- 著者
-
和泉 透
- 出版者
- 自治医科大学
- 雑誌
- 奨励研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 1995
ヒト肝癌由来Hep3B細胞は低酸素やコバルト刺激でエリスロポエチン(Epo)を産生する。この系において、いわゆる炎症性サイトカインのうちIL-1α、IL-1β、TNFαは濃度依存性に産生低下、IL-6は産生亢進の方向に働くことを以前見いだした。そこでIL-6によるEpo遺伝子産生調節について解析を進めた。ゲルシフト法によりHep3B細胞にはNFIL-6結合配列(TTGCGGAAC)に特異的に結合する転写因子の存在を確認したが、この発現は対照・低酸素刺激・IL-6添加時において明らかな変化を認めなかった。またfura-2を用いて測定した[Ca^<2+>]iはIL-6添加後も上昇を認めなかった。低酸素刺激によるEpo蛋白産生及びmRNA発現は12時間後にpeakとなるが、IL-6刺激では24時間後まで時間依存性に増加した。Hep3B細胞におけるIL-6で誘導されるEpo産生系のシグナル伝達機構は酸素センサーを介さない可能性があり、今後MAP kinase、JAK-STAT系の関与などについて検討する予定である。二次性貧血におけるIL-6の役割は現時点では明らかでないが、Epo産生抑制以外の機序で関与している可能性がある。最近我々は悪性リンパ腫の患者で血中TGFβ_1の高値を認め、化学療法後の貧血に対して投与したEpoが無効であった例を経験し、近く報告予定である。二次性貧血の発症機序について、IL-6以外にTGFβ_1など他の炎症性サイトカインとの相互作用も含めた検討が今後必要である。悪性リンパ腫や多発性骨髄腫、骨髄移植後ではEpo産生調節異常が存在することが推定される。現在これら疾患の臨床例について、患者血清を用いて解析を進めている。