著者
川口 広美
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.61-68, 2021 (Released:2022-03-09)
参考文献数
14

本稿では,筆者が教科教育学をどのように受け止め,研究を進めてきたかを探究する。筆者のこれまでの研究経験を振り返った結果,「良い教科教育実践はどうあるべきか」という教科教育学の根本的な問いに対し,正解を与えるのではなく,実践者との対話・協働を通じた正解の作り方を支援し,そのプロセスを叙述するというアプローチを主としてとってきたことを読みとった。上述の発見や現在の自己の研究課題を踏まえ,本稿の最後には教科教育学研究におけるより多様な研究者・実践者との協働・対話の必要性を提案する。
著者
加藤 寿朗 梅津 正美
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.35-47, 2015 (Released:2020-01-26)
参考文献数
6

本研究の目的は,中学生の社会的思考力・判断力に焦点をあてた縦断的発達調査を行い,その発達的変容について明らかにすることである。本調査と分析においては,社会科学力としての社会的思考力・判断力を構成する能力として,事実判断力,帰納的推論能力,演繹的推論能力,社会的判断力,批判的思考力の5つを措定し,次の2点について検討した。(1)中学生の社会的思考力・判断力の発達的特徴について,(2)中学生の社会的思考力・判断力を構成する諸能力の関係について。分析結果より,中学生の社会的思考力・判断力は,学年進行に伴って高くなり,特に2年生から3年生にかけて伸長する傾向が見られること,社会的思考力・判断力を構成する諸能力は独立しているのではなく相互に関連していることが明らかになった。
著者
星 瑞希 鈩 悠介 渡部 竜也
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.25-37, 2020 (Released:2021-07-11)
参考文献数
14

知識偏重の歴史教育に代わるアプローチとしての「歴史する」授業は歴史学の学問的アプローチの再現とする傾向が見られる。本稿では,保苅実による歴史学の方法論をめぐる議論,レヴスティクとバートンによる歴史教育の議論の分析を通して,「歴史する」の捉え方の位相の差異を示し,「歴史する」を歴史学の学問的アプローチに一元化してしまうことの課題について考察を行う。保苅とレヴスティクらは,歴史学の学問的アプローチのみならず社会には多様な歴史実践が存在することを認め,それらを多元的社会や参加民主主義といった理想的な社会の実現と関連させ論じる点において共通している。彼らの論を踏まえれば,学問的アプローチへ一元化することの課題は,(1)学問的であるとみなされない人々の語りを排除してしまい,多元的社会や参加民主主義の実現に逆行するおそれがあること,(2)子どもたちの歴史を学ぶ意味を満たしにくくなる可能性があることである。
著者
松尾 千秋
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.1-9, 2006-09-10

今日では,全国の小,中,高等学校の運動会・体育祭などにおいて,「南中ソーラン」がブームとなり,運動会・体育祭などを席巻しつつある。そこで,本研究では,人々の興味・関心を抱かせる教材とは何かについて探求するため,(1)用語から抱かれるイメージ,(2)ビデオ視聴後のイメージ変化,(3)体験後のイメージ変化などを調査した。その結果,"日本の民俗舞踊"という用語に対する,重い,暗いイメージは,舞踊ビデオ視聴によって,大きい,明るい方向へ変化し,さらに,「南中ソーラン」を体験することにより,強いイメージが増し,むずかしいイメージは軽減されていた。これらのことから,人々の興味関心を抱かせる「南中ソーラン」の教材的価値を推測することができた。
著者
橋本 三嗣
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.41-50, 2001-06-30 (Released:2018-05-08)

