著者
長谷川 直子 三上 岳彦 平野 淳平
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.116, 2019 (Released:2019-09-24)

1. はじめに/研究目的・方法 長野県諏訪湖では冬季に湖水が結氷しその氷が鞍状に隆起する御神渡りと呼ばれる現象が見られる。これが信仰されてきたことにより、その記録が575年にわたり現存している(石黒2001)。この記録には湖の結氷期日も含まれており、藤原・荒川によってデータベース化され(Arakawa1954)それらが長期的な日本中部の冬季の気候を復元できる資料として世界的にも注目されてきた(Gray1974)。 しかしこれらのデータは複数の出典に分かれており、出典ごとに記載されている内容が異なるものであり(表1)、統一的なデータベースとして使用するには注意が必要である。また一部の期間についてはデータのまとめ違いがあることもわかっており(Ishiguro・Touchart 2001)、このデータを均質的なデータとしてそのまま使用することは問題と考えている。そこで演者らはこのたび、諏訪湖の結氷記録をもう一度改めて検証し直し、出典ごとに記載されている内容がどのように違うのかを丁寧に検討し、それらのデータの違いを明らかにしていく。 2.諏訪湖の結氷記録の詳細 写真1:現地調査で確認した原本の例 諏訪湖の結氷記録は出典が様々であり、大きく分けると表1のようになっている。出典毎にそれぞれ、観測・記録した団体が別々のものであったり、観測者が記載したものから情報が追加されて保管されているものもある。表1に示した出典のうち一部は諏訪史料叢書に活字化されて残されているが、そこに掲載されていない資料もある。活字化されていないものについては原本に当たる必要があるが、現在ではその原本が所在不明なものもある。演者らは、活字化されていない資料を中心に、原本の所在を確認しているところである(写真1)。また世界的に広く使われている期日表は藤原・荒川のものであるが、田中阿歌麿が「諏訪湖の研究」(田中1916)の中ですでに期日表をまとめており、これと藤原・荒川期日表との照合も必要であると考えている。 3. 近年の気候変動と諏訪湖の結氷 近年、諏訪湖の結氷が稀になっていることは気候温暖化との関連も考えられ、図1に示すように気候ジャンプとの関連もみられる。これについては諏訪湖を含めた北半球での報告もされており(Sharma et al. 2016)、最近数十年に限定した詳細な検討も必要だと考えている。
著者
張 紅
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.149, 2019 (Released:2019-09-24)

歴史的街並み景観にみられる地域アイデンティティの創出メカニズムCreation mechanism of residents’ regional identity in the historical street landscape張 紅(筑波大・院)Hong ZHANG(Graduate Student of Tsukuba Univ.)キーワード:歴史的街並み景観 地域アイデンティティ 経済性 公共性 社会性Keywords:Historical street landscape, Regional identity, Economic viewpoint, Public viewpoint, Social viewpoint 歴史的街並み景観は,歴史の積み重ねの中で地域住民が取捨選択を繰り返し,作り出してきたものであり,住民の量的/質的な変化に対して敏感に反応する。そのため,現在日本において進行中の少子高齢化は,歴史的街並み景観に対しても大きな影響を及ぼし,それが顕著な中山間地域の歴史的街並み景観は崩壊の危機に瀕している。それが崩壊することは,地域アイデンティティの崩壊を意味する。景観を望ましい形で保全するためには,地域アイデンティティの創出メカニズムを知り,住民に適切な地域アイデンティティを根付かせるような方法を考えていかなければならない。そこで,本研究では,福島県南会津郡に位置する下郷町の大内宿と南会津町前沢を事例にして,地域特性の異なる2つの地区の保全方法を明らかにした上で,そこから生まれる地域アイデンティティを比較することによって,望ましい地域アイデンティティを創出する保全方法を提案することを目的とした。研究方法は,両地区の住民と行政側に景観保全の経緯や現状などを聞き取り調査し,これらに基づいて地域アイデンティティを決定する因子を抽出し,相互に比較を行い分析した。 