著者
坂村 美奈 米澤 拓郎 伊藤 友隆 中澤 仁 徳田 英幸
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.57, no.10, pp.2162-2174, 2016-10-15

市民参加型まちづくり(Participatory planning)とは,まちづくりの過程に市民を巻き込むことであり,実際の都市の中で起こっている問題を素早く発見,解決できる可能性が高い.市民参加型まちづくりを促進するためには市の職員と市民の間での日常的なコミュニケーションを活性化することが重要である.本研究の目的は,人々が日常的に持つモバイル端末やPC端末を通して情報をやりとりする参加型センシングを市民参加型まちづくりにも適用することである.既存の参加型センシングの例では,質問の内容カテゴリが限定的なものや,市民の意見収集,意見交換を行うための特定のアプリケーションのインストールが必要であるものが存在する.また,市民から提供された情報はプライバシ情報を除いたオープンな情報であることやシステムの操作が容易であることが望ましい.本研究ではこれらの課題を解決し,市民参加型まちづくりのための参加型センシングシステム,MinaQnを提案する.本研究ではMinaQnを2週間にわたって3都市(藤沢市・茅ヶ崎市・寒川町)の公式ホームページに組み込み,市の職員および市民に利用してもらう実証実験を行った.全体として1,000個以上の回答データと市の職員および市民からのフィードバックを得ることで,定性的および定量的な評価を行い,将来異なる地域や多くの市民に持続的に参加してもらうためにはどうすればよいか,これからの参加型センシングシステムのデザイン指針を示した.特に災害時において今後より多くの市民に位置情報を提供してもらうためには,質問の意図説明やプッシュ通知など市からの積極性が必要なことや,市の職員が実際に自由な質問設定をするために自治体の中あるいは市全体で議論し質問内容の枠組みを増やしていけるような取り組みや制度の策定が必要なことが分かった.
著者
坂村 美奈 米澤 拓郎 伊藤 友隆 金子 義之 中澤 仁
雑誌
デジタルプラクティス (ISSN:21884390)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.550-572, 2018-04-15

地方自治体には,多種多様化する住民の要望に対して,迅速な把握・対応をする効率的なまちづくりの実現が期待される.しかし,現状の地方自治体の日常的な行政業務では,情報がデータ化・共有できておらず時間的・人的コストが高い部分が存在する.本研究では,地方自治体の日常的な行政業務において,職員の持つ携帯端末を通してリアルタイムな情報を取得可能とする参加型センシングを適用し,効率的な情報収集・共有を可能とすることを目的とする.本研究で開発した情報収集・共有システム,みなレポにより,地方自治体の日常的な行政業務の効率化だけでなく,地方自治体の職員による専門的知識に基づいた情報収集が実現される.みなレポは2016年10月から藤沢市において実運用されており,道路・ゴミの集積所の管理や,動物の死骸・落書き・不法投棄の発見に関するレポートがこれまで計1,740件以上収集された.本稿では,実運用により得られた知見および課題について報告する.