著者
西村 秀一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.310-313, 2016 (Released:2016-12-05)
参考文献数
12
被引用文献数
1

据え置き芳香剤の剤形で二酸化塩素ガスを逐次空中に放散させ,抗ウイルス効果を標榜する製品の有用性を検証した.冬季の生活空間を想定し室温23℃,相対湿度30%に設定した1.8 m3の密封チャンバー内で製品を開封し,試験中ガス濃度を0.03 ppmを目標として蓋の開閉で調整し,結果的に実験時間中はほぼ0.035–0.04 ppmの濃度に維持できた.その中に鶏卵由来のA/愛知/2/68株インフルエンザウイルスを含むしょう尿液をネブライザーでミスト化して噴霧し,一定時間後にチャンバー内空気80 Lをゼラチン膜でろ過し,膜に捉えたミスト粒子中の活性ウイルス量を測定し,同製品による空中浮遊インフルエンザウイルスの不活化効果をみた.その結果,今回の実験条件化では,ガスへの曝露を受けた空間での活性ウイルスの量は対照のそれと変わらず,不活化効果は確認されなかった.  二酸化塩素ガスによる殺菌,ウイルス不活化の感染制御の実用化のためには,今後さまざまな条件の下でその殺菌/ウイルス不活化効果の有無を検証していく必要があろう.
著者
林 三千雄 中井 依砂子 藤原 広子 幸福 知己 北尾 善信 時松 一成 荒川 創一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.317-324, 2015 (Released:2015-12-05)
参考文献数
13
被引用文献数
3 3

2007年1月から2012年12月までに当院血液内科病棟の入院患者より分離されたmetallo–β-lactamase (MBL)産生緑膿菌24株について細菌学的,遺伝子学的解析を施行すると共に,その患者背景を調査した.POT法を用いた遺伝子タイピングでは24株すべてが同一株と判定された.患者リスク因子では抗緑膿菌活性のある抗菌薬使用が21例,末梢静脈カテーテル留置が20例,過去一年以内のクリーンルーム入室歴が18例であった.器具の洗浄消毒方法の見直し,手指衛生や抗菌薬適正使用の徹底などを実施したが血液内科病棟における新規発生は減少しなかった.環境培養の結果などから伝播ルートとして温水洗浄便座を疑い,同便座ノズルの培養を行ったところMBL産生緑膿菌保菌者が使用した便座ノズルの27.2%から同菌が検出された.2013年1月,温水洗浄便座の使用を停止したところ新規のMBL産生緑膿菌検出数は減少した.その後,同便座の使用を再開したところ再び増加したため,2014年1月以降使用を停止した.血液内科病棟への入院1000 patints-daysあたりの新規MBL産生緑膿菌検出数をMBL産生緑膿菌感染率とすると,温水洗浄便座使用時は0.535,中止中は0.120であった(p=0.0038).血液内科病棟における温水洗浄便座の使用はMBL産生緑膿菌院内伝播の一因となり得ると考えられた.
著者
東 知宏 荒川 満枝 池原 弘展 森本 美智子 鵜飼 和浩
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.183-188, 2012 (Released:2012-08-05)
参考文献数
14

