- 著者
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嘎納斯
櫻井 清一
- 出版者
- 日本農業市場学会
- 雑誌
- 農業市場研究 (ISSN:1341934X)
- 巻号頁・発行日
- vol.23, no.1, pp.51-58, 2014
中国内モンゴル自治区は総面積の70%強が草原で占められ、畜産業を主産業とする地域である。草原の大半は放牧に利用されている半自然草原だが、無計画な開墾、過度の放牧など不合理な生産活動によって、生態の悪化、砂漠化が深刻である。こうした状況の中で、中央政府は破壊された草原を取戻し、牧草地を保護し、牧畜民たちの生活水準を向上させるために、2001年より「生態移民」、「退耕還林還草」、2003年より「退牧還草」事業を実行している。2001年、内モンゴル自治区政府は「生態移民及び開発移民試行プロジェクト実施に関する意見」を公表した。これに基づき内モンゴル全地域において生態移民政策が全面的に実施され始めた。本論文の研究対象地域にある達茂旗政府は2008年1月から2,357万ムー(1ムー=6.67a)の牧草地をすべて封鎖し、牧畜民6,620世帯に対し10年間の全面禁牧政策を実施し始めた。移住の際、牧畜民は移住先を自由に選ぶことができるし、禁牧期間、牧畜民は生計維持と生活保護に関連して達茂旗政府から牧草地面積に基づく牧草地補助金支給などの優遇政策を受けることができる。本論文は対象地域の禁牧前後牧畜民の生活実態を収入、家畜頭数、経営費だけでなく、生活満足度や出稼ぎ意欲の視点も加えて分析をし、これに基づき生態移民政策の実施が牧畜民の生産、経営、生活面にもたらした影響、変化を明らかにし、今後の課題について検討する。