カモ類及びバン類による年間約3億円(2020年度)のレンコン被害が報告されている.レンコンは通年湛水のハス田の泥中に生育し,収穫時にえぐられた傷のあるレンコンが混じることがあるため「カモ被害」とされてきたが,実際にカモ類等が夜間に食害する様子を示した資料は無かった.どの種がどのようにレンコンを食べるか明らかにするため,2021年2–3月,収穫後のハス田(泥面は水面下約20 cm)に試験的にレンコンを設置し,カモ類等による夜間の採食行動を自動撮影カメラで撮影した.全16回の試験回毎に,2–4節ある新鮮なレンコンを日没前に田内(水面下0–52 cm,試験毎に深さを変更,園芸用支柱に結えて保持)又は畦上に設置し,翌朝に回収した.その結果,マガモAnas platyrhynchosとオオバンFulica atraがレンコンを食べる様子が頻繁に撮影され,まず畦上又は水面にあるレンコンを突いて食べ,完食すると次いで頭を水中に浸して水面下0–20 cmにあるレンコンを食べていた.その後,水面下20–40 cmの泥中にあるレンコンを倒立して食べ,途中,オオバンは潜水,マガモは水かきで泥を掘る動作も行った.翌朝,レンコンが食べられた範囲の泥面は水面下20–42 cmのすり鉢状に掘られており,水面下40 cmよりも深くにはレンコンが残っていた.他のカモ類の飛来は少なかったが,ヨシガモA. falcataは泥面のレンコンを,ヒドリガモA. penelopeは畦上と水面のレンコンを食べた.ハシビロガモA. clypeata,コガモA. crecca,オカヨシガモA. streperaはレンコンを食べる行動は見られなかった.以上から,泥中に着生する商品となるレンコンが少なくともマガモとオオバンによる食害を受けうることが示され,浅く位置するレンコンほど食害を受けやすいと考えられた.
著者
山口 恭弘 吉田 保志子
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.1-6, 2006 (Released:2007-07-06)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

近年, 農作業の省力化のために, 水稲の直播栽培が各地で行われているが, 播種期の鳥害が問題となっている. 入水前の田にモミを播く乾田直播ではキジバトStreptopelia orientalisが播種後に集団でモミを採餌するために, 地域によっては大きな被害を出している. そこで本研究では野外大網室内の実験水田において, 大麦を用いた代替餌場を設置することにより, キジバトの水稲への被害を軽減できるかどうかを実験した. 実験は代替餌設置区と非設置区とを設け, キジバトの導入時期は前期 (播種直後から出芽揃い) と後期 (出芽揃い以降に前期と同じ期間) に分けた, 代替餌の有無と導入時期の組み合わせの2×2の4処理を1セットとし, 2000年5月1日から9月12日にかけて5セット繰り返した. 苗立ち数を処理区とキジバトが入れないようにしたエクスクロージャーとの間で比較したところ, 前期では代替餌設置区で有意差がなく, 代替餌非設置区で有意に少なかった. 一方, 後期の苗立ち数は代替餌のあるなしに関わらず, エクスクロージャーとの間に有意差はなく, 出芽揃い以降には被害が生じないことが示された. これらのことより被害の時期は播種から出芽揃いの時期であること, 代替餌の設置により被害が軽減されることが明らかとなった.
著者
山口 恭弘 吉田 保志子 斎藤 昌幸 佐伯 緑
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.124-129, 2012 (Released:2012-04-27)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