医療施設では擦式アルコール製剤を用いた手指消毒が推奨されているが,実際には製剤の使用量が規定より少なく,指先を擦り込んでいないと報告されている.そこで手指消毒時の指先擦り込みの有無,製剤使用量の違いが除菌効果に影響を与えるか検証した.   研究協力者は指先擦り込み実施群と指先擦り込み非実施群に分け,それぞれ製剤を規定の3 mLと半量の1.5 mL使用し手指消毒を行った,手指消毒前後の細菌をスタンプ法により指先,指中央,手掌から採取し除菌効果の差を検証した.   指先擦り込み非実施群では,指先の除菌率が指中央,手掌と比較して有意に低かった(製剤使用量3 mL, 1.5 mLともにp<0.001).また,指先擦り込み非実施群は,実施群と比較して指先の指数減少値が有意に低かった(製剤3 mL使用時p<0.01, 1.5 mL使用時p<0.001).指先擦り込み非実施群では,製剤使用量が1.5 mLの場合,3 mL使用した場合と比較して指先の指数減少値が有意に低かった(p<0.01).指中央,手掌では製剤使用量の違い,指先擦り込みの有無による除菌効果の差はなかった.これらより,手指消毒時に指先を擦り込まなければ除菌効果が低下することを認識し,指先擦り込みを意識して手指消毒を行う必要があるといえる.さらに,製剤使用量を規定の半量以下とすると,除菌効果がより低下することを認識しておく必要がある.
著者
西村 秀一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.222-226, 2017-07-25 (Released:2017-09-05)
参考文献数
5

首から名札のようにぶら下げるタイプあるいはポケットに挿すペンのような形状で身体に装着させ,顔面に近いところでの二酸化塩素のガスの放散によるウイルスや細菌の除去を標榜する市販の四社の四製品について,その効果の有無を検証した.ウイルス実験では,冬の生活空間を想定した室温20℃,相対湿度25%の閉鎖空間内でA型インフルエンザウイルスをネブライザーを用いて浮遊させ,それぞれの製品の直上20 cmのところで空気を吸引し,ゼラチンフィルターでウイルスを濾しとり回収した活性ウイルスの量を測定した.細菌実験では同じく製品の20 cm直上にStaphylococcus aureusあるいはPseudomonas aerginosaを塗布した寒天培地を20分間置いたのち回収し,培養してコロニー数を数えた.それぞれの検証対象直上で回収した空気中の活性ウイルス量や寒天培地上の菌数を,製品による曝露を受けない対照と比較した.その結果,すべての製品で,少なくとも用いたウイルスや細菌に対して標榜されているような抑制効果はまったく認められなかった.さらに,それらの製品から放散されるガス濃度の測定も行った.その結果,どの製品でも,10 cm離れた場所で二酸化塩素はほとんど或いはまったく検出されなかった.
著者
西村 秀一 林 宏行 浦 繁 阪田 総一郎
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.243-249, 2017-09-25 (Released:2018-03-25)
参考文献数
18

低濃度二酸化塩素(ClO2)のウイルス不活化能を種々の湿度条件で検証した.ClO2は高湿度で不安定で,市販のゲルタイプ製剤では閉鎖空間で一定低濃度維持できない.そこで高湿度で低濃度ClO2環境を一定時間維持できる乾式法製剤を用いて実験した.一定室温下で低,中,高の三つの湿度条件下,生活空間でヒトが耐えうる濃度限界とされる20-30 ppbのClO2の,空中浮遊インフルエンザウイルス不活化能を調べた.各湿度,ガス濃度の閉鎖空間でウイルスを空中に放出し,一定時間ガス曝露後,一定量の空気を回収し含まれる活性ウイルス量を調べた.その結果,相対湿度30%環境では,曝露20分後の回収ウイルス量は,対照のガス非存在下と統計学的な有意差はなかった.湿度50,70%では,対照でも回収ウイルス量が放出量の約10%と2%程度まで低下した一方,ガス存在下ではそれぞれ0.3%と0.03%まで低下し,低下は統計学的に有意であった.以上,湿度50-70%環境下であれば,20-30 ppb程度の低濃度ClO2にも抗ウイルス効果はあった.だがそれは,感染管理の視点からは,患者から空間に放出され一定時間経過後残存する活性ウイルスの絶対数から見れば,湿度自体による大幅な感染リスクの減弱にやや上乗せされる程度の効果でしかない.一方湿度30%では,この程度の濃度では感染リスクの低下はほとんど望めないことが,明らかになった.
著者
西村 秀一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.131-134, 2017-05-25 (Released:2017-07-05)
参考文献数
9

