著者
坂本 智弥
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

脱共役タンパク質(UCP-1)の活性化を介してエネルギーを消費する、褐色・褐色様脂肪細胞は、全身の糖脂質代謝制御に重要な役割を果たすことが近年明らかとなった。我々はこれらの細胞の発生・活性に伴うエネルギー代謝の促進を通じて、肥満・糖尿病の予防・改善を行うことができると考えた。本研究では、褐色・褐色様脂肪細胞の発生メカニズムや、それらの細胞の発生・活性化が肥満によってどのように変化するかを検討した。まず、動物個体レベルで褐色脂肪細胞の発生を観察できる実験系の確立を試みた。UCP1発現調節領域が活性化される、細胞でレポーター遺伝子(赤色蛍光タンパク質)が発現する遺伝子改変マウスを樹立し、蛍光タンパク質由来の蛍光強度の変化を通じて、動物個体レベルで非侵襲的・経時的にUCP1の転写活性を検出できる実験系を確立した。この遺伝子改変マウスを用いることで、薬剤・食品成分の褐色脂肪細胞誘導能を動物個体レベルで簡便に評価をできると考えられる。さらに、肥満により白色脂肪組織で炎症性サイトカインが増加することに着目し、培養細胞モデルや肥満・糖尿病モデルマウスを用いて、炎症性サイトカインと褐色・褐色様脂肪細胞の発生を検討した。その結果、肥満状態の脂肪組織に浸潤したマクロファージに由来する炎症性サイトカインが、脂肪細胞のextracellular signal-related kinas (ERK)活性化を介して、褐色・褐色様脂肪細胞の発生を抑制することを見出した。これは、肥満により、脂肪組織のエネルギー消費が低下し、肥満を助長する「悪循環」メカニズムの一旦を明らかとしたものだと考えられ、新たな薬剤・食品成分のターゲットと成り得る。