著者
吉野 由起
出版者
三重大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本課題はロマン派期文芸における妖精表象の実態をスコットおよびホッグの作品群に焦点をあて検証した。両者による土着の口承伝統を巡る論考や、詩や小説での妖精の描出例は数多く多岐に亘り、一見懐古的な様相の背後に隠された先鋭的な近代性、独創性と実験性に溢れ、同時代英国文壇で稀有な存在感を放ったと考えられる。これらの例の検証の結果、両者の妖精譚は同時代現実世界に向けた眼差しの体現であり、啓蒙主義の開花とロマン派期文芸の独特の展開をみたスコットランドにおける両潮流のせめぎ合いの顕現であり、口承伝統と古典叙事詩の借用を折衷した神話創造の試みで、両者の文学性に密接に関連するという仮説の裏付けを得た。