ウイルスの不活化や殺菌効果を標榜する,据え置き芳香剤型の剤型で二酸化塩素ガスを放散させる製品の,環境表面上の病原体に対する同効果の有無を検証した.本邦の冬の生活空間を想定した室温20℃,相対湿度25%の密閉空間を,製品から放出されたガス濃度が0.03 ppmになるよう調整した.その中に,スライドグラスの上に一定量のA型インフルエンザウイルス溶液あるいはStaphylococcus aureus菌液を滴下し短時間で自然乾燥したものを置き,2時間後に回収し一定量のメディウムで洗い流し,活性ウイルス量や生菌数を測定した.その結果,当該条件下でガスの曝露を受けた検体での活性ウイルス/生菌量は,曝露のない対照のそれと変わらなかった.
著者
木村 聡 相澤 寿子 増山 智子 仲間 恵美子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.21-26, 2009 (Released:2009-04-06)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

トイレの出入り口は不特定多数の者が接触し,病原体を媒介する可能性を有している.とりわけ最近普及した手指温風乾燥機(ハンドドライヤと略)では,水滴の飛散による周囲の汚染が指摘されており,底に溜まった水に触れる危険も考えられる.そこで我々は,ハンドドライヤの汚染状況を調査し,トイレ扉の取手等との比較を行った.あらかじめ手技を統一した男女各1名の検者が,病院の職員および患者用トイレ扉の取手と,ハンドドライヤの水滴受け部分など合計36箇所に,滅菌生理食塩水を含ませたシードスワブで拭き取り試験を行ない,生菌数の計測と菌種同定を行った.その結果,トイレ入り口扉からはコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)をはじめとする皮膚常在菌が数10~数100個検出されたのに対し,ハンドドライヤの検出菌は1000個を超え,使用頻度が高いトイレでは10万個に達していた.男子トイレのハンドドライヤでは,黄色ブドウ球菌やCNSなど皮膚常在菌が主体を占めたのに対し,女子トイレではモルガネラ属,クレブシエラ属,エンテロバクター属などの腸内常在細菌が多く,皮膚常在菌の生菌数は有意に少なかった.以上よりハンドドライヤに貯留する水は,他の接触部位より汚染されている可能性が推定された.手洗い後はハンドドライヤの受け皿に触れぬよう注意が必要であり,水滴の飛散には何らかの対策が必要な可能性がある.
著者
西村 秀一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.342-345, 2012 (Released:2012-12-05)
参考文献数
5
被引用文献数
3 1

本邦では,「プラズマクラスターイオン」「ナノイー粒子」「除菌電解ミスト」と称する特殊物質の放出により空中浮遊状態のウイルスや細菌,環境付着細菌の抑制を謳う電気製品が市販されている.だが,それらの有効性についての第三者による客観的検証報告はない.そこで,環境表面に乾燥状態で付着した細菌を想定し,黄色ブドウ球菌,緑膿菌,セレウス菌,腸球菌の一定数生菌液をスライドグラス上にスメア状に塗布し容積0.2 m3のグローブボックス中に置き,対象機種を一定時間運転後,一定量の液体培地で洗い流し,生存細菌数を定量してみた.その結果全機種,全菌種で対照と生存菌量はほぼ変わらず,殺菌効果はほとんど認められなかった.
著者
日本環境感染症学会ワクチンに関するガイドライン改訂委員会 岡部 信彦 荒川 創一 岩田 敏 庵原 俊昭 白石 正 多屋 馨子 藤本 卓司 三鴨 廣繁 安岡 彰
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.Supplement_III, pp.S1-S14, 2014 (Released:2014-12-05)
参考文献数
50
被引用文献数
2

