著者
向山 昌利 加藤 洋平
雑誌
流通経済大学スポーツ健康科学部紀要 = The journal of Ryutsu Keizai University, the Faculty of Health & Sport Science
巻号頁・発行日
vol.12, pp.11-20, 2019-03-10

本研究は,岩手県釜石市で整備された釜石鵜住居復興スタジアムを事例として,釜石市行政のスタジアム整備費調達のための戦略を浮き彫りにすることを目的とする。本研究では,主に行政が作成した資料を検討したうえで,関連する部署の(元)幹部もしくは担当者に対するインタビュー調査を補完的に実施した。本研究を通じて明らかとなった行政によるスタジアム整備のための資金調達戦略は,次の2点であった。1点目は,スタジアム整備がスポーツ政策だけでなく防災などと関わる複数の政策と重ねられながら進められた点。2点目は,資金調達の際に地域の表象を活用しながら,ラグビーワールドカップ開催に必要な釜石市の外に住む人々の共感の獲得が目指された点であった。本研究を通じて,スタジアム整備のための資金を調達する際に,スポーツ政策とは異なる政策を管轄する組織と連携を図る必要性が示唆された。
著者
向山 昌利 中島 信博
出版者
流通経済大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は、ラグビーワールドカップ釜石開催を対象として、ラグビーワールドカップと震災復興の接合から開催に至るまでの過程を多様な被災住民の立場から重層的に解明することである。本研究は、スポーツ・メガイベントと震災復興の関係性を被災地の文脈からとらえる数少ない研究のひとつである。また、被災地でのスポーツ・メガイベント開催という現在進行形の事例を対象とする本研究は、「スポーツ・メガイベントを契機とする震災復興」という今日的課題を是正するために欠かせない知見を浮き彫りにできると考えられる。被災地の現状を俯瞰しながら多様な住民の位置取りを確認した昨年度の調査をもとに、本年度は複数の組織や個人へのインタビュー調査を実施した。特に、行政(釜石市役所)へのインタビュー調査を集中的に重ねた。調査の結果、次の点が明らかとなった。まず、行政が復旧・復興のための資源を獲得するひとつの選択肢として釜石固有の文脈から紡ぎだされたラグビーワールドカップ開催を目指したこと。次に、行政がラグビーワールドカップ開催を目指す中で、理念的かつ感情的な開催意義を紡ぎだすことで、より多くの共感を獲得していったこと。すなわち、行政の復興戦略のが具体化されたひとつの事例が、「震災復興」が正当性となるラグビーワールドカップの開催であったことが明らかとなった。しかしながら、自然災害によって破壊された社会構造や生活構造が、ラグビーワールドカップ開催に関する議論を難しくする点にラグビーワールドカップと震災復興の関係性における課題があるように見受けられた。2015年3月にラグビーワールドカップ開催都市のひとつとして釜石市が決定した今、ラグビーワールドカップ開催をめぐる行政と住民の意識の溝を乗り越える作業が、行政だけでなく住民にとっても喫緊の課題となると考えられる。