著者
吉田 武弘
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

貴族院院内会派の実態解明を目的に、本年度も昨年度に引き続き史料収集、翻刻、検討作業を行った。まず昨年以来検討している男爵議員の会派・公正会について、阪谷芳郎ら関係者の史料を網羅的に収集、検討する作業を継続して行った。公正会は、大正期後期の成立以来、政界において独自の存在感を示した会派としてその名が知られているが、一方でその実態や理念、動向についてはほとんど検討されていない。よって本研究がその先鞭をつけたものといえる。またこれに加えて本年は、伯爵議員団についても検討の幅を広げた。なかでも特に伯爵議員団において中心的役割を果たした大木遠吉に注目し、大木に関する史料を収集、検討する作業を行った。大木は「華冑界の総理大臣候補」ともいわれた華族政治家であるが、従来必ずしも十分に検討されてきたとは言い難い人物である。大正期華族研究は、近衛文麿、有馬頼寧らのちに「革新華族」を構成した人々に集中する傾向があるが、これに対し大木ら当時の政界において重要な役割を果たしていた華族政治家に着目することは、華族研究の視野をより広げることになるであろう。くわえて、院内会派の動向をより大きく議会史全体の文脈上に落とし込むべく、「両院関係史」の検討も行った。主には、第4次伊藤内閣下の両院衝突問題、大正政変などの時期に注目し、それら政治史上の重要事件を両院関係の視座から読み直す作業を行った。これは従来「議会」と「官僚閥」という視点で整理されてきた政治史理解に対し、むしろ「官僚閥」においても「議会」が絶対的に必要であったという視座からこれを再検討しようとするものである。こうした作業を通じて、近代日本における議会制度の意味を再検討することができるであろう。