著者
浜岡 秀明 伊賀崎 央 吉田 泰子 押川 達郎 村松 知佳 鶴澤 礼実 柴田 陽三
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.J-59_1-J-59_1, 2019

<p>【はじめに】18トリソミーは多彩な合併奇形を有し、重度の発達遅滞を呈する予後不良の疾患であり、大規模な調査に基づく生命予後は1年生存率5.5~8.4%、生存期間の中央値10~14.5日とされている。今回、急性呼吸器感染症を繰り返す18トリソミー女児を担当する機会を得た。母親は潰瘍性大腸炎に羅患し、定頚が不十分である児を常に抱っこすることが困難なため、児は1日の大半を臥位で過ごしていた。そこで、前傾クッションを作成し、坐位保持を導入したので報告する。</p><p>【症例紹介】1歳6ケ月、女児。原疾患は18トリソミーで、Fallot四徴症等を合併した重症心身障害児(発達指数DQ12)である。某日、咳嗽後の嘔吐が頻回となり急性呼吸器感染症で入院した。入院時、鼻カニューラにてO2:3L、SpO2:87%、咽頭発赤、湿性咳嗽、陥没呼吸を認めたがチアノーゼはなかった。動脈血ガス(ABG)はpH:7.45、PaCO2:45mmHg、PaO2:34mmHgであった。</p><p> </p><p>【経過】入院後抗菌薬にて治療開始。第12病日に高炭酸ガス血症に伴う意識障害を呈し、第14病日にてんかん発作が出現した。第15病日に呼吸リハ目的で理学療法開始となる。第16~18病日には無酸素発作出現、第19病日のABGはpH:7.25、PaCO2:79.0mmHg、PaO2:33.0mmHgであり、高炭酸ガス血症を認め高流量鼻カニューラ(以下NHF)を装着した。4時間後には、pH:7.45、PaCO2:47.0mmHg、PaO2:29.0mmHgへ改善し、第23病日にNHFを離脱し鼻カニューラに変更となる。第24病日、前傾クッションを作成し坐位訓練を開始。バイタル著変なく、第34病日、自宅退院となる。理学療法開始時、鼻カニューラにてO2:3L、SpO2:70%台で陥没呼吸がみられ、脈拍は110~120回/回であった。追視は可能で、吸引時に微弱ながら啼泣がみられた。粗大運動能力尺度(以下GMFM)は臥位と寝返り領域が5.8%であった。臥位は頭頸部、骨盤右回旋位、左股内旋位で、入院前は左側臥位まで寝返りが可能だったが、理学療法開始時は困難だった。坐位は定頸不十分、体幹低緊張、骨盤後傾、右回旋位、左股内旋位で保持が困難であった。以上の評価から筋緊張の改善や、呼吸が安定しやすい、前傾坐位を取り入れた。退院時、GMFMは臥位と寝返り領域が17.6%へ改善。日中、笑顔で過ごす時間が増え、前傾坐位は見守りで保持が可能となり、周囲への反応や頭頸部のコントロールが向上した。</p><p> </p><p>【考察】呼吸と姿勢は密接に関係し、背臥位より腹臥位や坐位が呼吸に適しているとされ、特に前傾坐位では、重力により胸郭が下方に広がりやすく、舌根沈下や下顎後退を防げるとされている。園田らは、姿勢ケアは安定性のもとに運動の自由度を増す設定にすることで児の隠れた能力を引き出し、それを日常生活場面で取り込むことが大切と述べている。本症例でも、前傾クッションを作成し呼吸が安定しやすい前傾坐位を導入したことで、骨盤、胸郭が安定し、頭頸部のコントロールが向上し、運動発達の一助となったと考えた。</p><p> </p><p>【倫理的配慮、説明と同意】ご家族には、本症例報告の主旨と個人情報の保護について十分に説明し、書面にて同意を得た。</p>