著者
向井 泰二郎 人見 一彦
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.311-315, 2000-12-25

遺産相続を契機として, 被害関係, 被毒, 対話性幻聴, 宗教的実態的意識性, 「霊」あるいは「犬」の憑依状態を主症状とした遅発性精神分裂病の一例を報告した.被害関係, 被毒, 対話性幻聴による不安の中で, 「霊」が乗り移り, さらには被害関係, 被毒, 対話性幻聴による不安状態を救うかのように, 願望充足的に実態的意識性として「氏神」が体験され, この「氏神」によって守られるといった宗教的色彩のある病的体験へと変化した.ついで「犬の憑依」を体験し, 犬に憑依することにより「氏神」に祈りをささげるといった宗教儀式を毎日行うことによって, 妄想世界と現実世界との二重記帳を完成させ, 不安は軽減し精神状態は安定した.本症例を通して, 精神分裂病者の宗教的体験, 実態的意識性, 憑依状態への症状変遷とその精神病理学的意味について考察した.さらに本症例に見られた憑依状態に基づく宗教儀式を精神病理学的および民俗学的に考察することにより, 日本人の無意識に潜む古代の心性に触れた.
著者
向井 泰二郎 花田 雅憲
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.213-217, 1992-03-25

Treatment with paradoxical intention for two cases of anthropophobia was discussed. Humour can reveal psychological symptoms of anthropophobia caused by the automatization or mechanization of humanity. Paradoxical intention used the humour of man in the points of automatization or mechanization of humanity. This paradoxical intention may be very useful for treatment of anthropophobia.
著者
山口 健也 向井 泰二郎
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.55-65, 2001-04-25

うつ病の予後に影響を及ぼす因子としては, 発症時の症状, 身体的因子, 心理的因子, 社会的因子などの諸要素が考えられる.このような因子と予後の関連を, 外来で対応可能な軽症から中等症のうつ病患者について調べた.初診時の症状を包括的精神病理学尺度を用いて評価し, 身体的因子, 心理的因子, 社会的因子, 治療経過を説明変数とし, 予後を目的変数として, 多変量解析である林の数量化理論II類を用いて検討した.対象は, 近畿大学医学部付属病院精神神経科外来にて, 1990年11月19日から1995年5月1日までの期間に, DSMIV診断基準(diagnostic and statistical manual of mental disorders fourth edition)にて, うつ病性障害のうち, 大うつ病性障害-単一エピソード(code : 296.2), 大うつ病性障害-反復性(code : 296.3), 気分変調性障害(code : 300.4)と診断されたもので, 1年の経過を追跡しえた, 男性22名, 女性23名, 合計45名, 平均年齢50.9歳±15.3のうつ病患者であった.その結果, 性別, 年齢, 前医の有無はほとんど影響がなく, 身体合併症は難治例と同様に予後の悪さの指標となることがわかった.薬物療法との関連からは, 睡眠薬, 抗うつ剤の使用が良かった.sulpiride, 抗不安薬も弱いながらも効果があった.精神症状と予後の関連では, 患者本人がはっきりと自覚しやすい, あるいは苦しさが前景にでる症状ほど治りやすいと考えられた.対人関係の観点からは, 主治医との関係及び家族関係が良好なほど予後は良いと考えられた.うつ病の治療においては, 薬物療法, ついで精神療法さらには家族による環境的配慮が重要であると考えられた.判別的中点は-0.1417,判別的中率は91.1%であり相関比は0.7463であった.