大内宿は宿場町で,地区を南北に走る会津西街道の両側に茅葺きの寄棟造の住居が軒を連ね,全戸の妻壁が街道に面するというような景観を呈している。前沢は山村集落で,茅葺きの曲家が集まっている。冬の北風が強くて,そのほとんどが南東向きである。 この2つの地区では3種類の地域アイデンティティが創出されている。大内宿は,観光地化から生まれる経済効果を追求し,活気のある街並みを形成,維持することによって,「生活できる」という実感から経済的な地域アイデンティティが創出され,街並み景観を保全している。しかし,一部の景観が犠牲になり,「形だけの街並み」になりかねないという問題点もある。また,重伝建地区の意味が見失われ,地域アイデンティティの本質も見失われやすい。これに対して前沢は,住民の意見を尊重し,景観保全に重点を置き,急激な観光開発を行わなかったため,経済性に基づく地域アイデンティティが低いまま推移してきた。けれども,このように行政が住民を巻き込み,政策を実施する中で公共的な地域アイデンティティが誘導され,街並み景観が保全される。公共性による地域アイデンティティは最も有力であるが,住民意識の高揚が課題となる。政策提言の出発点への妥協や,担当者の交代による政策実施の不徹底が住民の不公平感を招き,反発が起きる恐れがある。最後に,共有意識や地区への憂慮などによって住民主体に社会的な地域アイデンティティが育まれ,街並み景観が保全されていくといえる。これには,コミュニティ内の中心的人物による牽引,または住民個々人の自覚が必要である。このような社会性に基づく保全の効果は経済性に基づく保全より強いが,少子高齢化の背景があり,現状では社会性だけに頼ることは難しい。 結論として,地域特性や歴史的経緯が異なる大内宿,前沢では,それぞれに地域アイデンティティの創出に作用する因子(経済性・公共性・社会性)のバランスが異なるため,結果的に現地で感じる住民のアイデンティティには大きな差異が生じていると考えられる。経済性・公共性・社会性によって創出される地域アイデンティティは,それぞれ独立したものではなく,相互に関連がある。社会性による地域アイデンティティの創出が望ましいが,その主体である住民の継続的な関与が難しい状況にある中では,生活が確保されなければ(経済性),行政による誘導(公共性)を進めていくことはできない。3つのうちどれか1つに頼らずに,それぞれのメリットを最大限に発揮し,デメリットを抑え,行政と住民が一体となって複合的な対策を取ることで,当該地域の特性に合わせた地域アイデンティティが創出され,歴史的街並み景観を望ましい形で継続的に保全することができると考えられる。
著者
後藤 寛
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.155, 2019 (Released:2019-09-24)

Ⅰ 目的地域市場の特性を店舗の立地分布を通して読み解く試みの一環としてほとんどがナショナルブランドであるファッションブランドショップの立地と集積に注目する。現在のファッション市場では年齢層を基本としつつライフステージを組み合わせた顧客セグメントを想定し、それぞれにターゲットを絞ったブランド展開がされている。それを踏まえてショップ群の立地と対象とされる顧客層の居住地分布を比較することにより最終的には同じ趣味関心をもつ群の実態を捉えようとするものである。Ⅱ 対象とデータ大規模小売店舗の各企業系列は都市システムに対して各々不完全なカバーしかしないが、業態をひとつのシステムと解釈することで各ナショナルブランドの動向、立地選択の全体像の理解が可能となる。平成30年5月~7月にかけて主要アパレルメーカーのサイトの店舗リストをもとに作成した婦人ファッションショップ370ブランド14859店(ラグジュアリーブランド数53,1628店,百貨店系アパレル99,4637店,SC系228,8594店)を用いる。ここでは規模・品揃えの差は捨象してショップの有無で論じる。Ⅲ 分析販路として百貨店向けとSC/モール向け、顧客セグメントとしてヤング向け,キャリア、ファミリー,ミセスと大別されるサブマーケットごとのショップは大規模小売店舗の立地に制約されて出店するが、その立地状況の分析から、たとえばすそ野の狭いヤング向けショップは上位都市都心部への極端な集中を示して購買のための広域移動の存在を伺わせ、逆に百貨店を販路とするミセス向けはマクロには全国に均等に立地しミクロには百貨店の立地に依って各都市都心にみられるなどの特徴が指摘できる。だが百貨店の撤退後そのまま空白地帯になる例などをみても消費者分布すべてを均等にカバーするものではない。このような特性も踏まえた店舗の成立条件、それらの集積する消費の場面にみられる都市の体系を明らかにすることを目指している。
