著者
坂井 朋子
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.41-52, 2018

<p>本論文では,窃盗症と診断された女性との箱庭療法過程に見られた,循環的な成長について論じる。本事例は定着のしづらさが特徴で,ペアになる対象を求めて彷徨っていた。人に尽くして満足する自己愛的なファンタジーが自我と乖離し主導することに問題の本質があり,そのため強い守りとなる枠が必要であった。重要なのはその中で不安や葛藤を保持することである。箱庭は,セラピストも含む多様な「私」との交感の場で,囲われて省みられることによって「私」は純化され,固着から解放された。背景の出来事が意味のあるタイミングとしてとらえられ,途絶えていた体験の連続性が箱庭において結びついたことが,ひとつの鍵であったと思われる。閉塞的なペアのイメージが開放するものに変化する過程で,イメージと身体が一致する転機があり,家族や地域社会,風土と調和して生きられる「私」になった。</p>