本稿の目的は大学1年生と3年生の論理的思考力を調査し,その様相を明らかにすることである。そのために国立大学の大学1年生と3年生に対して調査を行い,調査対象者を専攻,学年,性別という3つの観点から分け,また調査結果を推論の型・問題の内容という視点から分析・考察した。そして中学校3年生の調査結果と比較した。その結果,次のことが明らかになった。(1)同じ学年で比較した場合,大学で数学を専攻している大学生は大学で数学を専攻していない大学生よりも調査得点が有意に高い。(2)大学で数学を専攻している大学生の集団に限り, 3年生が1年生より調査得点が有意に高い。(3)専攻別の大学生の集団の中には,女性が男性よりも調査得点が有意に高いものもある。(4)推論の型については,逆型と裏型の問題の正答率が低く,問題の内容については,日常的,仮想的な事柄の下での問題の正答率が低い。(5)調査結果に関して大学生を中学校3年生と比較した場合,大学生は中学校3年生より数学的な事柄の下での問題の正答率が高い。これらより,今回の調査で点数化した論理的思考力は,特に大学の数学を学ぶことで飛躍的に伸びると推測される。
著者
下條 隆嗣 平田 昭雄 福地 昭輝
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.39-47, 1996-06-30 (Released:2018-05-08)
被引用文献数
1

大学における小学校教師養成カリキュラムの改革,特にピーク制の是非を検討するために,小学校教師に,各教科等の指導上の困難さとその理由を自己評価によってアンケート調査した。教科等としては,教師養成の視点から,「国語」「社会」「算数」「理科」「音楽」「図画工作」「体育」「家庭」「生活」「書写」「道徳」「クラブ活動」「学級活動」「生活指導」「学校行事」「学級経営」「その他」とした。寄せられた583通の回答を,4年制大学理系,4年制大学文系,短大等の出身別に分けて分析した。教師は「音楽」指導に最も困難を感じていること,「理科」は文系と理系で指導の困難さの差が大きいこと,教科等には,指導上からみた特性があること,全教科等を通じて教師が困難と感ずる主な理由としては,指導方法や指導内容についての知識が不十分であり,また活動や教科等の設定が難しいと考えていることなどが明かにされた。
著者
橋原 孝博
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.35-41, 2004-06-30

本研究の目的は,バレーボールゲームにおけるサーブ距離とサーブレシーブ成績との関係を検討することにより,フローターサーブの技術指導に関する資料を得ることであった。大学女子バレーボールの試合71セットをビデオ撮影し,再生画像をパソコンに取り込んで分析した。サーブの位置データは2次元DLT法により算出し,サーブ効果は,相手サーブレシーブ成績をサービスエース,チャンスボール,二段攻撃,コンビ攻撃の4段階評価して求めた。サーブ効果有のサーブ回数が多かった打球距離は,17mと21m付近の二ヶ所あった。サーブの打球距離が長くなれば,ボールが臨界速度に達して空中で急激な変化を生じ,サーブレシーブが難しくなる。またジャンプフローターのような,打球方向が水平に近く,助走踏切中に生じた水平方向の運動量を利用した打球速度が速いサーブを用いれば,打球距離が短くてもボールは空中で変化を生じ,サーブ効果があげられると考えられた。
著者
村田 一朗 小栗 優貴 白石 愛
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.15-27, 2021-09-28 (Released:2022-07-02)
参考文献数
34

本研究の目的は,性的マイノリティの包摂を目指した教科横断単元の構成原理を明らかにすることである。本研究の背景には,性的マイノリティの包摂にあたってはマジョリティ側への教育も必要であり,特に社会と個人の両面から性規範を問い直していく必要があるという公教育としての課題がある。そこで,社会科と保健体育科の研究者・実践者が協働し,教科教育学の抱える開発研究の方法論的課題を乗り越えながら,教科横断単元の開発・実践・検証を行った。本研究の成果は,以下2つである。1つ目は,クィア・ペタゴジーに基づいた「目標原理:社会と自己の2つの視点からの包摂」「内容選択原理:マジョリティが作り出す性規範」「学習過程原理:相対化・構築・脱構築の螺旋的過程」といった単元構成原理を提起できたことである。2つ目は,教科を横断した開発研究の手続きとその実際を事例として示したことで,教科教育学の新たな可能性を見出したことである。
著者
香川 七海
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.45-58, 2017 (Released:2020-01-26)
参考文献数
64
被引用文献数
1