第2版改訂にあたって   日本環境感染学会では、医療機関における院内感染対策の一環として行う医療関係者への予防接種について「院内感染対策としてのワクチンガイドライン(以下、ガイドライン第1版)」を作成し2009年5月に公表した。   その後医療機関内での感染症予防の手段としての予防接種の重要性に関する認識は高まり、医療関係者を対象としてワクチン接種を行う、あるいはワクチン接種を求める医療機関は増加しており、結果としてワクチンが実施されている疾患の医療機関におけるアウトブレイクは著しく減少している。それに伴いガイドライン第1版の利用度はかなり高まっており、大変ありがたいことだと考えている。一方、その内容については、必ずしも現場の実情にそぐわないというご意見、あるいは実施に当たって誤解が生じやすい部分があるなどのご意見も頂いている。そこで、ガイドライン発行から4年近くを経ていることもあり、また我が国では予防接種を取り巻く環境に大きな変化があり予防接種法も2013年4月に改正されるなどしているところから、日本環境感染学会ではガイドライン改訂委員会を再構成し、改訂作業に取り組んだ。   医療関係者は自分自身が感染症から身を守るとともに、自分自身が院内感染の運び屋になってしまってはいけないので、一般の人々よりもさらに感染症予防に積極的である必要があり、また感染症による欠勤等による医療機関の機能低下も防ぐ必要がある。しかし予防接種の実際にあたっては現場での戸惑いは多いところから、医療機関において院内感染対策の一環として行う医療関係者への予防接種についてのガイドラインを日本環境感染学会として策定したものである。この大きな目的は今回の改訂にあたっても変化はないが、医療機関における予防接種のガイドラインは、個人個人への厳格な予防(individual protection)を目的として定めたものではなく、医療機関という集団での免疫度を高める(mass protection)ことが基本的な概念であることを、改訂にあたって再確認をした。すなわち、ごく少数に起こり得る個々の課題までもの解決を求めたものではなく、その場合は個別の対応になるという考え方である。また、ガイドラインとは唯一絶対の方法を示したものではなく、あくまで標準的な方法を提示するものであり、出来るだけ本ガイドラインに沿って実施されることが望まれるものであるが、それぞれの考え方による別の方法を排除するものでは当然ないことも再確認した。   その他にも、基本的には以下のような考え方は重要であることが再確認された。 ・対象となる医療関係者とは、ガイドラインでは、事務職・医療職・学生・ボランティア・委託業者(清掃員その他)を含めて受診患者と接触する可能性のある常勤・非常勤・派遣・アルバイト・実習生・指導教官等のすべてを含む。 ・医療関係者への予防接種は、自らの感染予防と他者ことに受診者や入院者への感染源とならないためのものであり、積極的に行うべきものではあるが、強制力を伴うようなものであってはならない。あくまでそれぞれの医療関係者がその必要性と重要性を理解した上での任意の接種である。 ・有害事象に対して特に注意を払う必要がある。不測の事態を出来るだけ避けるためには、既往歴、現病歴、家族歴などを含む問診の充実および接種前の健康状態確認のための診察、そして接種後の健康状態への注意が必要である。また予防接種を行うところでは、最低限の救急医療物品をそなえておく必要がある。なお万が一の重症副反応が発生した際には、定期接種ではないため国による救済の対象にはならないが、予防接種後副反応報告の厚生労働省への提出と、一般の医薬品による副作用発生時と同様、独立行政法人医薬品医療機器総合機構における審査制度に基づいた健康被害救済が適応される。   * 定期接種、任意接種にかかわらず、副反応と思われる重大な事象(ワクチンとの因果関係が必ずしも明確でない場合、いわゆる有害事象を含む)に遭遇した場合の届け出方法等:http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp250330-1.html ・費用負担に関しては、このガイドラインに明記すべき性格のものではなく、個々の医療機関の判断に任されるものではある。 ・新規採用などにあたっては、すでに予防接種を済ませてから就業させるようにすべきである。学生・実習生等の受入に当たっては、予め免疫を獲得しておくよう勧奨すべきである。また業務委託の業者に対しては、ことにB型肝炎などについては業務に当たる従事者に対してワクチン接種をするよう契約書類の中で明記するなどして、接種の徹底をはかることが望まれる。(以下略)
著者
大森 優子 松崎 晋一 中島 雅子 河井 利恵子 岡田 克之 桑島 信
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.319-325, 2016 (Released:2016-12-05)
参考文献数
20

