著者
坂本 恵美子 菅原 準二 梅森 美嘉子 三谷 英夫
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:0021454X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.372-386, 1996-10
被引用文献数
14

思春期性成長期における骨格性下顎前突症(Class III)の下顎骨は, 良好な顎間関係を有する者(Class I)に比べて過成長を示すか否かなど, Class IIIの顎顔面頭蓋の成長様相についていまだ解明されていないことが多い.そこで本研究では, 外科的矯正治療を要すると診断され, 成長観察下におかれていた男子・未治療Class III 16例を研究対象にして, 思春期性成長期における顎顔面頭蓋の成長変化様相を解析した.対照群としては, 男子・Class I 20例を選択した.研究資料は, 10∿15歳までの5年間にわたって経年的に収集した側面頭部X線規格写真である.両群の成長変化様相については, 顔面骨格図形分析, 座標分析, 角度および距離分析によって多面的に検討した.本研究の結果は以下の通りであった.1. Class III群の上・下顎骨は, Class I群と類似した成長量を示し, 劣成長あるいは過成長は認められなかった.2. Class III群の後頭蓋底の成長量はClass I群よりも有意に小さかった.3. Class III群の咬合平面は思春期性成長期間中に変化しなかったが, Class I群では平坦化していた.4. Wits appraisal値はClass I群では安定していたのに対して, Class III群では著しく悪化していた.結論として, 思春期性成長期におけるClass IIIの基本的骨格構成(skeletal framework)には変化が見られず, それによって前後的上下顎間関係が悪化することはなかったが, 咬合平面に対する上・下顎歯槽基底部の前後的位置関係は著しく悪化することが判明した.