著者
坂本 智子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

細胞骨格は、細胞の形態形成、免疫細胞の遊走、神経回路形成など様々な生命現象の基盤を制御している。細胞骨格を制御する主要な分子の一つが、低分子量G蛋白質Rhoである。Rhoは活性体のGTP結合型と不活性体のGDP結合型の間を往復し、細胞内分子スイッチとして働く。Rho標的分子の一つmDiaは、Forminファミリー蛋白質の一つであり、GTP結合型Rhoの結合によって分子内結合を開裂し、細胞内にアクチン線維の誘導を引き起こす。しかしながら、Rho-mDia経路の時空間特異的制御機構は不明な点が多い。本研究では、mDia結合タンパク質の同定を通して、上記の問題にアプローチした。mDia1のN末領域をbaitとし、マウス脳ライゼートを対象にpull-downアッセイを行い、新規mDia結合蛋白質Liprin-αの同定、単離した。免疫沈降法、リコンビナントタンパク質を用いた解析により、mDiaはLiprin-αのコイルドコイル領域のC末側に直接結合することを見出した。mDiaのRho結合領域へのRhoの結合およびN末領域への結合をmDiaのC末(Dia-autoregulatory domain)と競合することを見出した。次に、細胞内におけるmDiaの機能への影響を確認するためにRNAi法によりMIH3T3細胞、HeLa細胞内のLiprin-αを枯渇させたところ、アクチン線維および接着斑が増加することが明らかになった。Liprin-αのmDia結合領域を強制発現させたところ、アクチン線維および接着斑の減弱が認められた。以上のことから、Liprin-αはmDiaによるアクチン重合を負に制御する分子であることが示唆された(論文作成中)。また、リコンビナントタンパク質を用いて、Liprin-αの最小mDia結合領域を決定し、mDia-Liprin-α複合体の発現・精製に成功した。現在、結合様式を検討するために結晶構造解析を進めている。