活動性結核が院内で発生した場合には他者への感染拡大が重大な問題となる.2009年当院入院後に感染対策を施行されていない4名の患者から肺結核が診断され,約130人に接触者健診を実施した.この事例を機に60歳以上で喀痰培養を行った入院患者を対象に,抗酸菌検査の依頼がない検体について検査室で抗酸菌塗抹検査を追加し排菌結核患者のスクリーニングを行った.調査期間は2010年9月から2014年12月とした.追加した抗酸菌塗抹検査は2,646検体でありこのうち5検体で結核菌が検出された(全体の0.19%).また介入前後の塗抹陽性肺結核患者12人の比較を行い,抗酸菌塗抹検査を追加する介入によって接触者健診対象者が56人減少し,接触者健診を1人減少させるために要する追加費用は868円であり,接触者健診1人当たりの費用2,933円と比較して安価であった.スクリーニング検査により早期に結核を診断し感染曝露の危険性を低下させることは,結核の院内感染対策として非常に重要である.今回の結果より入院時および入院中の患者から提出されたすべての喀痰検体に抗酸菌塗抹検査を行うことが,活動性肺結核患者の早期発見さらには接触者健診数の減少につながる可能性が示唆された.一方入院後14日以上検体が提出されなかった症例もあり,できるだけ早期に検体が提出されるよう医師を対象とした啓発活動や診断サポート体制の整備も不可欠と考えられた.
著者
遠藤 史郎 徳田 浩一 八田 益充 國島 広之 猪俣 真也 石橋 令臣 新井 和明 具 芳明 青柳 哲史 山田 充啓 矢野 寿一 北川 美穂 平潟 洋一 賀来 満夫
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.50-56, 2012 (Released:2012-03-23)
参考文献数
16

2011年3月11日の東日本大震災に伴う宮城県名取市館腰避難所においてインフルエンザアウトブレイクが発生した.同避難所では200名の避難者が共同生活を営んでおり,40%が65歳以上の高齢者であった.初発例発生から5日目の4月8日当避難所の巡回診療を行っていた名取市医師会会長よりインフルエンザアウトブレイクに対する介入要請があり,対応策構築のために同避難所へ介入した.介入時既に,non-pharmaceutical interventions: NPIとして,発症者全員の隔離が行われていたが,隔離以外の手指衛生をはじめとするNPIは十分には行われていなかった.一方で,計22名への予防投与が行われていた.したがって,NPIを中心とした基本的対策の強化(ⅰ:マスク着用率の向上,ⅱ:手指衛生の適切な実施の啓発,ⅲ:換気の実施,ⅳ:有症状者の探知および発症者家族のモニタリング強化,ⅴ:発症者の隔離)を現場スタッフと確認し,一方,現場医師と予防投与は基本的対策を徹底したうえで,なお,感染が拡大した場合のみ考慮すべき対策であること,また,その範囲・適応などに関して協議した.4月13日,2度目の介入を行い新規発症者は18日の1人を最後に終息した.避難所におけるインフルエンザアウトブレイクは過去にも報告が少なく,初めての経験であった.予防投与はあくまで補助的な方策であり,アウトブレイクの規模や感染リスクを考慮し,さらにNPIの強化徹底を行った上で行うことが必要であると考えられた.
著者
藤澤 隆一 高橋 宏明 大関 京子 田中 由美子 奥住 捷子 増田 道明
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.183-188, 2014 (Released:2014-08-05)
参考文献数
8

