著者
坂井 宏子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.31, 2019 (Released:2019-09-24)

1.はじめに 2004年新潟県中越地震で「新潟県中越地震復旧・復興 GIS プロジェクト」がスタートした。さらに2007年新潟県中越沖地震では、県対策本部地図作成班が(EMC:Emergency Mapping Center)設置された。 にいがた GIS 協議会は、必要なハードウェア、ソフトウェア、データ、人材等を無償で提供し、京都大学防災研究所、新潟大学災害復興科学センターと連携し、被災状況をリアルタイムに地図化した。2.EMC におけるデータについての課題 (2007/11 時点)(1)防災施設情報等のデータの不整備 地図化するための基礎データ(台帳データ)のデータベース化がされておらず、位置情報が整備されているデータもほとんどなかった。被災データ(Excel)を作成するための事前処理に時間がかかった。(2)被災情報のとりまとめブロック図の不整備(正式地名と通称の存在) 被災情報が、一般に使用されている字・町丁目単位ではなく、市町村独自の行政区やコミュニティNo毎で、それらのブロック図の整備がなされていなかったため、文字情報と地図情報をリンクさせるために対応表を作成する等事前準備に時間がかかった。(3)地図等の電子データの著作権・ライセンスに対する理解不足 提供物(地図データ、主題図)の著作権に関して、事前に正式な協定がなされていなかったため、活動終了後の活用において課題が残った。電子地図データの利用範囲(紙で大量印刷、庁内LAN利用、インターネット配信)が拡大される都度、無償提供者側とライセンスの使用許可範囲の交渉が必要となり時間を要した。3.EMC 活動を通しての提案 (2007/11 時点)(1)平常時における基礎データの整備1)基本的データの整備(市町村) 最低限必要な基本的データ(共用空間データ等)は、行政で整備しておく必要がある。また、取り纏め単位に使用するブロック図(行政区、コミュニティ区、小中学校区等)も整備しておくべきである。2)基本的データの整備及び国、市町村データの集約(県) 災害時には被災市町村との広域連携が必須となるため、あらかじめ統合型 GIS で整備された市町村の空間情報データ及びその他の機関が所有するデータを、県単位で集約することが望ましい。また民間地図も有効であるため事前に協定等結んでおくとよい。なお、広域で情報を集約するには、災害時必要な情報(水道、下水、道路等)の市町村の状況を事前に調査の上ルール化しておくことが望ましい。(2)利用者へのGISリテラシー教育 データベースの概念、GIS の基礎知識等研修会を実施する。(3)地域のGISセンター構築の検討(データセンターの活用) 平常時から基礎データを整備し、データの管理は、365日監視体制、セキュリティ、耐震性を備えた、リモートコントロールが可能で安全の保証確度が高いデータセンターの利用を考えるべきである。4.現在の取組と課題(1)新潟県との「災害時の応援業務に関する協定」 の締結 (2017/11) ①災害時における、応急対策のための電子地図の作成 ②平時における、防災訓練、研修等における連携 等を目指すもの 県内は約 6 割の市町村で「統合型 GIS」を整備しているが、まだ十分な状況ではない。新潟県では、災害時に必要となる基礎データの整備を行ったが、データの更新に課題が残っている。県内すべての自治体がデータを整備できているわけではないため、統一フォーマットでデータを集約更新するには限界があるようだ。現在、新潟県では統合型 GISの整備はなされていない。(2)N²EM(National Network for Emergency Mapping)の設立 (2019/5) 防災科学技術研究所が設立した N²EM(当協議会も参加)が、西日本豪雨の際、鹿児島県等の避難所オープンデータ作成を支援した。5.今後 GISは地域経営を支援する情報プラットフォームとして、災害時には「被害状況の見える化」、平常時には「地域の課題の見える化」を可能とする。産官学民で地域の GIS センターを構築し、データを共有・流通できる仕組みの確立を目指していきたいものである。