著者
吉田 克志 大口 富三
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.76-82, 1999-02-25
参考文献数
18

ダイコン,アブラナおよびブロッコリーの子葉に熱処理を行い,病原性の異なる<i>P. parasitica</i> Pers. ex Fr.のダイコン(<i>Rs</i>),アブラナ(<i>Bc</i>),ブロッコリー(<i>Bo</i>)およびナズナ(<i>Cb</i>)分離菌4種類の分離菌を交差接種した。子葉に47.5&sim;50&deg;Cで30秒間熱処理を行って非親和性菌を接種した場合,アブラナ科蔬菜の3分離菌ではわずかながら,分生子形成が認められたが,Cb菌では分生子形成は認められなかった。感染部位の蛍光顕微鏡観察により,アブラナ科蔬菜の3分離菌を非親和性菌として接種した熱処理子葉では吸器形成細胞死や吸器の被覆化など植物の抵抗反応が顕著に抑制されていた。一方,<i>Cb</i>菌接種の場合には,熱誘導性の感受性は接種48時間に失われ,顕著な抵抗反応の回復が観察された。以上の結果から,<i>Rs</i>菌,<i>Bc</i>菌および<i>Bo</i>菌と<i>Cb</i>菌に対する植物の抵抗反応に著しい差異があることが確認され,これらの分離菌の病原性の差異が明らかになった。また,べと病菌の感染には植物の抵抗反応の抑制が必要であり,これは吸器の形成および発育によって制御されると考えられる。
著者
吉田 克志 大口 富三
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.315-322, 1998-08-25
参考文献数
22
被引用文献数
1

湿室ペトリ皿中のアブラナ科蔬菜子葉にダイコン,アブラナ,ブロッコリーおよびナズナから分離した<i>P. parasitica</i>を交差接種し,感染部位を組織化学的に観察することにより,その病原性を調査した。各分離菌は宿主植物と同属同種の植物上で盛んに分生子を形成したが(親和性),他種の子葉では分生子形成が認められなかった(非親和性)。交差接種を行った子葉感染部位をアルカリアニリンブルー蛍光観察法により調査すると非親和性の場合には,宿主の抵抗反応として,付着器形成以降の組織への侵入阻害,パピラによる吸器形成の阻害,シースによる吸器被覆化および吸器が形成された宿主細胞の壊死が観察され,べと病菌の生育は接種後48時間以内に停止した。これらの結果,べと病菌は段階的に発現する植物の抵抗反応をすべて抑制した場合に分生子形成に至ることが示唆された。また,Cb菌では供試したすべての植物種の子葉で他の分離菌に比較して強い抵抗反応が観察され,特に,パピラによって吸器形成が阻害される場合が多かった。RsおよびCb菌感染部位を組織化学的染色法を用いて観察したところ,吸器にはシースおよび吸器頸部にカロースの反応が認められた。パピラにはカロース,ポリフェノールの顕著な蓄積が認められたが,自家蛍光は弱く,また,べと病菌感染部位の宿主細胞壁の木化は観察されなかった。
著者
吉田 克志 武田 善行
出版者
農業技術研究機構野菜茶業研究所
雑誌
野菜茶業研究所研究報告 (ISSN:13466984)
巻号頁・発行日
no.3, pp.137-146, 2004-03

