著者
真鍋 幸嗣 花田 雅憲 上石 弘
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.165-169, 2000-12-25

性同一性障害患者に対して性別再判定手術(性転換手術)が正当な医療行為として国内で初めて行われたのを契機に, 近畿大学医学部附属病院精神神経科外来においても性同一性障害患者が受診するケースが増加している.今回, 我々は外来受診をした性同一性障害患者30名をMTF(male to female transsexual)とFTM(female to male transsexual)とに分類し, それぞれの臨床的特徴を検討した.個々の症例に対して, 初診時年齢, 職業, 子供の頃の遊び, 性別違和の病歴, 性的指向, 不登校の既往, 自傷または自殺企図の経験, 内分泌治療の有無, 外科的治療の有無を聴取し比較検討行った結果, 以下のことが考えられた.・MTF(1)社会適応の悪さが目立つ(2)polysurgeryの傾向がある・FTM(1)発症が比較的早期(2)性自認に揺るぎがないこういった結果を踏まえ, 性同一性障害患者の診断, 治療を行うには性差を理解した上で判断, 対応する必要があるといえる.
著者
丹羽 めぐみ 大森 秀之 人見 一彦
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.45-55, 2007-03

当院の性同一性障害専門外来に来院した青年期女性の性同一性障害の2症例について,ロールシャッハ・テストとHTPPの人物画を通して,性同一性を中心にその心理的特性を検討した.結果,2症例の共通点は1.性別の同一化が曖昧なために思春期に身体変化の衝撃を大きく受けており,身体の生々しさを受け入れられない,2.母親が同性のモデルになり難く,身近に性同一性の方向性や目標の手がかりとなる対象を見つけ難い,3.そのような性同一性が不安定な状態で性同一性障害という概念に同一化することで,精神的な安定がもたらされている.一方異なる点は,同性と異性への同一化の程度であった.
著者
中尾 照逸 大尾 充剛 内田 寿博 塚本 義貴 佐伯 裕司
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.17-19, 2004-04-25
被引用文献数
2

症例は26歳, 男性. 夕食にコンニャクを食べ, 翌日の正午から腹痛が出現. 翌々日の早朝から嘔気, 嘔吐を繰り返したため当科を受診した. 腹部所見では腸雑音は減弱しており, 腹部単純レントゲン検査で小腸ガス像を認め, 腹部CT所見でも腸液が充満, 拡張した小腸を認めたがイレウスの原因は確定できなかった. 内ヘルニアによる絞扼性イレウスも否定できないため, 同日開腹術を施行した. 回腸末端より70cm口側に Meckel 憩室を認め, 約4cm大のコンニャクが憩室内に1個とその口側の回腸内に長径2.5cmから4cm大のコンニャク片が10個充満していた. Meckel 憩室を楔状切除し, この切開部より全てのコンニャク片を除去した. イレウス状態の患者の診察にあたっては, 手術歴を確認する以外に食餌性イレウスの可能性も考慮し, 食事内容やそしゃく状況に関する丁寧な問診が重要であると考えられた.
著者
江川 哲雄
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.259-268, 2003-12-25

1998年8月より当院メンタルヘルス科においても性同一性障害患者を対象とした専門外来を開設した.当初より近畿圏を中心として数多くの患者が来院し,その診察・鑑別診断を進めるにあたって心理検査を施行した.今回,HTPP検査について120人(MTF56名,FTM64名)の確定診断のついた性同一性障害患者における検討を行った.特に性別に関連した反応についての分析を行い,MTF及びFTM間・中核群及び周辺群間における差異について精査した.その結果,各群間において性別反応に特定の項目について有意差が見い出され,HTPP検査の診断上における有用性,及びMTF周辺群における情緒的不安定さ,性的迎合性の低さが明らかになった.
著者
大森 秀之
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.31-37, 2007-03

