著者
吉田 泰幸
出版者
一般社団法人 日本考古学協会
雑誌
日本考古学 (ISSN:13408488)
巻号頁・発行日
vol.13, no.22, pp.109-126, 2006

中国古代の玉器であるけつに似ていることからけつ状耳飾と呼ばれている装身具の主な装着方法には,異なる二説が存在する。ひとつは,従来どおりの,形態と民族誌を根拠にした,耳朶に穿孔した孔にはめ込み,切れ目を下にして垂下させる装着方法である。もうひとつは,切れ目の部分で耳朶を挟み込む方法である。後者に関しては,土肥孝氏が説く,縄文時代の装身は「死者の装身」から「生者の装身」へ移り変わるという体系的理解においても重要な役割を果たしている。<BR>本稿はこの二説のうち,どちらをとるべきか,という問題を検討した。その際の検討方法は,けつ状耳飾の土壙出土状態の検討と形態学的検討である。土壙出土状態の検討においては,人骨頭部,または想定される頭部に対する切れ目の方向に着目した。形態学的検討においては,土製けつ状耳飾を重要視した。その結果,従来想定されていたとおり,切れ目を下にして垂下させる装着方法が妥当であるとの結論に達した。<BR>その結果,土肥氏のモデルに替わる,装身の性格の変化についての考察が求められることとなった。石製けつ状耳飾の地理的分布は東アジア全般におよび,装着者の性別は男女ともみられることが一般的なようである。後続する土製けつ状耳飾は,東日本領域に地理的分布が狭まる。土製けつ状耳飾を媒介して,石製けつ状耳飾から変化したと考えられる土製栓状耳飾は,引き続き東日本領域に地理的分布が制約され,装着者の性別は,共伴人骨および人面装飾付深鉢形土器にみられる耳飾表現との一致から,女性と考えられる。これらのことから,けつ状耳飾は一貫して「生者の装身」具であり,その性格は男女とも用いるものから,人面装飾付深鉢形土器が顕著に示す,シャーマン的存在である女性の装身具として,土製けつ状耳飾を介して変化していくと想定した。