著者
名久井 文明
出版者
一般社団法人 日本考古学協会
雑誌
日本考古学 (ISSN:13408488)
巻号頁・発行日
vol.13, no.22, pp.71-93, 2006-11-01 (Released:2009-02-16)
参考文献数
105

縄紋時代以降の遺跡から発見されるトチの「種皮付き子葉」や「剥き身子葉」、および種皮の細、大破片は、当時のトチ利用の実態を理解するための手掛かりが民俗例の中に求められることを示している。民俗例のトチの「あく抜き」方式と,そのために前処理されるトチの態様との間に認められる対応関係に基づくと,遺跡から発掘されるトチ種皮の細片は,トチ利用者が「発酵系」「水晒し系」「はな(澱粉)取り系」の「あく抜き」方式で「あく」を抜いていたことを窺わせる。各方式に用いられる容器の物理的特性に着目すると,「煮る」ことを必要としない各「あく抜き」方式は旧石器時代に開発されていたと推察される。