近畿大学医学部附属病院メンタルヘルス科性同一性障害専門外来を受診した患者について中核群と周辺群(非中核群)に分類し,生活歴および生育歴を中心に検討した.中核群と周辺群の全体の比較では,家庭の問題,性的な問題および教育の問題で有意な差が認められた.中核群と周辺群の比較で生物学的女性では家庭の問題および性的な問題で有意な差が認められた.周辺群の生物学的男性と生物学的女性の比較では,性の問題といじめで有意な差が認められた.
著者
杉山 静征 野田 裕司 山口 真由 土井 修市 吉村 昌雄 池田 義照
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.233-237, 1980-09-25

A medicolegal autopsy report is made of a 30-year-old man who suddenly died from a spontaneous heart perforation after collision with radio lose control airplane on the chest. The perforation was located on the right ventricle, but the heart sac was intact. The cause of this death was diagnosed as so-called "cardiac tamponade".
著者
田添 裕康 人見 一彦
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.515-523, 1991-09-25

We report psychopathology in a chronic schizophrenic who liked to paint and draw. He firet manifested the disease at the age of 27 and committed suicide at the age of 48. From his work of art made from 30 to 48 years of age, We analyzed the relationship between his psychopathology and the artwork he had done from the age of 30 until his death. While he was not in a psychotic state, his drawings were very meticuious but not creative. While he was in a psychotic state, by contrast, though the patient was distraught, his awork was very creative. Drawing was for him an effective method of alleviating the pain of psychosis. He attempted to understand himself and observe himself objectively by drawing his own portrait and making himself into a piece of art. He ultimately failed to objectively accept that he had psychosis, and he committed suicide.
著者
森本 昌宏
出版者
近畿大学医学会
雑誌
近畿大学医学雑誌 = Medical journal of Kinki University (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3-4, pp.151-156, 2010-12-01

[抄録] 肩こりは症状名であり,現在でも他の疾患に付随する症状として扱われることが多いことから,医師が肩こりの診療に積極的に取り組んでいるとは言えない状況にある.肩こりの明確な定義がないこと,主観による判断による部分が多いこと,その病因も正確には分析されていないことなどがその原因と考えられる.例えば,症候性肩こりの原因である頸椎疾患をとっても,神経根症がその主体であるとする報告や,加齢に伴った椎間板や椎間関節の変性が主体であるとする報告があり,一定の見解を得るには致っていない.さらに,治療法に関しても randomized controlled traials による検討が蓄積されている訳ではない. このような現状からは,肩こりを単に症状として扱うのではなく,基礎疾患の検索を含めて正確な診断を行うこと,治療にあたってはより適切な治療法を選択することが要求される.また,今後はevidence based medicineの実践による基礎研究,研究デザインの構築が期待される.
著者
松田 外志朗 栗原 敏修 浅沼 博司 中江 晴彦 冨吉 浩雅 森田 正則 嶋津 岳士 平出 敦
出版者
近畿大学医学会
雑誌
近畿大学医学雑誌 = Medical journal of Kinki University (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1-2, pp.71-79, 2012-03-01

[抄録] 糖尿病患者の増加及び高齢化に伴い, 低血糖症例は増加している.重症症例は, 意識障害などのため他者の援助を必要とし, 救急搬送されることが多い.低血糖症例にいかに対応するかは救急医療の現場において重要な問題である.近畿大学医学部附属病院では, 低血糖症例のほとんどが救急診療部門(ER)において初期治療がなされている.当院ERにおいて, 2008年4月から2010年3月までの2年間で84回の低血糖によるER受診があった.意識障害あるいは意識消失を主訴とする症例が多く, 高齢者の割合も高い.内分泌代謝内科で治療されている症例は半数以下であり, 糖尿病以外の疾患のために他の診療科かかりつけとなっている症例が多かった.低血糖症例に対し適切な初期診療を行うために, 当院における低血糖症例の特徴を検討し, 初期診療において必要な情報について解説する.また, 初期診療において, 注意を要する症例として, 低血糖が10時間以上遷延した7症例, 糖尿病治療を受けていなかった非糖尿病の12症例をとりあげる.さらに, 患者の高齢化や社会的な要因から留意すべき点について考察する.
著者
中森 康浩 大澤 亨 二木 元典
出版者
近畿大学医学会
雑誌
近畿大学医学雑誌 = Medical Journal of Kindai University (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1-2, pp.21-24, 2017-06-20

