著者
Matsuzaki Taro Yoshida Shinya Ikeda Ami Hoso Masahiro 松崎 太郎 吉田 信也 池田 亜未 細 正博
出版者
ウェルネス・ヘルスケア学会
雑誌
Journal of wellness and health care = Journal of wellness and health care (ISSN:24341509)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.33-40, 2019-02-01

今回の実験の目的は、ラット後肢を非荷重としたまま飼育する方法を確立すること、および荷重の有無が関節不動による関節構成体の変化にどのように影響するのかを調査することである。 40 匹の Wistar 系雄性ラットを使用し、無作為に 4 群に分けた。それぞれ対照群、非荷重群、関節不動群、不動と非荷重群とした。関節不動は創外固定を用いて後肢膝関節を屈曲 120 度で不動化した。非荷重群はラットの尾骨に Kirschner 鋼線を刺し、ステンレスワイヤを用いて尾部を懸垂し、足部が接地しないようにした。 介入の 2 週後、体重と関節可動域を測定した後に関節腔と関節後方の関節包を病理組織学的に観察した。 実験後の体重には各群に差は見られなかった。関節可動域は対照群および非荷重群に対し不動群、関節不動と非荷重群で有意に減少していた。また、不動と非荷重群と比較して関節不動群では有意な可動域の減少が見られた。関節腔では対照群、懸垂群は軟骨が直接関節腔に露出していたが、関節不動群、不動と非荷重群では肉芽様組織の関節腔内の侵入,関節軟骨表層の膜様組織との癒着が観察され,不動と非荷重群では軟骨表層の膜様組織は限局的であった。関節包は対照群、非荷重群ではコラーゲン線維間に間隙を認め,比較的疎性であったが,関節不動群ではコラーゲン線維束はやや組硬化し,線維素区間が狭まり密生化しており,全例でうっ血像が観察された。不動と非荷重群では線維の密生化は見られたものの関節不動群と比較して軽度であった。 今回の手技は侵襲はあるものの懸垂が外れることはなく、より臨床での関節拘縮に近い研究を行う一助となると考えられる。
著者
吉田 信也 松崎 太郎 大下 美奈 坂下 茉以 堀 健太郎 森 和浩 細 正博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0775, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに】関節可動域制限の原因の一つとして神経系の可動性や柔軟性の低下が関与していることが考えられており,我々は先行研究においてラット膝関節拘縮モデルにおける坐骨神経周膜の肥厚および坐骨神経束と神経周膜の密着(神経周囲腔の消失)を報告し,これが神経の滑走を妨げている可能性を示した。また膝関節不動化期間中に拘縮予防目的に関節可動域運動(以下,ROM-ex)を行った結果,神経周膜と神経束の間に神経周囲腔が観察され,神経の滑走が神経周膜と神経束との間で生じている可能性を報告した。そこで今回,ラット膝関節拘縮モデルに拘縮治療目的でROM-exを施行し,それが坐骨神経周囲組織に与える影響について病理組織学的に検討することを目的に実験を行った。【方法】対象には9週齢のWistar系雄ラット28匹を用い,それを無作為にコントロール群(n=7),拘縮群(n=14),実験群(n=7)の3群に分けた。拘縮群および実験群は麻酔後,右膝関節をキルシュナー鋼線と長ねじを使用した創外固定を用いて膝関節屈曲120°にて不動化した。この際,股関節,足関節に影響が及ばないように留意し,ラットはケージ内を自由に移動でき,水,餌は自由に摂取可能とした。コントロール群は自由飼育とした。実験群は不動化処置の2週間後より腹腔内にペントバルビタールナトリウム溶液(40mg/kg)を注射して深麻酔下で膝関節に対しROM-exを2週間行い,ROM-ex時以外の期間は不動化を維持した。ROM-exはラットの体幹を固定した状態で行い,まず膝関節屈曲位を5秒間保持し,次にバネばかりを使用して右後肢を坐骨神経に伸張ストレスが加わるように体幹より120°腹頭側方向へ約1Nで牽引し5秒間保持する運動を3分間繰り返した。ROM-exは1日1回,週6回,2週間施行した。拘縮群の半数(n=7)は不動化2週間後にジエチルエーテルにて安楽死させ,可及的速やかに右後肢を股関節より離断し標本を採取した。実験期間終了後,同様に残りのラットを安楽死させ,右後肢を標本として採取した。採取した右後肢は10%中性緩衝ホルマリン溶液にて組織固定を行い,次いで脱灰液を用いて脱灰を4℃にて72時間行った。その後,大腿骨の中間部にて大腿骨に垂直に切断し大腿部断面標本を採取した。5%硫酸ナトリウム溶液で72時間の中和後,パラフィン包埋して組織標本を作製した。作製したパラフィンブロックをミクロトームにて約3μmにて薄切した。薄切した組織切片はスライドガラスに貼付し,乾燥後にヘマトキシリン・エオジン染色を行い封入した。観察部位は大腿中央部の坐骨神経周囲組織とし,光学顕微鏡下に病理組織学的に観察した。【倫理的配慮】本実験は所属機関の動物実験委員会の承認を受けて行われたものである。【結果】コントロール群は全例で坐骨神経束は神経周膜と遊離しており,神経周囲腔が観察された。実験群においては7例中6例で神経周囲腔を認めた。一方,拘縮群では全例で坐骨神経内の各神経束は神経周膜と密着しており,神経周囲腔の消失が観察された。また拘縮群および実験群では神経周膜の線維性肥厚が全例で観察された。【考察】今回,ラット膝関節拘縮に対してROM-exを行った結果,坐骨神経の神経束と神経周膜の間に神経周囲腔が観察された。これは神経の滑走が神経周膜と神経束との間で生じている可能性を示唆するものであると考えられる。また,一度拘縮を生じた膝関節にROM-exを行うことで,坐骨神経の神経周囲腔に関しては可逆的な組織学的変化が生じ,コントロール群に類似した組織像が観察されたと考えられる。一方で,神経周膜の線維性肥厚は拘縮群と同様に実験群全例で観察されており,ROM-exは神経周膜には影響を及ぼさないものと思われた。【理学療法学研究としての意義】臨床場面において使用頻度の高い治療手段であると思われるROM-exが坐骨神経周囲組織に与える影響について病理組織学的に観察・検討することにより,神経滑走性に対するROM-exの治療効果やその運動方法などの妥当性に対して示唆を与えうると考えられる。