著者
唄 花子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

【研究の内容】本研究は、着床期の長い反劉動物をモデルとし、胚・栄養膜細胞と子宮細胞の相互作用による妊娠成立機構の解明を目的とした。初年度には、ウシ栄養膜細胞CT-1と子宮内膜上皮細胞(endometrial epithelial cells, EECs)を共培養することにより、着床周辺期の遺伝子発現を再現するモデルを確立した。しかし、EECsは、数回の継代で性質が変化してしまい、安定性に問題があった。そこで、安定した細胞を得るため、本年度は、不死化子宮内膜上皮細胞(imortalized EECs, imEECs)を作出することを目標として研究を行った。不死化遺伝子をEEcsに感染させ、薬剤選択を行ない、imEEcsを作出した。得られたimEECsは、60回以上継代した後も増殖能を持ち、形態にも変化はなかった。imEECsは、IFNTおよびホルモン処置への反応性も有しており、子宮上皮細胞としての性質を維持していた。しかし、imEECsは、上皮細胞のマーカー(サイトケラチン)と間質細胞のマーカー(ビメンチン)が共に陽性であり、EECsとしての性質を維持しながらも間質細胞の性質も有することが示唆された。更なる研究に用いるためには、培養基質を変える等の検討が必要である。栄養膜細胞との共培養実験に使用できるか否かも検討している。また、着床周辺期に重要な胚側の因子として、GATA6がIFNTの遺伝子発現制御に関与することを見出した他、内在性レトロウイルス由来配列に着目し、着床周辺期に発現するいくつかの配列を見出している。【意義・重要性】本研究により、長期の継代にも耐えられるimEECsを作出した。課題は残るが、IFNTやホルモンへの応答性を検討するためには研究を行う上での安定性の問題が克服できたといえる。また、新たにIFNT遺伝子の制御に関与する因子として見出したGATA6は、反芻動物とマウス胚の知見とで違いがある点が興味深い。今後、動物種による違いを探るきっかけとなり得ると考えている。【研究成果】本年度の研究成果として投稿した論文は7報が採択された。また、2報は採択決定済である。