著者
土田 修一
出版者
日本獣医畜産大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

被毛や虹彩の退色を伴う症候性難聴がいくつかの犬種で報告されている。当施設で維持されている症候性難聴症例について、人での類似疾患であるワーデンブルグ症候群2型の原因遺伝子であるメラニン合成経路に働く遺伝群(MITF,PAX3,SOX10)に着目し、それらの遺伝子の発現ならびにタンパクコード領域の塩基配列について検討した。犬のMITF遺伝子では2つのアイソフォームが報告されているが、今回健常犬で従来報告されているMITF-MおよびMITF-Hの2つのアイソフォームに加え、新たに人のMITF-Aに相当するアイソフォームが検出された。MITF-HおよびMITF-A沼は多くの臓器に広く発現が認められたが、MITF-M腎臓、大脳、小脳、心臓、上部消化管などで顕著な発現が認められ、臓器特異性が観察された。症例犬のMITFの3つのアイソフォームの発現と塩基配列を解析したが健常犬との間に差異は検出されなかった。次いでPAX3遺伝子の構造解析を試みた。健常犬のPAX3遺伝子構造を確認後、各エクソン領域を増幅するためのプライマーを作成し、PCR増幅後、塩基配列を決定した。しかし、症例犬のPAX3遺伝子にも疾患に関連する変異を見出すことはできなかった。さらに健常犬のSOX10 cDNAをクロニングして塩基配列を決定した後、ゲノム構造を解析してタンパクコード領域のPCR増幅を可能とした。症例犬のSOX10遺伝子のタンパクコード領域の塩基配列は健常犬と一致し、変異は検出されなかった。本研究で対象とした先天性難聴の症例では解析した3つの遺伝子に変異は検出されなかったが、本研究で人のワーデンブルグ症候群に関連する遺伝子の犬における構造解析と解析方法が確立されたことより、今後他の犬種の先天性難聴症例についても解析を進め、関連遺伝子の同定を試みたい。
著者
宇田川 智野 鄭 英和 市東 正幸 河上 剛 多田 尚美 落合 和彦 石岡 克己 土田 修一 近江 俊徳
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.68-75, 2011-10-11 (Released:2011-12-16)
参考文献数
18

ミトコンドリア脱共役蛋白質(uncoupling protein;UCP)は、ミトコンドリア内膜での酸化的リン酸化反応を脱共役させ、エネルギーを熱として散逸する機能を有している。UCP2遺伝子とUCP3遺伝子は、UCPファミリーに属する分子でイヌでは21番染色体にタンデムに位置している。我々は、今回ビーグル犬由来の骨格筋よりイヌUCP2とイヌUCP3の5,非翻訳領域および翻訳領域のcDNA単離を試み、UCP2 cDNA 1251bp(GenBank Accession No. AB611704)およびUCP3 cDNA 1301bp(GenBank Accession No. AB611705)の塩基配列を決定した。また、イヌゲノム構造およびヒトのUCP遺伝子構造との比較解析により、ヒト同様にイヌUCP2遺伝子は8つのエクソンをまたイヌUCP3遺伝子は7つのエクソンで構成されていることを明らかとした。27種類の組織由来のtotal RNA(市販品)を用いたRT-PCR法による遺伝子発現解析では、両遺伝子はこれまで報告されている通り、組織での遺伝子発現パターンに差異が認められた。ヒトにおいては、UCP2やUCP3はUCP1と共に、肥満や糖尿病に関連している事が明らかになっている。今回の結果は、イヌにおけるエネルギー代謝のバランスに両遺伝子がどのような影響を及ぼしているのかを分子遺伝学的に解析するために必要な基礎的知見と考える。