著者
向井 理紗
出版者
徳島文理大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

ヒト T 細胞白血病ウイルス 1 型 (HTLV-1) は成人 T 細胞白血病 (ATL) や HTLV-1 関連脊髄症の原因となるレトロウイルスであり、特に ATL は発症後その半数が1 年以内に死亡する悪性度の高い疾患である。これまでに、ATL 患者由来の T 細胞に例外なく発現するウイルス由来因子として HTLV-1 bZIP factor (HBZ) が同定されており、HBZ こそが ATL 発症に必須な因子であると推測されている。本年度は、HBZ の宿主細胞内での生理機能を明らかにすることを目的として研究を行なった。我々のグループは HBZ と相互作用する宿主因子を網羅的に探索するため、酵母ツーハイブリッド法を行ない、ヒトセントロメアに存在し、染色体の構造形成に関与するとされている CENP-B を同定した。共免疫沈降法により、HBZ と CENP-B の相互作用は酵母内のみならず、それぞれを一過性に動物細胞内に発現させた場合、HTLV-1 感染 T 細胞株を用いた場合でも確認された。さらに、詳細を解析した結果、HBZ と CENP-B はそれぞれ互いの中央領域を介して相互作用することを見いだした。これまでに CENP-B は C 末端に存在する二量体化領域を介してホモ二量体を形成し、N 末端に存在する DNA 結合領域を介して α-サテライト DNAに存在する CENP-B box へ結合することが報告されている。CENP-B と HBZ を共発現させた場合、CENP-B の二量体化量は変化しなかったが、CENP-B の DNA 結合能は顕著に抑制することを見いだした。また、クロマチン化された DNA においても同様の結果が得られた。また、HBZ は CENP-B 依存的なヒストン H3K9 のトリメチル化修飾亢進能を強力に阻害することが明らかとなった。