著者
向田 一郎 下村 義治
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

JMTR温度制御中性子照射を用いて10^<-2>〜10^<-1>dpaの照射量の範囲で詳細な実験が行われた。本研究では、さらに損傷欠陥形成の初期過程を調べるために、より低照射量(10^<-4>〜10^<-3>dpa)の温度制御中性子照射を京大原子炉で行い、その結果より純銅中の損傷欠陥形成過程を調べることを目的とする。試料は公称純度99.9999%の純銅を用いた。また、残留ガスの効果を調べるために超高真空中で熔解することによりガス除去を行った試料を同時に照射した。温度制御中性子照射は京大原子炉水圧輸送照射管において300℃にて行った。試料は放射線冷却の後、電解研磨を行い透過電子顕微鏡試料とした。純銅においては、電子顕微鏡観察の結果、転位周辺の格子間原子集合体の集合、微小なボイドおよび積層欠陥四面体(SFT)が観察された。照射量の増加に伴ってボイド・SFTの数密度は減少した。この数密度は未処理試料と残留ガス除去試料での差はない。また、ボイド・SFT共に照射量の増加にしたがって成長するがボイドの成長はSFTに比べて著しく大きかった。これらの結果より中性子照射中にボイドが移動して合体することにより成長すると考え、照射試料の焼鈍実験を行った。その結果、直径3nm程度のボイドは250℃で移動することがわかった。合計37個のボイドを観測し、その内8個のボイドが移動した。最大で23.9nm移動していた。また、移動方向はfccの[110]方向に近い方位に移動していた。焼鈍実験による結果を踏まえてさらにボイド動的挙動高温その場観察を行った。試料は加熱ステージに装填し、300および350℃においてその場観察を行った。純銅中に形成されたボイド(サイズ:3〜16nm)の観察を行った結果、10nm以下のボイドは300℃以上において移動することが確認された。ボイドが移動する際には円状に白く観察されるボイドが楕円状に変化して長手方向に一次元運動をして移動する。このコントラストの変化はボイド周辺の原子の構造緩和によると考えられる。さらに大きなボイド(サイズ:16nm)は楕円状の構造緩和は起こさないが、観察中に3つに分裂してそれぞれが移動できるサイズに変化することが観察された。これらの観察結果より、10nm以下のボイドは移動することが可能であり、照射中にボイドが移動・合体をすることによりボイド数密度の減少およびボイドサイズの増大が起きていると考えられる。