著者
坂田 景祐
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.114, pp.400, 2003

本研究は、日本、アメリカ合衆国、EU(スウェーデン)の3カ国をモデル地域として、4通りの排出権の計算方法を用いた林業経営収支モデルを作成した。このモデルでは、CO2排出権の単価(CO2価格)を$5と$10(現在の市場取引価格を参考)とした場合の「造林利回り」を算出することと、伐期に影響を与える造林利回り最大の伐期齢が異なるCO2価格により何年になるのかを明らかにした。 本研究で用いた4通りの森林の排出権の計算方法は、ストック変化法、平均貯蔵法、トンイヤー法、排出権を返還する方法である。「ストック変化法」とは、ある1時点の森林が貯蔵している炭素量を排出権として計算する方法であり、ここでは伐採時に樹木が貯蔵している炭素量を排出権として森林所有者が獲得するとした。「平均貯蔵法」とは、植栽時から伐採までの間の平均蓄積量を排出権とする方法である。植栽して早くから成長し、温暖化を防止する森林には多くの排出権が見込まれることになる。ここでは、伐期齢1年ごとの平均蓄積量の排出権を森林所有者が伐採時に獲得するとした。「トンイヤー法」とは、森林の炭素貯蔵により温暖化を防止する効果を排出権として計算する方法である。ここでは森林が貯蔵した炭素量の1/55を55年間毎年排出権として森林所有者が獲得するとした。「排出権を返還する方法」とは、森林の炭素循環を考慮した方法で、森林所有者は森林が成育している段階では、森林が貯蔵する炭素量を毎年排出権として獲得するが、伐採時には貯蔵した炭素を排出するととらえて、獲得した排出権をすべて返還する方法である。トンイヤー法と排出権を返還する方法では、森林所有者は排出権を毎年獲得することから、その排出権にはモデル国の10年国債の利回り(過去10年間の平均)(日本:2.53%/年;アメリカ合衆国:5.93%/年;スウェーデン:5.32%/年)を1年複利で乗じた。 CO2排出権取引を想定しない場合の伐採収益は、丸太を木材市場で売却した収入から造林費と伐採費を引いた金額である。CO2排出権取引を想定した伐採収益は、排出権取引を想定しない場合の伐採収益にCO2排出権の金額(4方法ごと)を加算した値である。CO2排出権の金額は、排出権(量)にCO2価格を乗じた値である。この林業経営収支モデルを日本では神奈川県津久井郡(樹種:スギ)、アメリカ合衆国は南部のジョージア州(樹種:イエローパイン)、スウェーデンは南部のユタランド地域(樹種:ノルウェースプルス)に適用した。 異なるCO2価格による造林利回り最大の伐期齢の変化については、CO2価格が上昇するにつれて「ストック変化法」と「平均貯蔵法」の場合、造林利回り最大の伐期齢は、日本、アメリカ合衆国では短縮し、スウェーデンでは延長した。「トンイヤー法」と「排出権を返還する方法」の場合では、日本、スウェーデンでは延長し、アメリカ合衆国では短縮した。 造林利回りが最大になる計算方法として、「排出権を返還する方法」において造林利回りが最大になった理由は、排出権取引を想定しない場合の造林利回りが国債の利回りと比較して低いためである。この方法は、伐採前から排出権を獲得して、その排出権は国債の利回りにより増加することから、伐期が長くなるにつれて造林利回りは国債の利回りに収束することになる。そのため、「排出権を返還する方法」以外の計算方法による造林利回りが国債の利回りより低い場合、この計算方法の造林利回りが最も高くなる。異なるCO2価格による造林利回り最大の伐期齢の変化として、「ストック変化法」と「平均貯蔵法」では、CO2価格の上昇に伴い樹木の平均成長量が最大の伐期齢に移動することを明らかにした。「トンイヤー法」と「排出権を返還する方法」では、伐期が長くなるに従い、造林利回りは国債の利回りに収束する。そのため、この計算方法による造林利回りが国債の利回りより低い場合、伐期が長くなるほど造林利回りは高くなる。この場合、CO2価格が上昇するほど国債の利回りに影響を受ける排出権の価値が増し、造林利回りが国債の利回りまで上昇する伐期は短縮する。