著者
三上 岳彦 長谷川 直子 平野 淳平 福眞 吉美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.130, 2019 (Released:2019-09-24)

青森県十三湖は日本海に面する汽水湖で、現在は冬季に結氷することはないが、江戸時代にはほぼ毎年結氷(と解氷)し、その連続的な記録が弘前藩庁日記に1705年〜1860年の155年間にわたって残されていることが明らかになった。十三湖には、南から岩木川が流入しており、江戸時代には津軽平野で産出された米輸送の舟運に利用されていたことから、長期間の結氷解氷期日が記録されたと思われる。
著者
田中 雅大
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.139, 2019 (Released:2019-09-24)

いまやデジタルなものはあらゆる場所に行き渡り,社会を構成する重要な存在となっている.そこで人文社会科学の分野ではデジタルなものに関する存在論的・認識論的・方法論的な議論が活発化している.本発表では英語圏を中心に展開されている「デジタル地理学」という取組みを概観し,特にソフトウェアの役割に着目しつつ,デジタルなものに関する地理学的議論の動向を紹介する. 重要なのは,デジタル地理学はその名の通り「デジタル」なもの(ソフトウェア等)に注目するということである.技術的にいえば「デジタル」とは数値によって離散的に情報を表すことを意味する.あらゆるデジタルなものは「数値」という点で同質・等価であり,すべて分け隔てなくコンピューティングの対象となる.また離散的であるためソーティング(整列)のような操作を施せる.突き詰めればデジタルなものは物理的実体のない数値という抽象的存在である.人々は様々なモノをインタフェースにすることでデジタルなものと物質的に関わっている. コンピュータの処理速度が飛躍的に向上し,様々なインタフェースが日常空間のあらゆる場所で登場するようになったことで,デジタルなものが有する上記のような性質が社会-空間的問題を引き起こしている.ここでは都市空間におけるソフトウェア(コード)の役割を論じたThrift and French(2002)を筆者なりに解釈しつつ,デジタルなものと地理学の関係を整理したい.彼らによればソフトウェアの根幹は「書くこと」であり,それには3つの地理学的含意がある.すなわち,①ソフトウェアを書くことの地理,②ソフトウェアが書く地理,③書き込みの場としてのソフトウェアの地理,である. ①については,どこの・誰が・どのようにソフトウェアを書くのか,またそれに参加できるのか,という経済・文化・政治に関わる問題がある.また,人間はソフトウェアを書く行為を通じてデジタルな空間的知識(デジタルなまなざし・世界観)を身に着ける,という認識論的問題もある. ②は空間の監視や管理の問題と関係している.デジタルな存在であるソフトウェアの働きを人間は直接知覚できない.ソフトウェアは常に「背景」や「影」として存在し,人間の無意識の領野にある.その意味でソフトウェアは人間を超えた存在more-than-humanである.それは様々なアクターとの布置連関の中で行為主体性agencyを発揮し,都市のような空間を自動的に生産している.都市に存在するあらゆるものが様々なデバイスを通じてデジタル化され,数値として一緒くたに扱われ,ソーティング等の操作を施される.それはすぐさまインタフェースを介して物理空間に反映され,新しいかたちの社会的不平等・排除を引き起こしている.2000年代以降,こうしたポスト人間中心主義的な「空間の自動生産」論が展開されている. ③は人間と空間の関係に関わる問題である.ソフトウェアは創造性を発揮できる実験的な場でもある.たとえばThrift and French(2002)は,創造的なソフトウェアプロジェクトの多くが人間の身体に関心を寄せていることに注目している.ソフトウェアは五感の拡張(拡張現実,仮想現実等)や記憶の保存(過去把持)に関わっており,「人間」や「文化」なるものはどこに存在するのか,という問題を喚起する.Thrift, N. and French, S. 2002. The automatic production of space. Transactions of the Institute of British Geographers 27: 309-335