[抄録] 今回,我々はオキシドールを浣腸し急性出血性大腸炎を発症した1例を経験した.症例は43歳男性.以前よりグリセリン浣腸を習慣的に使用していたが,今回誤ってオキシドールを浣腸し,その後より血便,腹痛,倦怠感を認めた.近医を受診し直腸炎の診断にて精査加療目的に当科紹介となる.大腸内視鏡にて直腸から連続する粘膜浮腫像,炎症像を認めた.CTでは直腸からS状結腸にかけて浮腫状の腫張及び周囲脂肪織の濃度上昇を認め,口側腸管との口径差を認めた.明かなfree air,腹水貯留は認められなかった.オキシドールの浣腸による急性出血性大腸炎の診断にて絶飲食,ステロイド注腸,点滴による保存的加療を開始した.発症4日目より飲水を開始.発症7日目の大腸内視鏡では炎症像が残存するも症状は消失しており,経口摂取開始後も症状再燃無く,発症14日目に退院となった.オキシドールは容易に入手できるが誤用により重篤な症状を呈するためその危険性を認識しておく必要があると考えられた.
著者
森本 昌宏
出版者
近畿大学医学会
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.151-156, 2010-12
被引用文献数
2

[抄録] 肩こりは症状名であり,現在でも他の疾患に付随する症状として扱われることが多いことから,医師が肩こりの診療に積極的に取り組んでいるとは言えない状況にある.肩こりの明確な定義がないこと,主観による判断による部分が多いこと,その病因も正確には分析されていないことなどがその原因と考えられる.例えば,症候性肩こりの原因である頸椎疾患をとっても,神経根症がその主体であるとする報告や,加齢に伴った椎間板や椎間関節の変性が主体であるとする報告があり,一定の見解を得るには致っていない.さらに,治療法に関しても randomized controlled traials による検討が蓄積されている訳ではない. このような現状からは,肩こりを単に症状として扱うのではなく,基礎疾患の検索を含めて正確な診断を行うこと,治療にあたってはより適切な治療法を選択することが要求される.また,今後はevidence based medicineの実践による基礎研究,研究デザインの構築が期待される.
著者
畑 泰子 秋山 浩之 石川 欽司
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.345-348, 2001-12-25
被引用文献数
1

症例は19歳男性で, 潰瘍性大腸炎のため副腎皮質ステロイド剤投与中に腰部激痛を訴え入院となった.入院翌日に小水疱が出現したため, 水痘疹と考えアシクロビルの投与を開始し, 副腎皮質ステロイド剤を減量した.しかし, 入院後3日目には血小板が低下, FDP上昇, GOT, GPTが上昇し, 播種性血管内凝固症候群(DIC)と肝炎を併発した重症水痘感染と思われた.メシル酸ナファモスタットとヘパリンナトリウムおよびアンチトロンビンIII製剤の投与を開始し, 濃厚血小板輸血も行った.これにより血小板数, 凝固能ともに改善し, GOT, GPTも低下した.また副腎皮質ステロイド剤を減量した後も排便回数の増加や血便は見られなかった.副腎皮質ステロイド剤使用中に水痘などの感染症に罹患した際には重症化することがあり, ステロイド〓瘡により水痘疹の発見が遅れ, 早期に治療が開始出来ないとさらに予後不良となることがあるので留意を要する.
著者
井碩 孝博 池田 優
出版者
近畿大学医学会
雑誌
近畿大学医学雑誌 = Medical Journal of Kindai University (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.115-124, 2017-12-20

