著者
山元 寅男 中村 桂一郎 和佐野 公二郎
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

血管内皮細胞は、血液と直接に接する内皮層を構成し、細胞間は接着しており、連続する細胞層をなす。このために、血液と内皮外組織との物質交換のバリアーの役割を果している。一方、血液に対しては、その凝固防止の他に種々の機能を行っている。これらの機能がどのような構造的基盤に基いて営まれているかを明らかにする目的で本研究を行った。内皮細胞に見られる小胞は、大部分は連続する小胞管として存在しており、自由小胞は非常に少いことがわかった。したがって、小胞による物質輸送よりは、胞体を貫く小胞管を通る輸送が主要なものと考えられた。また、これら小胞は、一般に滑面小胞であるが、新鮮急速凍結割断エッチングレプリ力法で観察すると、小胞の細胞質側膜表面にアクチン分子と思われる縞構造が認められた。この構造から、小胞は可動性を持ち、隣接小胞と結合し小胞管を形成するものと考えられた。内皮細胞の内腔側細胞膜の凍結割断レプリ力像を観察すると、P面膜内粒子の配列に一定の規則性は見られなかった。これらの膜内粒子は、膜タンパク質を表すものと考えられているから、膜に局在するレセプターや酵素の分子配列にも特異性はないものと思われた。内皮細胞に見られる小胞陥入と膜内粒子の配列との特別な関連性は認められなかった。内皮細胞に、特に、有窓毛細血管に見られる窓構造は恒常的なものではなく、たとえば、糖尿病などの場合には、小腸の有窓毛細血管で窓構造は著しく減少することが明らかとなった。内皮細胞の細胞骨格であるアクチンは、蛍光顕微鏡的に平滑筋細胞のアクチンとは異なる性質が明らかとなった。超薄切片法で多数の中間径細糸の存在を認めたが、細胞内での分布様式を蛍光顕微鏡的に検索したが成功しなかった。細胞骨格と内皮細胞機能との関連を今後、電顕的、光顕的に解明していきたい。