著者
千葉 晃
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.92, 2019 (Released:2019-09-24)

筆者は、2011年3月11日に発生した東日本大震災直後から月末までの岩手・宮城両県太平洋岸のアメダス地点の気温を調査した。この震災直後は体育館や寒い屋外で避難を余儀なくされていた被災者が多く、どの程度の気温であったのかを明らかにしておく必要がある。地震直前の14:40JSTでは0.5〜5.8℃で、直後の14:50JSTでは0.6〜5.6℃であった。16:00JSTに最も低温であったのは宮城県の塩釜で0.0℃を記録した。翌日3月12日に日最低気温が最も低かった地点は岩手県の譜代で-5.6℃、3月31日までも譜代で-6.4℃であった。
著者
有江 賢志朗 奈良間 千之 福井 幸太郎 飯田 肇 高橋 一徳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.109, 2019 (Released:2019-09-24)

1.はじめに 福井・飯田(2012)と福井ら(2018)は,飛騨山脈の多年性雪渓において,近年の小型かつ高精度な測量機器を用いて氷厚と流速の測定を実施した.その結果,流動現象が確認された六つの多年性雪渓は氷河(小窓氷河,三ノ窓氷河,カクネ里氷河,池ノ谷氷河,御前沢氷河,内蔵助氷河)であると判明した.飛騨山脈は,氷河と多年性雪渓が存在する山域となった.しかしながら,飛騨山脈のすべての多年性雪渓で氷河調査がおこなわれたわけではなく,飛騨山脈の氷河分布の全貌は明らかでない.福井ら(2018)は,飛騨山脈の未調査の多年性雪渓のうち,氷体が塑性変形を起こすのに十分な氷厚を持ち氷河の可能性があるのは,後立山連峰の唐松沢雪渓,不帰沢雪渓,杓子沢雪渓などごくわずかであると指摘している.そこで,本研究では,唐松沢雪渓において氷厚と流動の測定をおこない,現存氷河であるかどうかを検討した.さらに,本研究の唐松沢雪渓で測定された氷厚と流動速度を,氷河の塑性変形による氷河の内部変形の一般則であるグレンの流動則で比較し,唐松沢雪渓の流動機構について考察した.2.研究手法 氷河と多年性雪渓は,氷体が顕著な流動現象を示すかどうかで区別される.本研究では,唐松沢雪渓の氷厚を測定するために,アンテナから電波を地下に照射し,その反射から地下の内部構造を調べる地中レーダー探査による氷厚測定を実施した.また,縦断測線と横断測線との交点ではクロスチェックをおこない正確な氷厚を求めた.測定日は2018年9月21日である.さらに,雪渓上に垂直に打ち込んだステークの位置情報を融雪末期に2回GNSS測量を用いて測定し,その差分から唐松沢雪渓の融雪末期の流動速度を測定した.また,雪渓末端の岩盤に不動点を設置し,2回の位置情報のずれをGNSS測量の誤差とした.2回の測定日は,2018年9月23日と10月22日である.図1に地中レーダー探査の側線とGNSS測量の測点を示した.3.結果 地中レーダー探査の結果,唐松沢雪渓は30m以上の氷厚を持ち,塑性変形するのに十分な氷厚を持つことが確認された. また,流動測定の結果,2018年融雪末期の29日間で,P1で18cm,P2で25cm,P3で19cm,P4で18cm,P5で19cm,北東方向(雪渓の最大傾斜方向)に水平移動していた.雪渓末端部の河床の岩盤の不動点(P6)での水平移動距離は2㎝であった.今回の測量誤差を2㎝とすると,雪渓上の水平移動で示された雪渓の流動は,誤差を大きく上回る有意な値であるといえる.流動測定を実施した融雪末期は,積雪荷重が1年で最も小さいため,流動速度も1年で最小の時期であると考えられている.このことから,唐松沢雪渓は一年を通して流動していることが示唆され,現存氷河であることが判明した. さらに,唐松沢雪渓で測定された表面流動速度は,グレンの流動則による塑性変形の理論値を上回っていた.このことから,唐松沢雪渓の融雪末期における底面すべりの可能性が示唆される.引用文献福井幸太郎・飯田肇(2012):飛騨山脈,立山・剱山域の3つの多年性雪渓の氷厚と流動―日本に現存する氷河の可能性について―.雪氷,74,213-222.福井幸太郎・飯田肇・小坂共栄(2018):飛騨山脈で新たに見出された現存氷河とその特性.地理学評論,91,43-61.
