著者
坂口 伸治
出版者
久留米大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

今回の研究対象は高齢者と若年者の男女の喉頭である。研究方法は高齢者と若年者の声帯、各5例の標本を作製し、透過型電子顕微鏡と走査型電子顕微鏡で観察を行った。声帯の可塑性に大きな影響を与える線維成分(膠原線維と弾性線維)、基質の変化を電顕的に観察し加齢的変化を観察した。またこれらを産生する線維芽細胞の超微構造を観察しその加齢的変化を検討した。1.発声時に最も振動する声帯粘膜固有層浅層の弾性線維は、若年者の弾性線維と形態的に異なっており組織に弾力性を与える弾性線維本来の働きが低下していることが示唆された。このことから高齢者の声帯では粘膜固有層浅層の弾力性が低下しており、このことが声帯振動に影響を与え、声の老化の一つの原因になっていると考えられた。2.声帯の線維成分の産生は声帯の黄斑で主に行われる。高齢者声帯黄斑の形態学特徴は、線維芽細胞の形態的変化であった。線維芽細胞の数が少なくなっており、その多くは活動性が低下した、あるいは変性過程の線維芽細胞であった。またこのような線維芽細胞では膠原線維と弾性線維の産生が低下していた。高齢者声帯黄斑の線維芽細胞の形態的機能的変化は声帯靱帯などの声帯の線維組織の老化に影響を与え、声の老化に関与していることが示唆された。現在研究結果は、論文として投稿準備中である。またさらに高齢者声帯の超微構造の研究を進めている。