著者
吉田 恵美 (2008-2009) 吉由 恵美 (2007)
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

脊椎動物の胚発生において神経板は、新しく転写因子SOX2を発現した神経系原基細胞を後部神経板に付加させていくことによって伸長する。このSox2発現細胞は、原条前方部の両側に位置し神経系・中胚葉・表皮系の共通の前駆体であるStem zoneから生み出される。Sox2の発現を制御するエンハンサーのうちN-1エンハンサーは、Stem zoneと一致する領域とそこから生み出された直後の神経系原基細胞で活性を持つ。このことから、N-1エンハンサーの活性化とSox2発現の直後に起こる遺伝子調節は、Stem zoneから神経系原基細胞を生み出す過程に直接的な役割を果たしていることが考えられた。そこで、Stem zoneから神経系原基細胞を生み出す分子機構を明らかにするために、N-1エンハンサー欠失マウス胚を作成し、解析を行った。N-1エンハンサー欠失マウス胚でSox2の発現は、N-1エンハンサーが活性を持つ領域で欠失した。この結果から後部神経板尾部におけるSox2の発現はN-1エンハンサーに依存的であることが示された。しかし、このSox2発現の欠失は他のエンハンサーによって補完され、結果的には正常に神経管が形成された。次に、後部神経板尾部におけるSox2依存的な遺伝子調節を明らかにするために、8.5日胚、8 somite stageのN-1エンハンサー欠失マウス胚を使ってMicroarray解析を行った。その結果、幾つかのSox2依存的に制御される遺伝子の候補を同定することができた。これらの候補遺伝子について、さらに解析を進めることが、神経系原基細胞が生み出される分子メカニズムを明らかにし、Stem zoneについても新たな知見をもたらすことが予想される。