著者
斎藤 馨 藤原 章雄 石井 秀樹 志村 正太郎 矢野 安樹子 大場 有希子
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.P2032, 2004

東京大学秩父演習林内に設置した2台の森林映像記録ロボットカメラの映像(動画と音)を利用して、森林に関する環境学習の教材として、季節変化を映像と音で閲覧できるDVDとWebページの作成と、小学校の授業で児童が容易に季節変化を見ることのできる印刷物を作成した。印刷物は、児童が容易に閲覧し、印を付けたり、異なる日の写真を比較できることに着目し、2001年と2002年の過去のロボットカメラの写真を1年間並べる際に、2004年版のカレンダーの形式を用いて、カレンダーの日付と同一の過去の写真を配置した。これにより小学生が、1年分に並んだ過去の森林の写真を、1年間の日々の並びとして直感的に理解できる。ロボットカメラの映像には森林の音も記録されていて、鳥や蝉の鳴き声が入っている。音から鳥の種を同定しカレンダーの日付欄に記載した。また映像を使ってDVDとWebページを作成し、カレンダーで一覧している1年間の変化を、視聴できる教材を作成した。今後は実際に小学校での授業に試験的に用いて、これらの教材の有用性を検証していく。
著者
野田 桂子 稲葉 治彦 山根 明臣 岩田 隆太郎 森下 加奈子 岡本 徳子
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.P3059, 2004

1.はじめに ヒメヨコバイ科昆虫は農業害虫として知られている種が多いが,樹木害虫としてはあまり知られていない。本科に属するトチノキヒメヨコバイAlnetoidea sp.は,トチノキAesculus turbinata Blumeの葉裏に寄生する体長3mm程度の吸汁性昆虫である。トチノキは日本の暖温帯都市部において街路樹や学校・公園の緑化樹として広く植えられている落葉樹であるが,近年首都圏において早期退色・落葉の症状を呈している。本種がその原因となっている可能性が高く,薬剤散布により本種の防除を行った木と無処理木とでは,処理木のほうが明らかにトチノキ葉の葉緑素数が高いという結果が出ている。そこで防除の基礎として,トチノキヒメヨコバイ(以下「ヨコバイ」)の性比および越冬調査を行った。2.試料と方法2.1.試料 性比調査に使用したヨコバイ成虫は,2002年12月から2003年12月にかけて,神奈川県藤沢市亀井野日本大学湘南校舎図書館前のトチノキより採集した。また,2003年6月25日に捕虫網を使用して,同校舎図書館前トチノキ近辺を飛翔していたヨコバイ成虫を捕らえ,これも性比調査の試料とした。2.2.方法 ヨコバイの雌雄は,成虫の尾端部で見分けられる。♂は尾端が二裂し,二裂部よりも短い陰茎が突出するのに対し,♀は尾端に体長の1/4前後の長さの産卵管を有する。多数捕獲したヨコバイ成虫を,キーエンス社製デジタルHDマイクロスコープを使用して♂♀をカウントし,その性比を調べた。 ヨコバイの越冬形態や越冬場所を確認するため,2002年12月に近辺の常緑樹を対象としたビーティングネットによる越冬調査を行った。その際,リュウノヒゲ(ジャノヒゲ)およびオカメザサからヨコバイ成虫を発見し,常緑樹の葉裏で成虫越冬をすることが確認できた。 また,2003年7月に予備調査として,日本大学構内のトチノキ以外の樹木やその下生えにおいて,ビーティングネットを使用してのヨコバイ捕獲を試みた。しかしヨコバイは捕獲できず,宿主はトチノキに限られることが示唆された。 以上を踏まえて,2003年12月_から_2004年1月にかけて,日本大学構内の常緑植物を対象としてビーティングネットによるヨコバイ成虫の捕獲を行い,越冬場所とする常緑樹および多年生草本を記録した。また,ヨコバイ成虫が越冬場所を探す際,主宿主樹であるトチノキからどの程度の距離まで移動するのかを知るため,捕獲場所から最も近いトチノキまでの距離を測定した。