著者
須崎 成二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.46, 2019 (Released:2019-09-24)

レズビアンの地理学的研究は,レズビアンが空間的領域を求めないというCastellsの主張に対する批判をめぐって展開してきた.Browne(2017)は,レズビアンの地理学がセクシュアリティだけでなく権力の問題にも着目する必要性を指摘しており,Pritchard et al.(2002)はゲイ・ディストリクトにおけるレズビアンの排除を議論している.本報告では,ゲイバーが集積する新宿二丁目のゲイ・ディストリクトにおいてレズビアンがいかにゲイと共存しているのか,いかに彼女らが排除もしくは危険性にさらされているかを明らかにすることを目的とする.首都圏に居住するレズビアン24名にスノーボールサンプリングによる半構造化面接を行った結果、英語圏で報告されるゲイ・ディストリクトにおけるレズビアンおよびレズビアンバーの排除は,新宿二丁目で得た本研究の知見との間で共通点もあるが限定的であり,レズビアンバー同士もしくはゲイバーとのつながりは,レズビアンバーの集積を維持し共存していくうえで重要な要素であると考えられる.一方で,ゲイ・ディストリクトにおける異性愛男性の存在は,空間を異性愛化させ,レズビアンにとっての安心感,安全性を低下させている.
著者
坂井 宏子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.31, 2019 (Released:2019-09-24)

1.はじめに 2004年新潟県中越地震で「新潟県中越地震復旧・復興 GIS プロジェクト」がスタートした。さらに2007年新潟県中越沖地震では、県対策本部地図作成班が(EMC:Emergency Mapping Center)設置された。 にいがた GIS 協議会は、必要なハードウェア、ソフトウェア、データ、人材等を無償で提供し、京都大学防災研究所、新潟大学災害復興科学センターと連携し、被災状況をリアルタイムに地図化した。2.EMC におけるデータについての課題 (2007/11 時点)(1)防災施設情報等のデータの不整備 地図化するための基礎データ(台帳データ)のデータベース化がされておらず、位置情報が整備されているデータもほとんどなかった。被災データ(Excel)を作成するための事前処理に時間がかかった。(2)被災情報のとりまとめブロック図の不整備(正式地名と通称の存在) 被災情報が、一般に使用されている字・町丁目単位ではなく、市町村独自の行政区やコミュニティNo毎で、それらのブロック図の整備がなされていなかったため、文字情報と地図情報をリンクさせるために対応表を作成する等事前準備に時間がかかった。(3)地図等の電子データの著作権・ライセンスに対する理解不足 提供物(地図データ、主題図)の著作権に関して、事前に正式な協定がなされていなかったため、活動終了後の活用において課題が残った。電子地図データの利用範囲(紙で大量印刷、庁内LAN利用、インターネット配信)が拡大される都度、無償提供者側とライセンスの使用許可範囲の交渉が必要となり時間を要した。3.EMC 活動を通しての提案 (2007/11 時点)(1)平常時における基礎データの整備1)基本的データの整備(市町村) 最低限必要な基本的データ(共用空間データ等)は、行政で整備しておく必要がある。また、取り纏め単位に使用するブロック図(行政区、コミュニティ区、小中学校区等)も整備しておくべきである。2)基本的データの整備及び国、市町村データの集約(県) 災害時には被災市町村との広域連携が必須となるため、あらかじめ統合型 GIS で整備された市町村の空間情報データ及びその他の機関が所有するデータを、県単位で集約することが望ましい。また民間地図も有効であるため事前に協定等結んでおくとよい。なお、広域で情報を集約するには、災害時必要な情報(水道、下水、道路等)の市町村の状況を事前に調査の上ルール化しておくことが望ましい。(2)利用者へのGISリテラシー教育 データベースの概念、GIS の基礎知識等研修会を実施する。