本稿は,教育雑誌『ひと』誌上の漢字教育実践の概要と変遷について論究をするものである。『ひと』が創刊された1970年代以前,民間教育研究運動のなかでは,「反動」と見なされた国語教育政策の動向に対して,体系的な漢字教育実践の必要性が認識されていた。そうした状況を背景に,『ひと』においても,漢字教育実践の体系化をはかる自主編成が試みられることとなる。70年代から80年代前半にかけては,岡田進が藤堂明保の字源研究を援用し,80年代後半から90年代にかけては,宮下久夫グループが白川静の字源研究を援用して漢字教育実践の体系化を試みた。初期の岡田の実践は,限定符をもとにした漢字の分類方法(=「漢字家族」)を中心とするものであったが,そこには,問題点も内包されていた。他方,後期の宮下らの実践は,従来の漢字教育の知見を下敷きにしつつも,白川の字源研究を援用することで,その問題点を克服することが可能となるものであった。
著者
伊東 治己
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.39-48, 2006-12-01 (Released:2018-05-08)

平成16年12月に経済協力開発機構(OECD)による2003年度国際学習到達度調査(PISA)の結果が公表されて以来,世界的な規模でフィンランドの学校教育が教育関係者の注目を集めている。日本においては,フィンランドの成績との比較から,特に国語教育や算数・数学教育のさらなる推進・改革が叫ばれているが,フィンランドとの比較という文脈では, PISAでは対象となっていない英語は実に悲惨な状況にあることが殆ど理解されていない。本発表は,小学校への教科としての英語の導入を視野に入れ,平成17年3月から7月にかけて実施したフィンランドでの英語教育に関する現地調査の結果を報告するものである。学校訪問と関係者への聞き取り調査の結果を基に,フィンランドの小学校英語教育の実態を報告するとともに,担当教師の英語授業観についても論究し,グローバル化への迅速な対応が求められている日本の学校英語教育への示唆を提示する。
著者
原田 大樹
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.31-40, 2010

本稿は,昭和30年代に行われた共通語指導を明らかにする研究の一環として,鹿児島県で作成・使用された教材『ことばのほん』について,その内容・特徴・及び意義について明らかにすることを目的としている。『ことばのほん』は,鹿児島県国語教育研究会・鹿児島県教育委員会の共編で,それまでの標準語・共通語指導において,確固とした教材がなかったことや,教師の経験不足等による共通語指導の不振に対応するために作成された。そのねらいは,児童が共通語を自由に使用できることにあり,児童の日常生活や経験に基づく指導を行おうとしている。そのため本書の内容は,「ことば」の矯正に加え,アクセント・イントネーション等の音調に関する事項が多く含まれている。さらに,その使用方法については,特設の時間で,実践的活動によって,また,音声機器も併用して指導するように示され,音読,劇化などによって指導している。この結果,本書は,児童が共通語を体系的・経験的に学べるテキストであるという点に特徴と意義が見いだせる。
著者
村上 枝彦
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.123-132, 1977-10-31

Investigatng Science with ChildrenはNSTA(合衆国理科教育連合体)がNASAのもとにプロジェクトチームを作り,初等教育における理科教育の進歩のために編さんされたもので,1. Living Thing, 2. The Earth, 3. Atoms and Molecules, 4. Motion, 5. Energy in Waves, 6. Spaceの全6冊からなり,それぞれA-4版90〜100ページのものである。本論文はその即成の基本理念を紹介するとともに,特に化学と関係の深いAtoms and Moleculesにある64の単元(実験例)から各章ごとに1単元を選び,4単元について紹介する。
著者
赤堀 侃司
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.87-94, 1986-08-31

