著者
國保 成暁
出版者
日本医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

(背景)mTOR阻害薬(mTOR-i)は種々の悪性疾患に対して抗腫瘍効果を有する薬剤であるが、高頻度でリンパ球性胞隔炎等などの薬剤性肺障害を発症することが知られている。同薬剤は脂質代謝異常の副作用も引き起こすが、肺障害のメカニズムは未解明であるため検討した。(方法)ヒトmTOR-i肺障害2症例の肺病変を病理学的に検討した。またmTOR pathwayと脂質関連分子に着目してマウスと培養細胞(マウス肺胞上皮株MLE12)を用いてmTOR-i肺障害モデルを作製し病理および生化学的解析を行った。C57/BL6Jマウスを用いてTemsirolimus (10mg/kg/day)を3回/週で計4週間投与したモデルと、Control群としてVehicleとBLM投与モデルを作製した。MLE12ではTemsirolimusを0-20microMの濃度で投与し24時間まで観察するモデルを作製し解析した。(結果)mTOR-i肺障害2症例においては泡沫化した肺胞上皮の増生が認められた。mTOR-i投与マウスでは血清中T-choと遊離脂肪酸値が上昇し、血清とBAL中のSP-Dも高値を示した。Temsirolimus投与によりモデルマウスで肺胞上皮の増生とその細胞質内の脂肪滴貯留が認められ、MLE12においても脂肪滴貯留の所見が認められた。Temsirolimus投与により、マウス肺やMLE-12ではPPAR-γの発現が低下していた。(結語)mTOR-iは、全身性および肺胞上皮における脂質代謝ストレスを介して上皮傷害を惹起していると考えられた。mTOR pathwayの下流に位置するPPAR-γの発現変化がmTOR-iによる肺胞上皮傷害に関与する可能性が示唆された。