著者
吉良 洋輔
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.281-297, 2018 (Released:2019-09-28)
参考文献数
31

社会的ジレンマの解決策として,費用を伴う懲罰と褒賞のどちらが優れているのかという議論がある.その一方で,長期的な社会的関係と懲罰・褒賞が非効率な規範を維持する,という指摘もある.本稿では,繰り返しゲームの枠組みを用いて,懲罰と褒賞が社会的ジレンマにおける協力と非効率的な規範のそれぞれを維持する効果を比較した.この分析では,均衡を維持できる最大の割引因子の値を比較することで,社会関係の長期性が薄い場合でも均衡が維持されるか否かを確認した.その結果,懲罰と褒賞の両方が,社会的ジレンマにおける協力と非効率的な規範の両方をより強固に維持する効果を持つが,懲罰のほうがどちらの場合にも顕著な効果を持つことが分かった.これは,懲罰を怠る誘引は懲罰を行っているときに発生する一方で,他者への褒賞を怠る誘引は協力行動など規範的行為を行っているときと同時に発生するためである.
著者
吉良 洋輔
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.107-124, 2013 (Released:2014-09-01)
参考文献数
21
被引用文献数
2

社会的ジレンマは,プレイヤー同士でコミュニケーションを行うことによって解決されやすくなることが知られている.しかし,このメカニズムを数理モデルによって説明することは,未だ行われていない.そこで本稿では,無限繰り返しN人囚人のジレンマ(INPD)ゲームの均衡精緻化を行う.サブゲーム完全ナッシュ均衡では,1人のプレイヤーが戦略を変更する逸脱しか考慮されていない.そのために,INPDにはパレート劣位な均衡が多数存在する.そこで本稿では,プレイヤー同士がコミュニケーションを行うことによって,複数人が同時に戦略変更を行う「結託による逸脱」が可能であることを仮定した.その結果,大多数のプレイヤーが非協力を行うナッシュ均衡は不安定となる一方,ある条件を満たせば全員が協力を行う均衡は頑健であり続けることが分かった.得られた知見は次の2点である.1点目は,社会的ジレンマを解決する上で,長期的関係とコミュニケーションは異なる機能を持つことである.2点目は,より自由なコミュニケーションと行動の変更が認められている状況の方が,社会的ジレンマが解決されやすい場合もある,ということである.