- 著者
-
吉野 貴順
- 出版者
- 昭和大学学士会
- 雑誌
- 昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
- 巻号頁・発行日
- vol.57, no.5, pp.450-459, 1997-10-28 (Released:2010-09-09)
- 参考文献数
- 28
本研究の目的は, 間欠的に繰り返される短時間超最大運動のパフォーマンスに及ぼす重炭酸塩摂取の影響を検証し, あわせて血液における酸緩衝能力の低下と運動パフォーマンスとの関連性について検討することであった.400mlの水で溶解した0.2g/kgのNaHCO3 (NaHCO3試行) あるいは1gのNaCl (コントロール試行) 液摂取の1時間後, 6名の大学アイスホッケー選手が, 4分30秒間の休息期を挟んで, 30秒間のウィンゲート・テストを7回繰り返す実験運動を遂行した.運動パフォーマンス関連の変数は, 動輪1/2回転毎の電気信号から算出した.また, 肘前静脈より定期的に採取した血液から, pH, HCO3-および乳酸濃度を分析した.なお, 被験者は各試行を, 7日の間隔をおいて, クロス・オーバー法により行った.NaHCO3摂取の1時間後, pHおよびHCO3-濃度は摂取前およびコントロール試行と比較して有意に上昇した.NaHCO3試行における実験運動期中のpHおよびHCO3-濃度は, コントロール試行と比較して, より高い値で維持される傾向にあった.合計7回の運動で発揮された平均パワー (7.10±0.60vs7.70±0.28W/kg) は, コントロール試行と比較して, NaHCO3試行で有意に大きかった.これは, 主にNaHCO3試行における4, 6, 7回目の運動時の平均パワー, および5~7回目の運動時のピーク・パワーが, コントロール試行時の値を有意に上回ったことに由来する結果であった.一方, 各被験者ごとの△HCO3-濃度と△平均パワー, ならびに被験者全体としてみたpHおよびHCO3-濃度の減少量と平均パワーの減少量との間には, それぞれ統計的に有意な相関関係が観察された.また, それらの関係は指数関数的であり, pHおよびHCO3-濃度が, それぞれ0.20および15.0mM程度低下した付近からの, 平均パワーの減少が加速的に大きくなる傾向が観察された.両試行を比較すると, 血液pHおよびHCO3-濃度の, このレベルへの到達はNaHCO3試行において遅延されていた.そして, このことがNaHCO3試行における, 相対的により高いパワーでのATP供給を可能にし, 結果として実験運動期後半のパフォーマンスを有意に高めたものと考察された.以上のことから, 血液pHが7.20以下にまで低下するような状況では, 運動パフォーマンスの加速的な減少が生じることから, 間欠的に繰り返される短時間超最大運動においては, 運動前に重炭酸塩を摂取し, 血液における酸緩衝能力をより高いレベルに維持することによって, 運動パフォーマンスの向上がもたらされると結論された.