ヒマワリは近年,バイオマスエネルギーを得るための油糧作物として注目されており,今後栽培面積の増加が予想される.しかし,栽培において大きな問題となるのが鳥害であると考えられる.つくば市の中央農業総合研究センターのヒマワリ圃場4ヶ所,計100aにおいて,キジバトStreptopelia orientalis,カワラヒワCarduelis sinica,スズメPasser montanusがヒマワリを採食しているのを確認した.27回の調査で延べ飛来個体数はそれぞれ,70羽,5,277羽,318羽,調査日あたりの出現頻度はそれぞれ,44.4%,100%,37.0%で,延べ飛来個体数,出現頻度ともカワラヒワが最も多く,最大300羽の群れで採食していた.ヒマワリの食害は花弁がまだ残っている時期から収穫時まで続き,食害を調査した2つの圃場(50aと30a)において,食害されたヒマワリの割合はそれぞれ30.8%と72.1%となり,播種日が早かった圃場で食害が大きかった.ヒマワリを栽培する際には鳥害対策を行わないと収量の大幅な低下につながる可能性が示唆された.
著者
吉田 保志子
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.390, 2005 (Released:2005-03-17)

鳥類による農作物被害では、カラス類によるものが面積でも量でも最大となっている。カラス類はゴミや作物の収穫くずなどの人為起源の食物を摂食することが知られており、個体群管理のためには、これら人為起源の食物のコントロールが重要と考えられるが、農村地域における生息密度や食物に関する情報は不足している。そこで本研究では、年間を通したカラス類の個体数と採餌物の変動を調べた。 茨城県南部の平地農業景観に5ヶ所に分けて総延長76kmの調査ルートを設定し、見通しの良さに応じてルートの両側各20から100mを調査範囲として、合計11.4km2を自転車で月1回調査した。調査においては、出現したハシブトガラスおよびハシボソガラス(以下ブト、ボソと称する)の個体数、行動、採餌物を記録した。 記録個体数は、ブト、ボソともに秋冬期に多く春期に少ない傾向を示した。群れサイズ別に見ると、単独または2羽での出現はどの月においてもほぼ一定数を占め、群れは主に秋冬期に出現していた。非積雪地ではブト、ボソいずれにおいても周年なわばりを維持するという報告があることから、単独または2羽での出現個体の多くはなわばり個体である可能性が高く、群れは主に非繁殖個体によって構成されるのではないかと考えられた。 ブトとボソの採餌物は大きく異なっており、ブトは人家のゴミおよび畜舎で得た食物が多かったのに対し、ボソはほとんどの食物を農地で得ており、作物くず(ラッカセイ、稲、サツマイモ等)と農地の昆虫・動物(アメリカザリガニ等)が多かった。なお、調査ルート沿いのゴミ集積所は金網製の箱形が多く、そうでない集積所でもカラス類によるゴミ荒らしの観察件数は少なかったため、採餌されたゴミの多くは裏庭のゴミ穴等から得たものと思われた。
著者
吉田 保志子 百瀬 浩 山口 恭弘
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.56-66, 2006 (Released:2007-07-06)
参考文献数
32
被引用文献数
2 2

茨城県南部の農村地域において, 繁殖に成功した場合の平均巣立ち雛数はハシボソガラスで2.37羽, ハシブトガラスで2.62羽であった. 繁殖成否不明のつがいを除外して算出した, 繁殖に成功したつがいの割合はハシボソガラスで76%, ハシブトガラスで87%であった. 両種とも季節が遅いほど1巣あたりの巣立ち雛数が少なかった. 巣周辺の植生・土地利用および他のつがいの存在が巣立ち雛数に及ぼす影響を一般化線型モデルによって解析したところ, ハシボソガラスでは隣のハシブトガラス巣との巣間距離が長く, 巣周辺の採餌環境の面積割合が高く, 隣のハシボソガラス巣との巣間距離が短い場合に巣立ち雛数が多かった. 一方ハシブトガラスでは, 今回の解析からは巣立ち雛数を説明する有効なモデルは構築できなかった. 異種間の平均巣間距離361mは, ハシボソガラス間の410mとハシブトガラス間の451mのいずれと比べても短かった. これはハシブトガラスでは隣接する場所に営巣するハシボソガラスの存在が繁殖に大きな影響とならず, 繁殖開始時期が遅いために, 既に営巣しているハシボソガラスの位置に構わずに巣を作ることが理由である可能性がある.