- 著者
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土屋 巌
- 出版者
- The Association of Japanese Geographers
- 雑誌
- Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
- 巻号頁・発行日
- vol.57, no.2, pp.142-153, 1984-10-01 (Released:2008-12-25)
- 参考文献数
- 13
- 被引用文献数
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世界氷河台帳作成計画のためのIASH (国際水文科学協議会)の分類 (UNESCO/IASH, 1970) とMÜLLERほか (1977) によるその改訂版を参照して,筆者はさきになだれを含まずに,異常に大量の降雪と吹きだまり雪とによって形成される亜高山帯のニッチ氷河を,山岳氷河の一型式として提案し,“鳥海山型氷河”と名付けた(土屋, 1978 a, 1978 b)。 1972年-1981年の問,この型の氷河のひとつで“貝形小氷河”と命名したものについて,毎年野外調査を実施し,その特色を解明した。 貝形小氷河は,いわゆる気候的雪線よりも2,000mにど低い,海抜約1,400m高度に形成されるが,拡大期には約0.04km2の大きさになり,また2~3年のうちにごく小さな氷体に縮小することがある。この氷河の存在場所の積雪深算定値の最大は45m以上であった。消耗量が大きく,暖かい大雨の際には毎時1。4cmの厚さ減少が観測された。氷河氷の形成は非常に早く,この氷河上の残雪の密度は,最初の消耗季節の終り頃までのわずかな期間に,ほとんど氷河氷の段階にまで増加する。 貝形小氷河の流動現象は一定でなく,蓄積年後の消耗年である1975年や1979年の場合にはかなり早い流動を示した。日本の他の地域に見られるいくつかの多年性残雪(氷体を内在する)では,さらに小規模で貝形小氷河と同様のものもあるが,明白な流動現象はまだ報告されていない。 ニュージーランドのWhakapapanui氷河は,貝形小氷河とほぼ同じ規模の小さな氷河であるが,両者の比較により,気候的雪線のはるか下方で形成され,降雪季節の卓越風が偏西風であり,風下斜面に存在して低緯度に面し,主滴養源は吹きだまり雪であって,氷河質量の年々変動が大きいなどの共通の性質のあることがわかった。