著者
國岡 高宏
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.57-63, 2008-09-30

数学教育がその指導対象としている知識(数学的知識)の本性を明らかにすることは,数学教育学の根本問題の一つである。筆者は,数学的知識の特性を一つずつ拾い集め,それを精査していくという作業を積み重ねるにことで,数学的知識の本性の理解に近づいて行きたいと考えている。本稿では,知識内容とその表現方法の関係に焦点を当てることで,数学的知識の重要な特性として,以下の2点を指摘した。(ア)知識内容とその表現方法は不可分の関係にあり,表現の変更は不可避的に知識内容の変容を伴う。したがって,表現方法の置き換えによる指導教材の平易化は,いつでも行えるわけではない。(イ)表現方法の変更が新たな思考対象の生成と数学的知識の発展を促す。この特性は,数学学習の系統性,階層性に反映されることになるので,数学教育の観点からも重要となる特性である。