著者
李 宗子 八幡 眞理子 三根 真 山本 将司 小松 香子 吉田 葉子 吉田 弘之 荒川 創一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.164-171, 2014 (Released:2014-08-05)
参考文献数
17
被引用文献数
1

ここ数年,アルコール手指消毒剤が効きにくいとされるエンベロープを持たないウイルスに対する効果が改善された製剤が開発・販売され,臨床現場に導入する施設もみられるが,その有用性についていくつかの報告があるのみである.そこで当院において,このような製剤が臨床現場での継続使用に耐え得るか,手肌への影響面から調査,検討することにした.   冬季に,看護師40名に対し,リン酸配合によりpHが酸性に調整された試験製剤であるアルコール手指消毒剤(P–AL)使用群と,従来から使用しているほぼ中性のアルコール手指消毒剤(従来品)使用群の2群に分け,約1ヶ月間使用し,使用前後に客観的および主観的評価をした.客観的方法として,経表皮水分蒸散量,角層水分量,皮膚pH,角層細胞剥離率,皮溝の均一性を各々の対応機器で計測・評価し,主観的方法として皮膚状態に関するアンケート調査を行なった.   その結果,客観的評価では,P–AL使用前後の比較において角層水分量に有意な改善が認められ,その他の項目と主観的評価では使用前後で有意差はなく肌荒れの兆候もなかった.   本研究により,P–ALは,手荒れが発生しやすい冬季でも医療従事者の手肌に対する影響は問題なく,エンベロープを持たないウイルスに対する常時の感染対策として継続使用できる可能性があると示唆された.
著者
江原 英治 村上 洋介 佐々木 赳 藤野 光洋 平野 恭悠 小澤 有希 吉田 修一朗 吉田 葉子 鈴木 嗣敏 金谷 知潤 石丸 和彦 前畠 慶人 西垣 恭一
出版者
特定非営利活動法人 日本小児循環器学会
雑誌
日本小児循環器学会雑誌 (ISSN:09111794)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.39-46, 2014-01-01 (Released:2014-01-31)
参考文献数
15

背景:無脾症患者は細菌感染,特に肺炎球菌に罹患しやすく,時に致死的となる.わが国では2010年より7価肺炎球菌結合型ワクチンが使用可能となり小児での予防効果が期待されている. 目的:7価肺炎球菌結合型ワクチン導入前の時期での,無脾症患者における重症細菌感染症の臨床像を明らかにし,新しいワクチンを含めた今後の対策について検討すること. 対象と方法:1988~2009年までに出生し,当院で治療を受けた無脾症患者のうち,外来経過観察中に重症細菌感染症(髄膜炎・敗血症)を起こした7例の臨床像を後方視的に検討した. 結果:無脾症患者44例中7例(16%)で,重症細菌感染症を認めた.感染症発症時の年齢は3ヵ月~4歳で,7例中5例は2歳未満であった.初発症状は全例が発熱,不機嫌,哺乳不良など非特異的な症状であった.短時間に急速な悪化を呈し,入院時には心肺停止,ショック状態,意識障害などの重篤な症状を認め,死亡率は57%であった.起因菌は肺炎球菌が7例中5例(71%)を占めた.7価肺炎球菌結合型ワクチンが使用可能であれば,予防できた可能性がある例が存在した. 結論:無脾症患者における重症細菌感染症(髄膜炎・敗血症)は,短時間に急速な悪化を呈し,死亡率が高い.早期診断が困難な例が存在し,小児循環器医のみならず,救急外来を含め無脾症患者の診療に関わる全てのスタッフへの啓発と体制作り,および患者家族への教育が重要である.無脾症患者には7価肺炎球菌結合型ワクチン等のワクチンを早期より積極的に接種すべきである.7価肺炎球菌結合型ワクチンの普及により侵襲性肺炎球菌感染症の減少が期待されるものの,ワクチン株以外の血清型の感染が存在し,完全には予防できないことも認識すべきである.
著者
中村 絵美 髙見 貴之 加藤 頼子 吉田 葉子 谷口 暢
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.100-106, 2016 (Released:2016-07-29)
参考文献数
15

医療施設における環境由来による微生物の感染予防には,手指衛生に加えて環境表面の清掃が非常に重要であり,時として消毒も必要となる.近年,病院環境の整備に,洗浄剤や消毒薬(薬液)を不織布等のクロスに含浸させた環境清拭用クロスが頻用されている.しかし,環境清拭用クロスには,薬液中の成分がクロスに吸着し成分濃度が低下する場合があるにもかかわらず,その殺菌性能の評価の多くは,クロスに含浸させようとする薬液を微生物に作用させる方法が実施されている.そこで,3種類の市販品(市販品A, BとC)と消毒用エタノールクロスについて(1)クロスからの絞り液と供試微生物を作用させるクロス含浸後定量的懸濁法と(2)環境清拭用クロスを直接利用した清拭法によって殺菌効果およびウイルス不活化効果を検討した.その結果,市販品Aは,市販品BおよびCと比較してクロス含浸後定量的懸濁法と清拭法ともに高い殺菌効果およびウイルス不活化効果を示した.さらに市販品Aは,消毒用エタノールクロスと比較しても,清拭法において高いウイルス不活化効果を示した.また,市販品B,Cおよび消毒用エタノールクロスでは,クロス含浸後定量的懸濁法と清拭法で結果に明確な差が認められた.そのため,環境清拭用クロスの有効性評価には,クロス含浸後定量的懸濁法による評価に加えて,実際の環境整備を想定した清拭法も評価法として重要と考えられた.
著者
島崎 豊 竜 瑞之 吉田 葉子 平田 善彦 古田 太郎
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.264-270, 2009 (Released:2009-10-10)
参考文献数
13
被引用文献数
1

手荒れ防止の新たな取り組みとして,手荒れの程度(高度,中程度,低度)に応じて,手袋,皮膚保護剤,保湿剤を使い分ける方法がある.事前調査において最も多く見られた中程度の手荒れでは皮膚の乾燥だけでなく角層バリア機能が部分的に失われていると考えられる.今回,この角層バリア機能の改善を目的として開発されたフッ素系ポリマー含有製剤の手荒れ改善効果を調査した.頻回の手指衛生を行う医療従事者の業務中の実使用に耐え得るか調査するため,手指皮膚への保持能と石けん手洗いによる角層細胞剥離率を測定したところ,本製剤は手指皮膚への保持能力が高く,石けん手洗いによる角層細胞剥離率を顕著に抑制することがわかった.また,2ヶ月間に渡り中程度手荒れを有する看護師33名が本製剤を勤務中に使用し,その手荒れ改善効果とアンケートにより使用感を検証したところ,27名(82%)のTEWL値(経皮水分蒸散量)が有意に低下した.以上のことから,本製剤は中程度手荒れの角層バリア機能を改善し,手荒れ改善効果を有することが示された.