- 著者
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臼井 晴信
西田 裕介
- 出版者
- 東海北陸理学療法学術大会
- 雑誌
- 東海北陸理学療法学術大会誌 第28回東海北陸理学療法学術大会
- 巻号頁・発行日
- pp.72, 2012 (Released:2013-01-10)
【目的】 慢性炎症は、生活習慣病を発症、進行させる一要因である。主に内臓脂肪中の免役細胞により慢性炎症が生じる。免疫細胞は自律神経の支配を受け、慢性炎症は一部自律神経活動により調節されると考えられる。心拍変動の周波数領域解析によるVLF(Very Low Frequency)の低下は、炎症反応や生命予後との関連が認められている。本研究ではVLFを慢性炎症に関与する自律神経活動の指標として用いる。 先行研究ではストレス負荷後30分以上遅延して炎症指標が増加し、その後持続することが認められている。本研究では心理ストレス課題により、VLFが課題後に遅延・持続して低下するという仮説を検証し、心理ストレスによる慢性炎症に関する自律神経活動の亢進を確認することを目的とする。【方法】 健常成人男性10名(26.3±4歳)を対象に測定した。座位による安静10分(課題前安静)の後、Stroop課題を20分間実施し、その後2時間座位による安静(課題後安静)をとった。課題前安静から課題後安静終了までの間、心拍数計(RX-800 Polar社)にて心拍を計測した。心拍のR-R間隔データに周波数領域解析を行い(Memcalc/Tarawa)、課題前安静、課題時、課題後安静10, 20, 30, 45, 60, 90, 120分の各時間のVLF値を算出した。また、BMI、腹囲を測定した。VLF値の変化を課題前安静値で除し、VLF変化率とした。各時間のVLF変化率と身体計測値についてSpeamanの順位相関係数にて関連を検討した。課題後にVLFが課題前安静よりも低下した群をVLF低下群、低下しなかった群をVLF非低下群とし、身体計測値について対応のないt検定により群間で比較した。なお、本研究は聖隷クリストファー大学倫理委員会の承認を得ており、対象者には口頭と文書にて説明し同意を得た。【結果】 対象10名中7名において30分程度遅延したVLFの低下を認め、内6名においてVLFの低下は60分以上持続した。45分、60分でのVLF変化率とBMIには中程度の有意な負の相関を認めた(それぞれr=-0.69, p<0.05, r=-0.64, p<0.05)。VLF低下群はVLF非低下群に比べ、体重と腹囲が有意に大きかった(それぞれp<0.05)。【考察】 7名で30分程度VLFが遅延して低下し、6名で60分程度低下が持続した。VLF低下の遅延・持続時間は、先行研究におけるストレス負荷後の炎症反応指標の遅延・持続した増加と類似している。ストレス負荷により慢性炎症を生じる自律神経活動が亢進したことを反映すると考えらえる。腹囲、BMIは内臓脂肪量と正の相関が認められている。課題後45分、60分のVLF変化率とBMIに負の相関を認めたこと、VLF低下群で体重と腹囲が大きいことより、内臓脂肪量とVLFの低下しやすさに関連があると考えられる。ストレス負荷による慢性炎症は、内臓脂肪の多い人で生じやすいという先行研究の結果と一致している。本研究の結果は、内臓脂肪の多い人は自律神経機能が低下していることを示唆している。【まとめ】 本研究よりストレス負荷により慢性炎症を生じる自律神経活動が亢進することが示唆された。また、内臓脂肪の多い人は自律神経機能が低下している可能性を示唆したことより、理学療法士は自律神経機能の改善を目的とした介入をする必要があると考える。