3.結果 全体的に♀は♂よりも数が多く,捕獲したヨコバイ成虫1196頭のうち,♂nm = 422頭,♀nf =774頭で,性比nm / (nm+nf) = 0.35となった。 2003年6月25日にトチノキ近辺を飛翔していたヨコバイ成虫は,捕獲した47頭のうち,♂38頭,♀9頭と♂が多く,性比は0.81となった。また2003年7月30日の雨上がりには,多数のヨコバイ成虫が敷石や地面に張り付くという現象がみられた。この敷石に張り付いていたヨコバイは,捕獲した143頭のうち♂114頭,♀29頭とやはり♂が多く,性比は0.80であった。 越冬調査により,ヨコバイはリュウノヒゲ(ジャノヒゲ),オカメザサ,オオムラサキ,サツキ,ハナゾノツクバネウツギ,サザンカ,イヌツゲ,シラカシ,ヤマモモなど,主宿主樹であるトチノキの近傍に生える植物の葉裏を越冬場所として利用していることが判明した。移動距離は最長が52m,最短が3mであった。4.考察 トチノキの葉裏から採集したヨコバイの性比が0.35だったのに対し,飛翔中および敷石に張り付いていたヨコバイの性比はそれぞれ0.81と0.80であった。♂成虫は♀成虫よりも活発に活動するように思われた。 越冬調査では,直接道路に面している部分より,ほかの植え込みの陰や壁際などの風当たりが弱い部分に数多く見受けられた。日本大学構内にはトチノキ付近に常緑植物が多く植栽されており,それほど移動しなくとも越冬場所を見つけられる状態にあった。トチノキ付近に常緑植物がない場合は,さらに遠くまで移動するものと思われる。
著者
村瀬 仁美 上山 洋平 小林 達明 高橋 輝昌 徳地 直子
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.P1043, 2004

関東地方の暖温帯に分布するコナラ二次林群落としてクヌギーコナラ群集、クリーコナラ群集等が知られている。互いに丘陵地を中心にその分布域を接している。土壌条件で前者は、孔隙率が高く、A層が深く腐植に富み、pHが相対的に高い理化学性の良好な土壌に主として立地し、後者は、孔隙率が低く、A層が浅く腐植が相対的に乏しく、pHが低い強酸性の理化学性の悪い土壌に立地している(辻、1991)。一般的に、前者のような土壌の窒素の無機化速度は、後者のような土壌に比べると速く、硝化率も大きいと考えられる。また、硝酸態窒素を利用する植物は硝酸還元酵素活性(Nitrate Reductase Activity:NRA)も高くなると考えられる。Tokuchiら(1999)は、花崗岩質山地の斜面下部で無機化速度が速く、硝化率も高く、斜面上部では逆の傾向があることを示し、それらの立地に対応した植物-土壌系が成立することを示唆している。Koyama&Tokuchi(2003)は、それらの立地を代表する樹種3種の実生の硝酸還元酵素活性を調べ、立地の硝化能力と対応することを示した。<BR> 本研究では、平面的に群落分化が見られる狭山丘陵で植物-土壌系の関係を調べようとした。<BR> 調査地は、東京都武蔵村山市および瑞穂町と埼玉県所沢市に広がる東西11km、南北4kmの狭山丘陵の西端にあたる野山北・六道山公園内のコナラ、クヌギなどの様々な夏緑樹林が混生する林分に設けた。対象樹種は、アオハダ、アカマツ、ヒノキ、アカシデ、イヌシデ、クリ、クヌギ、アラカシ、コナラ、ムクノキ、エノキ、コウゾ、コブシ、クロモジ、ミツバアケビ、ヒサカキ、コアジサイ、ウワミズザクラ、モミジイチゴ、ネムノキ、フジ、ウリカエデ、アカメガシワ、ヌルデ、イヌツゲ、マユミ、ゴンズイ、アオキ、ミズキ、リョウブ、ネジキ、ヤマツツジ、エゴノキ、マルバアオダモ、ムラサキシキブ、クサギ、ウグイスカグラ、ガマズミ、コバノガマズミ、オトコヨウゾメ、サロトリイバラ、アズマネザサの計42種で、2003年8月下旬から10月上旬の晴れた日の10時30分から12時30分の間に各樹種、3個体ずつ葉をランダムに採取し、Havill et al.