著者
稲崎 倫子 板持 雅恵 名古屋 真弓 佐賀 由美子 稲畑 良 滝澤 剛則 小渕 正次
出版者
日本食品微生物学会
雑誌
日本食品微生物学会雑誌 (ISSN:13408267)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.81-87, 2018-06-30 (Released:2018-09-20)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

2013年4月に富山県内で発生し,行政検査において原因未特定であった食中毒疑い事例の有症者検体について,次世代シークエンサーを用いたメタゲノム解析により病原体遺伝子の検索を試みた.その結果,すべての検体からSaV GV.2のリードが検出された.当衛生研究所で実施しているリアルタイムRT-PCR法に用いるプライマーおよびプローブの塩基配列を参照株(NGY-1株)と比較したところ,その結合部位にミスマッチがみられた.そこで,NGY-1株に特異的なプライマーを作製してnested RT-PCR法により再検索したところ,すべての検体からSaV GV.2の遺伝子が検出された.PCR増幅産物の塩基配列は検体間で100%一致し,NGY-1株と99.8%相同であった.したがって,本事例はSaV GV.2が原因であったと断定された.さらに,2010~2014年のウイルス不検出の胃腸炎症例検体についてSaV GV.2の検索を行ったが,ウイルスは検出されなかった.しかしながら,2010~2014年に県内で採取した下水流入水からSaV GV.2の検出を試みたところ,本事例の発生と同時期にNGY-1様株が検出されたことから,不顕性感染等による本ウイルスの浸淫が事例発生につながった可能性が示唆された.以上から,原因不明の集団胃腸炎事例の病原体検索にNGSによるメタゲノム解析が有用であることが示された.