著者
和久田 未来 臼井 晴信 西田 裕介
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第28回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.67, 2012 (Released:2013-01-10)

【目的】 疲労感は、発熱や疼痛などと共に身体の異常を認知する重要なアラームの1つであり、理学療法士は個々の疲労を客観的に評価し、疲労の程度に応じて理学療法を変更する必要がある。しかし現在、疲労を客観的に評価する方法としてはfMRIを用いたり、疲労の結果生じるパフォーマンスの低下を評価したりするものが一般的であり、これらの評価方法では、理学療法士が臨床場面で簡便に個々の疲労を評価することは困難である。慢性疲労は自律神経機能障害と関連しているという報告から、疲労感を自律神経活動で評価することができると考えられる。そこで本検討では、一症例の疲労感と自律神経活動の経時的な変化から、疲労感と自律神経活動との関係性について症例検討を行った。【方法】 〔患者情報〕 本症例は70代女性(身長152.5㎝、体重54㎏)で、H24年3月27日に転倒して左大腿骨頚部骨折と診断され、人工骨頭置換術を施行している。本症例は疲労の訴えが強く、疲労感が強い日は理学療法介入の阻害因子となった。〔測定方法〕 測定期間はH24年5月20日から29日までの9日間で、疲労感と自律神経活動の経時的変化を測定した。疲労感の指標にはVisual analog scale(以下VAS)を使用した。自律神経活動は、心拍計(POLAR RS800CX Polar社製)を使用して背臥位でのRR間隔を5分間測定し、心拍変動解析から副交感神経活動の指標であるRMSSDとHF、交感神経活動の指標であるLF/HFを得た。統計学的分析は、疲労感のVASと自律神経活動との関係性はPearsonの積率相関係数を用いて検討した。さらに、疲労感のVASを従属変数として重回帰分析(ステップワイズ法)を行い、自律神経活動が疲労感へ与える影響を検討した。有意水準は危険率5%未満とした。本検討はヘルシンキ宣言に従い、症例に対して目的を説明して同意を得て実施した。【結果】 疲労感のVASと副交感神経活動(RMSSD、HF)の経時的変化では、鏡像現象が観察でき、疲労感のVASと副交感神経活動との間には有意な負の相関関係が認められた(RMSSD:r=-0.71 p<0.05、HF:r=-0.74 p<0.05)。交感神経活動(LF/HF)においては有意な正の相関関係が認められた(r=0.68 p<0.05)。分散分析表の結果は有意で、独立変数のうちHFのみが採択され、寄与率は54%であった(偏回帰係数:0.74、95%信頼区間:[7.48-10.29])。【考察】 疲労感は主観的なものであるため、不定愁訴として捉えられがちであったが、本検討より主観的な疲労感の強さは副交感神経活動の退縮によって生じていることが示唆された。慢性疲労の原因は、自律神経の調整に関与する前帯状回でのアセチルカルニチンの代謝異常であると報告されている。アセチルカルニチンはアセチルコリン産生を促進する物質であることから、副交感神経活動と疲労感に強い因果関係が生じたと考えられる。【まとめ】 本検討より、副交感神経活動の指標の中でもHFの変動を経時的に評価することで、個人間の疲労感を客観的に評価できる可能性が示唆された。理学療法士が疲労感を評価して、疲労の程度に応じた運動介入やプログラムの変更により、慢性疲労患者のパフォーマンスの向上に寄与できると考えられる。