著者
坂本 成司
出版者
鳥取大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

【背景と目的】集中治療患者では安静による筋力低下が大きい。なかでも特に下肢の筋力や運動を維持することは下肢の血流を保つのにも重要で、下肢静脈血栓症の予防にもつながる。しかしながら、集中治療患者では鎮静剤により自発的に筋肉を動かすことができない。これに対してEMS(電気的筋肉刺激)を用いることにより、自発運動の低下した患者でも筋肉を動かし、下肢の血流を保つことができるか調べる。【方法】健常成人男性9名を対象に右大腿静脈血流速度を超音波ドップラー法で測定し、安静時の最大血流速度に対して(1)自発的に下腿筋肉を収縮させた時、(2)下肢静脈血栓予防のための間欠的空気圧迫装置使用時、(3)EMS(電気的筋肉刺激)を下腿筋肉に使用時、それぞれの最大血流速度増加を比較した。【結果】右大腿静脈の最大血流速度は安静時に比べ、(1)下腿の等尺収縮時は2.7倍、足の底屈時は2.9倍、(2)間欠的空気圧迫時は2.3倍の有意な増加があった。(3)EMS(電気的筋肉刺激)では1.3倍となったが、有意な増加とは言えなかった。【考察】下腿に対するEMS(電気的筋肉刺激)による右大腿静脈の最大血流速度増加は当初想定していたほどの効果は見られなかった。自発的な下腿筋肉の収縮や間欠的空気圧迫装置による血流増加は瞬間的に起こるのに対して、実験に用いたEMS(電気的筋肉刺激)は時間が長く持続的な刺激であるため、瞬間的な血流増加が起きなかったものと考えられる。被験者の感覚としても自発的な収縮とEMS(電気的筋肉刺激)による刺激では筋肉の収縮パターンが違うとのことであった。また、今回の刺激ではEMS(電気的筋肉刺激)による筋肉の動きが小さい割に、被検者の痛みや不快が大きかった。今後はEMS(電気的筋肉刺激)パターンを工夫することにより、自発的な筋肉収縮と近い刺激を調べる必要がある。