医療現場における手袋の使用は,接触感染防止の対策上有効かつ簡便な方法として奨励されている.一方,手袋は手の汚染を完全に防止するものではなく,不適切な使用により微生物の伝搬につながる可能性がある.本研究では,医療現場において日常的に使用する手袋着用の手指衛生教育を目的とした新たな実習を試みた.2008~2011年度に微生物学実習を受講した医学部学生を対象とした.手袋着用前の手指の汚染除去法の違いにより,学生を4群に分けた.それぞれ手指の汚染除去を行った後,手袋を装着し30分間作業を行った.手袋装着前および作業前後の手指雑菌をスタンプ法にて採取・培養し,手指の衛生状態を評価した.コロニー数の集計結果から,手袋着用前の手洗い・手指消毒により,手袋装着作業時の手指雑菌数が有意に減少した.芽胞形成菌では,クロルヘキシジングルコン酸塩スクラブを用いた手洗いが擦式アルコール製剤による手指消毒よりも優れていた.また,手袋を外した後の手指消毒は効果的であることが示された.実習の対象となる学生は年度により異なるが,得られた結果に年度間のバラツキは認められなかった.この方法は,手袋使用時の手指消毒のタイミングとその効果が視覚的に得られ,手指衛生に関する実践的な認識に寄与すると考えられた.
著者
岡本 一毅 奥西 淳二 渡邉 幸彦 西原 豊 池田 雅裕
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.68-72, 2010 (Released:2010-06-05)
参考文献数
12
被引用文献数
2 1

現在,アルコールベースの消毒薬は手指衛生において重要な役割を担っている.しかし,臨床的なニーズを充足できていない点も有している.その一つとして,近年その感染拡大が社会問題となっているノロウイルスなどのノンエンベロープウイルスに対する薬効が挙げられる.今回,我々はアルコールに有機酸と亜鉛化合物を組み合わせた処方を用いノンエンベロープウイルスに対する薬効(in vitro)と皮膚刺激性(in vivo)に着目した検討を行った.アルコールに有機酸を添加した処方では,ネコカリシウイルスに対して接触時間30秒以内に4 log以上の不活化効果を示したが,アデノウイルスに対しては消毒用エタノールと同程度の薬効であった.一方,アルコールに有機酸と亜鉛化合物を添加した場合,ネコカリシウイルスとアデノウイルスの両ウイルスに対して30秒以内に4 log以上の不活化効果を示し,消毒用エタノールよりも優れた薬効を示した.また,ウサギ皮膚を用いてこれら処方の皮膚刺激性試験を実施した結果,アルコールに有機酸と亜鉛化合物を組み合わせた場合,刺激をほとんど示さないことが明らかとなった.このように,アルコールに有機酸と亜鉛化合物を組み合わせた処方は,ノンエンベロープウイルスに対して従来にない有効性を示すと共に,スキンケアの観点から皮膚への刺激にも配慮した新しいアルコールベースの消毒薬を創出できる可能性が示唆された.
著者
小林 由佳 吉澤 重克 金子 誠二 清水 敏克
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.158-164, 2016 (Released:2016-08-18)
参考文献数
10
被引用文献数
2 1

現在,消毒剤として広く使用されている次亜塩素酸ナトリウムに比して,人体への影響が少なく,有機物存在下でも殺菌効果が期待できる亜塩素酸水について,Escherichia coli (E. coli)の殺菌効果とネコカリチウイルス(feline calicivirus: FCV)の不活化効果およびその濃度と効果との関係を検証した.  亜塩素酸水は有機物としてのウシ血清アルブミン(bovine serum albumin: BSA)存在下でも,殺菌・不活化効果があり,この時の遊離塩素濃度と殺菌・不活化効果に高い相関性が認められた.  さらに,亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムを,有機物としてのBSAと接触させ,接触前後の遊離塩素濃度の推移並びに溶液に対するE. coliの殺菌効果およびFCVの不活化効果を検討した.  亜塩素酸水のBSA接触後の遊離塩素濃度は,30分以上の接触時間でほぼ一定となり,残存遊離塩素は40~70%であった.高濃度の次亜塩素酸ナトリウム溶液でもBSAと30分間接触後の遊離塩素は激減した.  亜塩素酸水はBSA接触後,E. coliおよびFCVに対する有効な殺菌効果およびウイルス不活化効果が確認されたが,次亜塩素酸ナトリウムではそれらが認められなかった.  亜塩素酸水は次亜塩素酸ナトリウムと比較して有機物との共存下における遊離塩素濃度が高く,有機物存在下でも消毒効果が期待できる薬剤であると考えられた.
著者
井上 卓
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.244-249, 2009 (Released:2009-10-10)
参考文献数
14

