著者
唐木 圀和
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.83-99, 2000-11-25

〓小平亡き後も中国は,1978年12月以来の路線を継続して,「中国の特色を持つ社会主義建設」を目指している。〓路線においては,1987年11月,中国は社会主義の初級段階にあり,中国が直面している最大の矛盾は,「増大する物質的・文化的需要と立ち遅れた社会的生産とのあいだの矛盾」であって,階級矛盾は副次的なものであるとの論断がなされた。これによって,私営企業を含む多様な所有制の存在が可能となった。社会主義市場経済を確立するにあたって,その基盤となるものが,公有制を主体とする現代企業制度の確立である。改革の当面の中心課題は,国有企業の改革にある。国が国有企業の株式を100%所有していなくても,持ち株会社を通じて実効支配が出来れば,公有制の原則が維持されていると中国はみなすに至っている。さらに,所有と経営の分離を謳っているにもかかわらず,企業管理組織において,董事会,監事会ともに党委員会の影響力が強く及ぶ仕組みになっている。持株会社の党の指導には,制度上の歯止めが無い。指導が適切かどうかを判定するものは,企業業績を競争的株式市場が,株価においてどのように判定するかにかかってくるであろう。国家株の放出,企業情報の公開を通じて競争的株式市場を育成し,「市場志向的ガバナンス・システム」を確立することが,中国現代企業制度の整備にあたって強く望まれる。