本研究は,高校物理テストを事例にして,記述式テストの誤答分析について報告している。本研究では,誤答のタイプを,基本的ミス,ケヤレスミス,前問ミスの3つに分類する。基本的ミスとは,基本的に理解できていない事による誤答であり,ケヤレスミスとは,単純計算ミスや図への記入の仕方等のミスによる誤答であり,前問ミスとは,構成式回答形式になっている問題で,前問が誤答のために生ずる誤答である。さらに,ケヤレスミスを,単純ミス,単位ミス等の5つのカテゴリーに分類する。これらを記号化して誤答内容別の一覧表を作成し,この一覧表から誤答分析を行う。従って,この一覧表は,1,0表示によるS-P表よりも情報量は多い。分析の結果,高校物理Iの力学の運動の単元において,次の様な知見を得た。(1)ケヤレスミス全体は,基本的ミスとの相関が大きい。(2)ケヤレスミスの中で,かんちがいミスは基本的ミスと相関が小さく,理解能力とは別の因子で生ずるミスであると推測される。(3)かんちがいミスは, S-P表の注意係数を大きくする。(4)答案に誤答内容を訂正して返却する事は,同一のケヤレスミスをおこす割合を減少させる効果がある。以上の結果を得たが,ケヤレスミスは全単元に共通している事,基本的ミスに比較して,学習指導の労力と学習効果の上で注目すべき誤答タイプと考えられる。
著者
久田 隆基
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.153-165, 1980-07-30 (Released:2018-01-07)
被引用文献数
1

本稿では,現行の中学校理科教科書(3社)の中で用いられている,程度や量を表すことば(大きい,多い,高い,強いなど)の使われ方についての調査結果と,それらの意味・用法についての分析結果を報告する。調査の結果,事象の程度や量は,大半のものが「大きい・小さい」とその他の形容詞との両者で表されるということ,一部のものは「大きい・小さい」のみで表されるということ,また。一部のものは「大きい・小さい」以外の形容詞で表されるということがわかった。さらに,同じ1つの事象の程度や量を表す場合,いく通りもの表現が見られる用例もいくつかあることがわかった。用例の分析から判断すると,中学校理科教科書においては,これらのことばの使い方については注意が払われていないように思われる。程度や量を表すことばを科学用語とからめて検討することの必要性を指摘した。
著者
前田 洋一 大野木 裕明
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.23-30, 1994-06-10 (Released:2018-05-08)

中学1年生351名(男子173名,女子178名)を対象に,教師作成テストと知能検査から得られるいくつかの知的指数の関連性を調べたところ,以下の結果を見いだした。(1)教師作成テストはB式知能偏差値よりA式知能偏差値との相関が高い。教科間で各偏差値との関連性を検討した結果,男子群で,B式知能偏差値と高い相関を示す教科として理科・数学が得られた。(2)知能検査から得られる知的指標の内,創造的思考を表す指標である[流暢性]と[柔軟性]について教師作成テストとの相関を検討した結果,これらの2指標と教師作成テストとの相関は著しく低かった。教科ごとに各知的指標との相関を検討した結果,女子群では[認知]との相関が高かった。(3)教師作成テストから教科の構造を見るためにクラスター分析を行った結果,男子群では中学校1年段階で理系教科と文系教科に分類することができるが,女子群では未分化であった。
著者
青山 聡
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.43-53, 2019 (Released:2021-02-03)
参考文献数
24

本論の目的は,複数回与える筆記による訂正フィードバックが,同じ英作文の書き直しにおける自己訂正率と別の新しい英作文における正確さにどのような影響を与えるのかを仮定法と直説法に焦点を当て調査することである。高校2年生110名を英語熟達度に応じて2群に分け,それぞれの群で直接的訂正フィードバック(DCF)群,メタ言語的訂正フィードバック(MCF)群,統制群を設定し,相対的効果を検証した。その結果,熟達度高位群では,DCF とMCF 共に書き直しへの効果が確認されたが,新しい英作文には確認されなかった。一方,熟達度低位群では,DCF は書き直しに対してすぐに効果を及ぼしたが,新しい英作文における正確さの向上はもたらさなかった。しかしMCF は,与えるごとに書き直しにおける自己訂正率を向上させ,3度目にはDCF と同程度の自己訂正率を獲得した。さらに新しい英作文では,2度目を与えた後の事後テストにおいて,DCF と比較し,正確さの向上を導いた。
著者
千菊 基司
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.25-37, 2018 (Released:2020-01-26)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本研究は,発話過程の形式化の速度向上を図る指導がもたらす,発話の質の向上を検証することを目的として行った。高校2年生の1クラス(スピーキング群)を対象に,複数の絵によって示されたストーリーテリングの活動を一定期間行い,その前後の発話の質の変容を,同様の指導を受けていない別クラス(対照群)と比較した結果,複雑さと流暢さに向上が見られた。特に,絵に付随して与えられた文字情報の発話への取り込み方を比べると,スピーキング群の発話の質が向上したことがわかった。スピーキング群の経験した活動では,概念化の段階で受ける認知的負荷を減らし,形式化の段階で既習語彙へのアクセスに必要な注意資源を確保して練習することが可能になり,複雑さ・正確さ・流暢さのそれぞれの観点から質の良い発話が練習時に達成され,指導後の調査での発話の質の向上につながったと考えられる。
著者
千菊 基司
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.13-26, 2019 (Released:2021-02-03)
参考文献数
16