当院常勤医師が発症した水痘に対し医療関連感染対策を行った.本人は陰圧個室に入院とし,アシクロビルの点滴治療にて軽快退院し,全発疹が痂皮化するまで自宅待機とした.医師が濃厚に接触したと考えられた院内職員116名および当該科入院患者44名の計160名は水痘帯状疱疹IgG抗体価を検査し,結果がでるまで予定手術は延期とした.感受性者(抗体価4.0未満)は患者2名と職員2名であった.2名の患者に対しては,患者と家族に事態を説明した上で個室管理とし,結果判明日から7日間アシクロビル40 mg/kg/日を予防内服してもらった.2名の職員は結果判明日から接触後21日目まで自宅待機とし,かつ,7日間アシクロビル40 mg/kg/日を予防内服させた.すでに退院した患者と外来患者に対しては電話で事態を説明し,急な発熱,発疹を認めた場合,当院を受診するようにお願いした.感受性者4名を含め,二次発症は認められなかった.   今回の事例を経験し,全職員のウイルス抗体価の測定をしておき,感受性者に対しては可能な限りワクチン対策をとること,職員の感染症に対する意識を高めることが重要であると考えられた.
著者
三村 敬司 藤岡 高弘 三丸 敦洋
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.277-280, 2010 (Released:2010-12-05)
参考文献数
9
被引用文献数
7 3

陸上自衛隊員を対象に二酸化塩素放出薬のインフルエンザ様疾患に対する予防効果を検討した.低濃度の二酸化塩素放出薬介入群と非介入群を設定し,介入した期間のインフルエンザ様症状の有無やワクチン接種の有無などについて検討した.その結果,二酸化塩素放出薬の介入でインフルエンザ様疾患の患者数の有意な減少を認め,二酸化塩素放出薬がインフルエンザ様疾患の発生を減じる可能性が示唆された.
著者
山下 ひろ子 小山田 玲子 奥 直子 西村 正治 石黒 信久
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.210-214, 2011 (Released:2011-10-05)
参考文献数
7
被引用文献数
1

当院職員を対象に,麻疹,風疹の感染防御に十分な抗体価を有していない者(麻疹PA抗体価128倍未満,風疹HI抗体価16倍未満)に麻疹,風疹ワクチン接種を行った.麻疹ワクチン接種後に128倍以上の抗体価を獲得したのは123名中92名(74.8%)で,256倍以上の抗体価を獲得したのは123名中70名(56.9%)であった.風疹ワクチン接種後に16倍以上の抗体価を獲得したのは130名中118名(90.8%)で,32倍以上の抗体価を獲得したのは130名中101名(77.7%)であった.幼児に麻疹,風疹ワクチンを接種した場合の抗体陽転率は95%以上とされているが,医療従事者に麻疹,風疹ワクチンを接種して(単に抗体陽転ではなく)感染防御に有効とされるレベルの抗体獲得を期待する場合,接種後の抗体獲得率は95%よりも低いことに留意するべきである.
著者
鈴木 広道 石丸 直人 木下 賢輔 中澤 一弘 大西 尚 木南 佐織 多留 賀功 石川 博一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.265-272, 2014 (Released:2014-10-05)
参考文献数
30

