著者
坂井 聰 浅香 正
出版者
(財)古代学協会
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究は,古代イタリアにおける都市起源の歴史的状況を,紀元前5世紀を中心に文献・考古学の両面から考察することを目的とした。研究代表者坂井は,主としてイタリア中南部のカンパニアを対象地域とし,まず前8〜5世紀における文化的状況を考古史料をもとに概観し分析を加えた。その結果を踏まえこの地域における都市の代表例として,ポンペイ遺跡をとりあげ,その都市起源に関するデータを過去の発掘報告から抽出した。とりわけ城壁建設の起源とその変遷過程に注目し,現存する城壁に先だって少なくとも2種類のより古い段階の城壁が存在することを,古代学的証拠より確認した。そのうち最も古い段階の城壁は,併存する遺物から見て前6世紀に建設されたと考えられ,先に概括したこの時期のカンパニアの全般的な政治・文化状況から,ポンペイ都市建設が,エトルスキ人の影響下に行われたとする結論を導いた。その次の段階の城壁は、従来の研究によればエトルスキ段階以降の前5世紀の建設であるといわれてきたが,ポンペイ遺跡の他の発掘データと比して,この時期に大規模な城壁建設が行われたとは考えにくく、前5世紀以降の建設である可能性を指摘した。またポンペイ都市における公共建造物の建造を中心に,都市建設後の発展に関する歴史的背景研究を行い,都市の本格的成立はヘレニズム時代以降のことであることを明らかにした。研究分担者浅香は,以上のカンパニアにおける状況と対比して,中部イタリアを対象に都市建設の歴史的背景を研究した。とりわけローマの都市起源問題を,伝承・考古史料の両面から検討し,前7〜5世紀におけるイタリア半島中南部の都市建設に関する全般的な研究見通しを立てるための,基礎的研究を行った。