(1974)に従い、NRAを測定した。<BR> 各樹種のNRAは数値が高い順に、ムクノキ・ミツバアケビ・コウゾ・コブシ・ムラサキシキブ・エノキ・アズマネザサ・マルバアオダモ・モミジイチゴ・ヌルデ・ウグイスカグ・イヌシデ・リョウブ・クサギ・エゴノキの「高」グループ15種、ミズキ・コナラ・イヌツゲ・アラカシ・アカメガシワ・マユミ・ガマズミ・アカシデ・ゴンズイの「中」グループ9種、ウリカエデ・アオハダ・コバノガマズミ・フジ・ネムノキ・コアジサイ・クヌギ・ヤマツツジの「低」グループ8種、サルトリイバラ・ヒサカキ・クロモジ・ウワミズザクラ・ネジキ・クリの「なし」グループ6種と区分された。これらをクヌギーコナラ群集とクリーコナラ群集の2つの植生タイプに大別すると、クヌギーコナラ群集は、「高」グループが、ムクノキ・コブシ・ムラサキシキブ・エノキ・アズマネザサ・ヌルデ・イヌシデ・エゴノキの8種、「中」グループが、コナラ・アラカシ・マユミ・ガマズミ・アカシデ・ゴンズイの6種、「低」グループが、フジ・クヌギ・ヤマツツジの3種、「なし」グループが、サルトリイバラ・ヒサカキの2種の計19種となり、クリーコナラ群集は、「高」グループが、ミツバアケビ・マルバアオダモ・ウグイスカグラ・リョウブ・エゴノキの5種、「中」グループが、コナラ・イヌツゲ・アラカシ・ガマズミ・アカシデの5種、「低」グループが、ウリカエデ・アオハダ・コバノガマズミ・ネムノキ・コアジサイ・ヤマツツジの6種、「なし」グループが、ヒサカキ・クロモジ・ウワミズザクラ・ネジキ・クリの5種の計21種となった。<BR> NRAが「高」や「中」を示した樹種は理化学性の良好な土壌に主に生育しているものがほとんどであった。また、例外はあるものの、同科の種のNRAは同グループに属している傾向を示した。<BR> 以上から、クヌギーコナラ群集ではNRAが「高」、「中」の樹種が多く、クリーコナラ群集はクヌギーコナラ群集に比べ、「低」、「なし」の樹種が多くなったことから、狭山丘陵を構成している樹種のNRAは2つの植生タイプに対応する傾向があることが示唆された。
著者
渡邉 敦史 磯田 圭哉 平尾 知士 近藤 禎二
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.A17, 2004

今回,2つの異なる方法によってアカマツのSSRマーカーを開発し,開発にかかる効率性や手法の簡便さといった観点から手法の比較を行なったので報告する。また,SSR分析を行なった際に1プライマー対から2領域以上の断片が検出され,解析に困難さが伴うことがある。スギを対象としたSSR分析の結果に基づいてその実例について報告する。まず,アカマツSSRの単離には2つの方法を利用した。一つはエンリッチメント法であり,Hamilton et al(1999)に従った。もう一つは,Lian and Hogetsu (2002)によって報告されたsuppression PCRを利用する方法である。エンリッチメント法では(AC)nを繰り返し単位とするSSRの単離を試みた。54プライマー対についてPCR増幅した結果,68.5%にあたる37プライマー対から期待されるサイズのフラグメントが得られた。アカマツ10個体を利用して,単一フラグメントの増幅と多型の有無について確認した結果,33プライマー対は単一な断片が増幅されることを確認した。このうち,3プライマー対は単型的であり,残る30プライマー対からは2_から_13個の対立遺伝子を確認した。エンリッチメント法と同様にアカマツ1個体を利用してLian and Hogetsu (2002)の方法に従ってSSRを単離した。63クローンについてプライマー設計し,増幅した36クローンについて二度目のシーケンシングを行なった。その結果,16クローンがSSRマーカー候補として選抜された。