(3)地域のGISセンター構築の検討(データセンターの活用) 平常時から基礎データを整備し、データの管理は、365日監視体制、セキュリティ、耐震性を備えた、リモートコントロールが可能で安全の保証確度が高いデータセンターの利用を考えるべきである。4.現在の取組と課題(1)新潟県との「災害時の応援業務に関する協定」 の締結 (2017/11) ①災害時における、応急対策のための電子地図の作成 ②平時における、防災訓練、研修等における連携 等を目指すもの 県内は約 6 割の市町村で「統合型 GIS」を整備しているが、まだ十分な状況ではない。新潟県では、災害時に必要となる基礎データの整備を行ったが、データの更新に課題が残っている。県内すべての自治体がデータを整備できているわけではないため、統一フォーマットでデータを集約更新するには限界があるようだ。現在、新潟県では統合型 GISの整備はなされていない。(2)N²EM(National Network for Emergency Mapping)の設立 (2019/5) 防災科学技術研究所が設立した N²EM(当協議会も参加)が、西日本豪雨の際、鹿児島県等の避難所オープンデータ作成を支援した。5.今後 GISは地域経営を支援する情報プラットフォームとして、災害時には「被害状況の見える化」、平常時には「地域の課題の見える化」を可能とする。産官学民で地域の GIS センターを構築し、データを共有・流通できる仕組みの確立を目指していきたいものである。
著者
荒 瑞穂 横山 ゆりか
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.86, 2019 (Released:2019-09-24)

Ⅰ はじめに近年,アニメやマンガの聖地巡礼という現象が話題になっている.新聞記事やテレビ番組などでも特集されるなど,アニメやマンガに興味がない者もこれらのコンテンツに触れる機会は多い.アニメ聖地巡礼に関する先行研究は数多く存在するが,『らき☆すた』を扱った谷村(2011)や『ガールズ&パンツァー』を扱った石坂ほか(2016)など,以前から対象となる作品が多く存在し研究対象として注目されてきた,作品中に現実に存在する背景が描かれている作品の研究が主である.しかし,ファンの間ではそれらの形態以外の作品での聖地巡礼も行われている.例えば,『刀剣乱舞』や『薄桜鬼』などの作品中に背景が描かれていない作品でも聖地巡礼が行われている.そこで本研究では,アニメ聖地巡礼を作品中の描写などとの関連から4種類に分類し,そのなかで特に,先行研究で着目されてこなかった形態の聖地に焦点を当てて分析を試みる.Ⅱ 聖地の分類の仮説本研究では,作品に関連しファンの間で行われている聖地巡礼を,作品の描写の中で一つの実在する町が細かに再現され舞台の探訪を可能としている「狭義聖地」と,描写の中で実在する町の再現がない「広義聖地」の2種類に大きく分類する.さらに,町を再現した描写がない「広義聖地」を「モデル地」「ゆかりの地」「依り代」の3種類に分類する.「モデル地」とは作品中の町の雰囲気が現実のいくつかの町に似ているために聖地となったもの,「ゆかりの地」とは歴史上の人物などをモデルにしたキャラクターが登場する作品で,キャラクターのモデルとなった人物などに関連する場所が聖地となったもの,「依り代」とはモノをモチーフとしたキャラクターが登場する作品で,キャラクターのモチーフとなったモノがある場所が聖地となるものと定義する.なお,ここでは「依り代」という言葉をキャラクターの魂の宿るものとして使用している.Ⅲ 調査の目的と方法本研究では,前述の4種類の聖地の分類方法の妥当性を確かめ,その特徴を調査するために,アニメやマンガに関連するサークルに所属する者とそれ以外とに向けてそれぞれgoogleフォームによるwebアンケートを行った.前者をサークル向けアンケート,後者を一般向けアンケートと呼ぶ.Ⅳ 結果と考察サークル向けアンケートは75件,一般向けアンケートは126件の回答が得られた.以下ではサークル向けアンケートの結果を述べる.回答では,「作者ゆかりの地」「制作会社所在地」や名前が共通する地などの可能性が指摘されたが,今回調査の対象とした作品中の描写やキャラクターのルーツに関連する聖地の分類については概ね意見の一致が得られた.