著者
吉見 崇
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究は、中華民国国民政府(または中華民国政府)が統治した1928年から1949年、特に憲政の実施が具体的に議論された抗日戦争期から戦後にかけての同政府による「司法改革」の考察を通じて、当該時期の政治システムにおける「司法権」の位置づけ、さらには近現代中国における「司法権」のあり方を明らかにすることを目的として行った。近年の本研究と関連する先行研究を参照すると、憲政実施といういわゆる民主化実施の過程のなかで、「司法権」が違憲審査制といった制度によって、強大な行政権の暴走を抑止し、人々の自由を守ろうとしたという観点から、考察されている。むろんこのような側面は「司法権」の重要な一面であるが、「司法権」が政治システムのなかでどのような役割を果たしたのかを総合的に把握するには至っていない。すなわち、「司法権」は国家権力なのであり、それによった司法制度についても政治制度として政治史のなかで考察していく必要がある。本研究はこれまでの研究を経て、このような観点を強調するとともに、その結果として中華民国国民政府(または中華民国政府)の政治システムの捉え方を再考し、現在の中国や台湾における「司法権」のあり方を歴史的に考察することへとつなげることができるだろう。本研究が行った具体的な内容は、主に以下の通りである。・当該時期の司法行政について、政策決定過程の様子を明らかにするため、中国国民党、そして国防最高委員会、国民政府、行政院、司法行政部、立法院、国民参政会、司法院といった様々な政策参与機関による議論、提案などを考察した。・司法行政政策が決定、実施されていく政治的、外交的背景はどのようなものであったのかを明らかにするため、当該時期の憲政と政治腐敗の問題やアメリカ、イギリスとの不平等条約撤廃などについて考察した。上記のような本研究の観点による具体的内容の考察を、今後も継続していきたいと考えている。