[抄録]本邦では,近年寄生虫疾患は稀な疾患となっているが,近年のコールドチェーンの発達,グルメ志向そして海外旅行者の増加に伴って海産性の寄生虫症の増加が認められる.小児においても同様の傾向にあり,臨床において注意すべき疾患となっている.今回我々は,日本海裂頭条虫症の4歳男児例を経験した.肛門からの虫体の排出を主訴として来院し,虫体検査の結果,日本海裂頭条虫の成熟受胎片節であることが確認され,駆虫目的で入院となった.検査所見からビタミンB12の減少・貧血は認められなかった.プラジカンテル及び下剤の1回内服により虫体の排出を認め,頭節の排出も確認でき,プラジカンテルによる副作用は認められず,有効で安全であった.その後の虫卵検査は陰性であり,6か月の経過観察中虫体の排出も認めず駆虫できたものと考えられた.プレロセルコイドが寄生している第2中間宿主であるサケ属魚類の生食歴は確認できなかったが,最近の子供の食事の嗜好からスーパーマーケットや回転ずしでの,サケ属魚類からの感染が考えられた.近年プレロセルコイドの感染がウラル山脈以東のロシア各地の沿岸で確認され,2017年にアラスカ湾から北太平洋沿岸でプレロセルコイドの感染が報告され,これらの地域が日本海裂頭条虫の感染源ではないかと考えられる.今回,本症例の考察に加え,日本海裂頭条虫の2009年以来の小児症例,生活環,治療,鑑別,感染源の最新の知見を網羅した.
著者
平瀬 主税 佐野 圭吾 福岡 和也
出版者
近畿大学医学会
雑誌
近畿大学医学雑誌 = Medical Journal of Kindai University (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.13-31, 2021-06-25

[抄録]抗悪性腫瘍薬は,悪性腫瘍病変の増大や転移の抑制,又は延命,症状コントロール等の何らかの臨床的有用性を悪性腫瘍患者において示す医薬品を指し,低分子化合物,抗体,ワクチン,腫瘍溶解性ウイルス,キメラ抗原受容体T細胞等,多様なものが含まれる.近年,相次いで画期的な抗悪性腫瘍薬が登場し,多くの悪性腫瘍の治療においてパラダイムシフトを起こしている.抗悪性腫瘍薬を含む医薬品の開発では,基礎研究の着手から,規制当局における審査,厚生労働大臣による承認までに,長い年月と莫大な研究開発費が必要となる.そのため,開発企業は薬事上の特別措置を利用し,「より良い薬をより早く」実用化するべく工夫を凝らす.一方で,抗悪性腫瘍薬の臨床的有用性を審査する立場にある規制当局では,その判断の誤りが患者の生命・健康に直結することがあるため,様々なピットフォールに注意しつつ,慎重な姿勢で審査に臨む.欧米と比較し,悪性腫瘍の患者数が多くない我が国では,抗悪性腫瘍薬の開発における様々な課題が存在する.これらの課題を迅速に解決してゆくためには,産官学連携に基づくオールジャパンの体制づくりが重要となる.
著者
藤井 芳郎 磯貝 典孝 黒住 望 上石 弘 久山 健
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.367-377, 1986-09-25

It is quite important to fully comprehend the peripheral blood circulation after transferring flaps and making anastomoses with microsurgical techniques in the field of plastic and reconstructive surgery. Many methods have been developed to assess the peripheral blood circulation. The Laser Doppler flowmeter, which was first utilized in the field of mechanical engineering, is beginning to play a major role in measuring the peripheral circulation in many fields of medicine. The detection of doppler spectral broadening as light is reflected against the moving blood cells in the capillaries. Single-beam and crossed dual-beam velocimetries have been used, and introduction of a microscope into the optics has facilitated the measurment of blood flow in microvessels. The laser beam may be brought into contact with the flaps and related areas by using fiberoptics. The method detects fluctuations in flow occurring in the capillaries within 1.5mm depth of the surface of the skin. In this study, we would like to present the usefulness of this important apparatus, showing the case of a cross-leg flap and the case of replanted fingers with the technique of microsurgery. The Laser Doppler flowmeter showed that delay of the flap was clearly effective through its increased level of peripheral blood flow, so that the cross-leg flap could be released safely. The waveform of the Laser Doppler flowmeter for replanted fingers were consistent with their visual conditions. The apparatus to be a reliable postoperative monitor for measuring flap transfer and replantation of amputated fingers easily, rapidly, noninvasively and continuously, including those without a visual surface. It has advantages over any other instruments in that it facilitates the observation of actual red cell movement at the dermal capillaries. Further development is, however, required for Laser Doppler flowmeter to provide more absolute volume per unit time.