また,各聖地についての特徴なども得られたが,ここでは特に今後の分析の対象とする「依り代」型の聖地について,従来型の聖地である「狭義聖地」と対比しつつ分析を行うこととする.回答によると「狭義聖地」の巡礼では,巡礼中の行動として,作品に関連する写真を撮ることや作品関連施設の利用,巡礼後の行動として,SNS,または身近な人との共有があがった.これは「依り代」型でも共通で,巡礼者は同様の行動を起こしている.一方で聖地巡礼先での観光の広がりについては,「狭義聖地」では1つの町に対していくつかの場所の描写があり,それらを巡る行動がみられるのに対し,「依り代」型聖地の特徴は,依り代であるモノのみに巡礼者が集中し,広がりがみられなかった.今後の調査では,「依り代」型の聖地巡礼を誘発したゲーム『刀剣乱舞』についてのキャラクター「山姥切国広」とコラボし刀剣「山姥切国広」の展示を行った足利市の事例を取り上げ,イベント運営側,巡礼者側両者へのヒアリング調査を行う.それにより,「依り代」型聖地での巡礼者の巡礼行動と「依り代」型聖地の活用方法についての具体的な検討を行いたい.謝辞調査に参加いただきましたサークル関係者の皆様,大学生の皆様,また,ご協力くださいました東京都市大学都市生活学部の諫川輝之先生に心より感謝申し上げます.参考文献石坂愛,卯田卓矢,益田理広,甲斐宗一郎,周宇放,関拓也,菅野緑,根本拓真,松井圭介 2016.茨城県大洗町における「ガールズ&パンツァー」がもたらす社会的・経済的変化:曲がり松商店街と大貫商店街を事例に.地域研究年報 38 : 61-89.谷村要 2011.アニメ聖地巡礼者の研究(1)―2つの欲望ベクトルに着目して.大手前大学論集 12 : 187-199.
著者
谷 謙二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.20, 2019 (Released:2019-09-24)

1.はじめに 旧版地形図をWebサイト上で配信・閲覧する「今昔マップ旧版地形図配信・閲覧サービス」は,2005年にWindowsソフトとして開発を開始し,2009年にインターネットダウンロード,2013年にWebサイトとして開発を継続している(谷 2005,2009,2017)。2022年から実施の高校の必履修科目「地理総合」においては,防災などの単元で新旧地形図の読み取りが地理的技能として位置づけられており,これまで以上に旧版地形図が活用されることが想定される。そこで,今昔マップでは,従来の大都市地域だけでなく,収録範囲を47都道府県の県庁所在地まで広げるとともに,機能面でも改良を行っている。2.データセットの追加と利用状況 今昔マップは当初は首都圏のみだったが,3大都市圏,政令指定都市と範囲を拡大し,2019年6月の津と山口の公開により,全県庁所在地を網羅し,現在37地域の地形図3,759枚が収録されている。収録範囲の拡大にともない,2014年には1000件/日程度だった「今昔マップ on the web」のアクセス数は,2018年以降は6000件/日を超えるようになっている。3.システム面での改良 「今昔マップ 旧版地形図配信・閲覧システム」は,地図タイルを配信するタイルマップサービス,WindowsPCにインストールして使用するデスクトップソフト「今昔マップ3」,Web上で閲覧する「今昔マップ on the web」から構成される。このうち「今昔マップ3」は大きく変化していない。 タイルマップサービスについては,限られたサーバ容量の中でデータセットを追加するため,ファイル容量の削減に努めた。まず,従来256色(8ビット)で保存していたカラー地形図画像を,16色(4ビット)に減色した。これにより,カラー画像の場合はファイルサイズが半分近くまで減少した。また,海域が広い図面は,細かな青色ドットのためファイルサイズが大きくなっていたため,海部を白抜きにして加工し,ファイルサイズを縮小した。さらに,当初は独自に色別標高地図タイル画像を作成しており,重ねられるようになっていたが,地理院地図の色別標高図を使用することにして独自の標高タイル画像は削除した。サーバのデータ容量の削減により,データセットの追加が可能となった。 