全国規模の英語力調査結果を踏まえ,「話すこと」,中でも「やり取り」に関わる力を高校生につける指導の高度化が提言されているが,その効果についての実証的研究論文は,ほとんど見られない。本研究は,スピーキング指導で交渉を行う言語活動を用い,英語発話の質が向上することを検証することを目的として行った。高校3年生の1クラス(実験群)を対象に,交渉を行う言語活動を用いた指導を一定期間行い,その前後にスピーキングテストで得られた発話の質の変容を,同様の指導を受けていない別生徒(対照群)の発話と,量的に比較した。実験群の生徒の発話には,流暢さに向上が見られた。また,相手の意見を引き出すことを意図した発言が増え,会話が行き詰まった時に主導権を取って,事態の解決に乗り出そうとする発言も見られた。実験群の受けた指導によって,概念化や形式化の段階で生徒が受ける認知的負荷が減り,対話の流れに自分の発言を嚙み合わせることに必要な注意資源を確保して練習することが可能になり,質の良い発話が練習時に達成され,発話の質の向上につながったと考えられる。
著者
辻村 敬三
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.41-50, 2013 (Released:2020-01-26)
参考文献数
6

本研究は,文学的な文章を読む指導における範読について,実際に行われている状況を調査によって把握し,範読時にどのような学習活動を伴わせることが効果的であるかについて,実験を通して検討することを目的とした。調査からは,範読のねらいが,内容の大体を理解させることと,物語を享受させることの2つに分かれている状況がとらえられた。また,範読時の学習活動は様々な内容が混在しており,ねらいとの関連性が十分意識されていない状況であることが確認された。実験からは,平均得点については,範読時の学習活動による顕著な差は認められなかったが,得点分布状況からは,「大事だと思う言葉や文に線を引きながら聞かせる」ことが,学力低位の児童に効果があることが示された。以上のことから,範読を行う際には,ねらいと指導方法の関連性を明確にした上で,児童に「線を引く」などの具体的な学習活動を行わせることに効果が期待できることが示唆された。
著者
上ヶ谷 友佑 大谷 洋貴
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.49-62, 2020 (Released:2021-07-11)
参考文献数
67

本稿の目的は,所産( プロダクト) としての教科教育学が成立しないことを示し,教科教育研究を過程( プロセス) として捉える新しい研究観を提起することで,佐藤学氏の教科教育学批判に応えることである。このため,本稿では主として次の4点に取り組む。1) 国内における教育心理学や一般教育学の動向を踏まえ,教科教育学の領域固有性について検討する。2) 数学教育研究において国際的に論じられる「数学者の役割」論と「教えるための数学的知識」論から,教科教育研究者の役割について検討する。3) 教科の領域固有性の追究それ自体を否定する国際的な論調や,学校教育の枠に留まらない数学の成人教育論を参照しながら,プロセスとしての教科教育研究という新しい研究観を提起する。4) 推論主義の視座を踏まえ,教科教育研究が学際的活動として既存の一般教育学と特定の主題の学問領域に新しい洞察や視座を提供する創造的過程となり得ることを示す。