白衣・聴診器は多剤耐性菌による汚染源となるが,白衣の交換頻度,聴診器の消毒の有無に関して我が国では実態調査は行われていない.今回,国内の4病院において入院診療に携わる常勤医を対象に2013年7~8月の期間において,アンケート調査を実施した.対象医師314名中312名より協力が得られ,有効回答が得られた308名(98%)において解析を行った.白衣の交換頻度は約半数(48%)で週1回程度であり,毎日白衣を交換している医師は23名(7.5%)であった.聴診器膜面のふき取りは162名(53%)で実施されていたが,患者1人毎の診察でふき取りを行っている医師はその内37名(23%)であった.背景因子との比較において,医師経験年数(10年以上)が白衣の交換頻度の低下と独立して関連を認めていた(p=0.04).男性医師において聴診器膜面の消毒が行われる頻度が低い事が示唆された(p=0.01).いずれも施設間の差は独立因子としては認めなかった.多剤耐性菌の抑制には,毎日の白衣交換,患者毎の聴診器膜面消毒が重要であるが,本研究において適切な白衣交換,聴診器膜面消毒が行われている割合は少数であることが示された.今回のデータを基に対象施設における改善を図ると共に,大規模な実態調査を行い,白衣交換・聴診器膜面の消毒が適切に行われていない要因をより明らかにする必要がある.
著者
小野寺 直人 櫻井 滋 吉田 優 小林 誠一郎 高橋 勝雄
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.58-65, 2008 (Released:2009-01-14)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

岩手医科大学附属病院(以下,当院)では院内感染予防のための新たな支援策として,実施すべき予防策を指標色制定(color coding)により視覚的に周知させることを意図した,当院独自の「感染経路別ゾーニング・システム」を2005年4月から導入した.   本論文では,システム導入の経緯を示すとともに,新たな支援策が各種の感染制御指標に及ぼす影響について,1) 擦式手指消毒薬および2) 医療用手袋の使用量,3) MRSAの発生届出件数,4) 入院患者10,000人当たりのMRSA分離報告件数,5) 院内のアウトブレイク疑い事例に対するICTの介入件数の5指標を,システム導入前(2004年度)と導入期(2005年度),導入後(2006年度)の各年度で比較した.   調査の結果,導入前,導入期,導入後でそれぞれ,1) 擦式手指消毒薬の月平均総使用量は242L, 250L, 235Lと差が認められず,2) 医療用手袋の月平均使用量は261,700枚,338,000枚,410,100枚で導入期・導入後に増加,3) MRSA月平均発生届出件数は23.6±4.3, 20.3±5.5, 19.8±4.6と導入後有意に減少,4) MRSA月平均分離報告件数は21.1±5.1, 14.5±3.9, 13.6±3.1で導入期・導入後に有意に減少,5) 年間ICTの介入件数は7件,5件,3件と減少した.以上から「感染経路別ゾーニング・システム」の導入は院内感染対策の充実,特に大多数を占める接触感染の予防支援策として有効と考えられた.
著者
白石 正
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.224-229, 2016 (Released:2016-10-05)
参考文献数
24

消毒薬はいつ頃から使用され,どのような経緯で現在の感染防止に役立っているか,その変遷を歴史から考察した.1840年代にクロール石灰による手指衛生を始めとし,その後,石炭酸,昇汞の使用へと変わっていった.1870年後半に感染症は微生物が原因であることが判明して以来,消毒薬の重要性が広く認識されるようになる.1900年代には合成技術の進歩から多くの消毒薬が合成され,現在でも使用されている消毒薬が登場する.消毒薬は異なっても接触感染防止を唱えたSemmelweis IPやLister Jの意思は現在でも引き継がれている.本稿においては,手指衛生,環境消毒および器具消毒の方法についてその変遷を記述する.