チャの重要病害である炭疽病の抵抗性検定法を確立するため,付傷接種による抵抗性検定法を検討した。ジャガイモ蔗糖液体培地にメチルセルロース400cPを最終濃度3%(w/v)になるように混合し,これに炭疽病菌分生子を加え,最終濃度が1×10 7個/mlになるように調整した分生子懸濁液を検定に供試した。チャ炭疽病菌分生子懸濁液を付着させた,3mm幅のマイナスドライバーを用いて,充分に硬化したチャ成葉を十字型に付傷すると同時に接種を行った。その後,湿室・暗黒下で26℃,18時間静置した後,オアシス(R)育苗成型培地に接種葉を挿し,湿室条件下で2週間培養すると,その品種の炭疽病拡大抵抗性の強さを反映した,炭疽病の病斑形成が認められた。炭疽病抵抗性の強さを病斑の大きさにより,極強(3mm未満),強(3-5mm未満),中(5-8mm未満)および弱(8mm以上)の4段階に類別した。また,成葉の供試時期の違いにかかわらず再現性の高い結果が得られた。本検定法はチャの拡大抵抗性を調査するもので,圃場抵抗性を直接反映するものではないが,圃場における炭疽病自然発生の程度と本検定法の結果は類似性が高いこと,幼木から採取した成葉も検定法に供試できることから,本検定法はチャ育種における炭疽病抵抗性系統の早期選抜に利用可能であると考えられる。
著者
吉田 克志 武田 善行
出版者
農業技術研究機構野菜茶業研究所
雑誌
野菜茶業研究所研究報告 (ISSN:13466984)
巻号頁・発行日
no.3, pp.137-146, 2004-03

チャの重要病害である炭疽病の抵抗性検定法を確立するため,付傷接種による抵抗性検定法を検討した。ジャガイモ蔗糖液体培地にメチルセルロース400cPを最終濃度3%(w/v)になるように混合し,これに炭疽病菌分生子を加え,最終濃度が1×10 7個/mlになるように調整した分生子懸濁液を検定に供試した。チャ炭疽病菌分生子懸濁液を付着させた,3mm幅のマイナスドライバーを用いて,充分に硬化したチャ成葉を十字型に付傷すると同時に接種を行った。その後,湿室・暗黒下で26℃,18時間静置した後,オアシス(R)育苗成型培地に接種葉を挿し,湿室条件下で2週間培養すると,その品種の炭疽病拡大抵抗性の強さを反映した,炭疽病の病斑形成が認められた。炭疽病抵抗性の強さを病斑の大きさにより,極強(3mm未満),強(3-5mm未満),中(5-8mm未満)および弱(8mm以上)の4段階に類別した。また,成葉の供試時期の違いにかかわらず再現性の高い結果が得られた。本検定法はチャの拡大抵抗性を調査するもので,圃場抵抗性を直接反映するものではないが,圃場における炭疽病自然発生の程度と本検定法の結果は類似性が高いこと,幼木から採取した成葉も検定法に供試できることから,本検定法はチャ育種における炭疽病抵抗性系統の早期選抜に利用可能であると考えられる。
著者
吉田 克志 大口 富三
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.307-314, 1998-08-25
被引用文献数
2

ダイコンベと病菌吸器形成に及ぼすダイコン根組織への接種前熱処理の影響を調査した。べと病罹病性品種の自首宮重および抵抗性品種の平安時無の根組織(5×5×3mm)を, 50℃の温水に30秒間以上浸漬後に本菌を接種すると, 本菌の吸器形成がともに抑制され, 菌糸様構造物として細胞内に生育伸長し, 時として隣接する細胞内にも侵入したが細胞間隙には入らなかった。この構造物の形成は50℃-60秒間処理で最多となったが, その生育伸長は接種24時間後には停止した。熱処理による吸器形成の抑制効果は50℃-30秒間処理では処理24時間後には失われたが, 50℃-60秒間処理では処理48時間後以降も持続した。CTC蛍光観察により, 吸器に膜結合性のCa^<2+>の特異蛍光が認められたが^<3,19)>, 菌糸様構造物にはこの蛍光はほとんど観察されず, 吸器とは性質が異なっていた。また, 熱処理ダイコン根組織のべと病菌侵入部位にはリグニンおよびカロースの蓄積が認められないこと, 非病原菌であるウリ類炭そ病菌の感染が同組織で観察されること, 熱処理根摩砕液にはべと病菌吸器抑制効果が無いことが観察された。また, 細胞膜ATPase活性は熱処理により抑制されることが観察された。以上の結果から, べと病菌吸器形成の抑制は宿主の抵抗反応によるものではなく, 吸器形成に関与する宿主細胞の代謝機構が熱処理により可逆的あるいは非可逆的損傷を被ったためであると推定され, べと病菌吸器形成に宿主細胞の応答が重要であることが示唆された。