「今昔マップ on the web」については,状況の変化に伴いシステムを大きく変更した。まず2016年には,スマートフォン等で位置情報を使用するためSSLで呼び出せるようにした。さらに,公開開始時にはGoogle Maps APIを利用したシステムだったが,2018年に無償使用の範囲が縮小したため,オープンソースWeb地図ライブラリ「Leaflet」を使用することにし,JavaScriptのプログラムを全面的に書き換えた。それまではデフォルトでGoogleマップが右側に並べて表示されていたが,Leafletになってからは地理院地図がデフォルトとなった。しかし,Googleマップで利用できるストリートビューは古い街道の現状を見る際などで有用なため,右クリックで当該地点のGoogleマップにリンクするメニューを作成した。Googleマップだけでなく,YAHOO!地図やMapion等の地図サービスにもリンクしている。また,Leafletに変更した際に,それまでの1画面または2画面表示に加え,4画面に分割して表示できるようにした。 昭和戦前期の一部地形図では,軍関係施設などが消されるなどのいわゆる戦時改描が行われている。戦時改描図は,図郭外の定価欄が( )で括られているとされており,今昔マップ収録地図においてもそうした図面が51枚含まれる。戦時改描図は,知らない人が見ると改描を信じてしまう可能性がある。そこで今昔マップでは,定価欄が( )で括られている図面の上にカーソルがある場合は,図幅情報として地図上に注記することとした。具体的に地図上で改描されている箇所はわからないものの,改描の可能性を注意喚起することはできめるだろう。 文 献谷 謙二 2005. 時系列地形図閲覧ソフト『今昔マップ』(首都圏編)の開発.埼玉大学教育学部地理学研究報:25,31-43.谷 謙二 2009.時系列地形図閲覧ソフト『今昔マップ2』(首都圏編・中京圏編・京阪神圏編)の開発 .GIS-理論と応用:17(2),1-10.谷 謙二 2017.「今昔マップ旧版地形図タイル画像配信・閲覧サービス」の開発.GIS-理論と応用:25(1),1-10.
著者
中埜 貴元 遠藤 涼 大野 裕幸 岩橋 純子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.51, 2019 (Released:2019-09-24)

河川氾濫による浸水域を夜間に把握するためのセンサの調査と河川水域を対象とした性能試験を実施した.夜間観測に有効なセンサとして超高感度カメラと熱赤外線カメラを選定し,冬季夜間に試験を実施した.その結果,超高感度カメラで水域が判別できるとともに,最適ISO感度は51200〜102400程度であること,熱赤外線カメラではある程度水域が識別できるものの,温度閾値などでの抽出は困難であることなどが分かった.
著者
北村 繁
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.69, 2019 (Released:2019-09-24)

空中写真(ステレオペア写真)の実体視による地形判読は、それをきっかけに、地形に関心をもつ学生も少なく無いため、教育的な効果も非常に大きいが、従来、ステレオペア写真を実体視にはある程度の訓練が必要で、大学での受講者十数人〜数十人の一般教養科目や教職科目の講義では、受講者全員が実体視できるまで時間をかけることは難しかった。また、鮮明な画像を提供できる教材の製作も難しかった。そこで、鮮明な画像を表示でき、また、近年急速に普及が進んでいるスマートフォンと、スマートフォンに画像を提供できるオンラインストレージ、さらにスマートフォンで3D映像等を簡単に見ることができるVRメガネを用いることで、十数〜数十人の受講者からなる一般教養科目や教職科目の講義においても、より簡単に空中写真を実体視し、講義時間中に地形判読を可能にする教材を作成した。これを実際の大学の講義で使用したところ、ほぼ全員の受講者が、ごく短時間のうちに空中写真を実体視し、地形を把握することができたことから、今回作成した教材は、般教養科目や教職科目の講義における地形の教育において効果的とみることができる。