16クローンについてPCR増幅した結果,期待されるサイズの断片を増幅した14のうち,9プライマー対が単一の断片を増幅し,2_から_13の対立遺伝子を確認できた。 関東育種基本区のスギ精英樹936クローンのうち、765クローンをMoriguchiら(2003)が報告したスギSSR3プライマー対について実際にSSR分析した。使用したプライマーのうち,Cjgssr149では多くの個体で1領域に由来すると考えられる対立遺伝子を確認出来た一方で,2領域に由来すると考えられる断片が検出された。そこで,シーケンスしたところ,目的とした領域の一部が重複した類似領域であることが判明した。 Lian and Hogetsu (2002)の方法では,プライマー設計した63プライマーのうち,14.3%にあたる9プライマーのみを最終的にマーカーとすることが出来た。一方,エンリッチメント法ではプライマー設計し,PCR増幅した54プライマー対のうち,約60%にあたるプライマー対をマーカーとして考えることが出来た。しかし,この結果だけに基づいてエンリッチメント法が効率面で優れていると判断することは困難である。エンリッチメント法では,ポジティブクローンを選抜する段階でその3倍にあたるコロニー(768コロニー)を選抜しており,これらのコロニーにSSRが含まれているか確認する作業を行なう必要性がある上に,実験操作もハイブリダイゼーションなど熟練者以外には容易でない場合も多い。一方で,Lian and Hogetsu (2002)の方法は選抜したコロニーの90%以上がポジティブであり,操作もまたPCRを主体とした手法の連続であることから比較的容易にマーカー開発を進めることが出来る。但し,コスト面ではLian and Hogetsu (2002)の方法は,二度にわたるシーケンシングとプライマー設計を行なう必要性から,エンリッチメント法よりも負担は大きい。 SSRマーカーは開発に労力がかかる一方で,得られる情報量の大きさや再現性の高さから,きわめて有益なマーカーである。しかし,針葉樹は染色体倍加を伴わないゲノム重複が生じているとの報告もあり,類似する領域がゲノム中に散在している可能性も高い。実際,アカマツで増幅したプライマー対のうちマーカーとして選抜できなかった理由の多くは2領域以上と考えられる断片が検出されたことにあった。複数領域が検出されたとき,分離比検定やシーケンシングを行ない,領域間の関係を明確にすることで,初めて解析に利用できると考える。
著者
真宮 靖治
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.114, pp.123, 2003

マツノザイセンチュウのマツ樹体内における生息実態については、樹体の病状進展経過や枯死後の時間的経過との関連で、とくにその個体数変動が明らかにされてきた。マツの発病後30日前後で、樹体内の線虫個体数はピークに達したあと減少する。このような変動傾向について、マツノザイセンチュウのマツ樹体内における摂食行動との関連が予想された。また、個体数の変動には菌類の影響も考えられた。これらの視点に立って、マツ丸太に対するマツノザイセンチュウの接種実験を行った。伐倒直後丸太に対する接種、伐倒後1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月をそれぞれ経過した丸太に対する接種、の4処理区を設定し、各区5本ずつの丸太を供試した。線虫接種後、経時的に各処理区丸太から材片を採取して線虫分離を行った。接種後、マツノザイセンチュウは丸太材内で増殖し、1ヵ月後に個体数増加のピークに達したあと減少していった。このような個体数変動の傾向は各処理区で共通していた。伐倒後の時間経過は線虫増殖に明らかな影響を及ぼした。伐倒直後に比べ、1ヶ月以上経過後、線虫接種した丸太では、線虫個体数は少なかった。とくに、3ヶ月経過後接種の処理区では、線虫はほとんど増殖しなかった。このような増殖経過から、マツノザイセンチュウはより新鮮なマツ材組織での増殖が有利であり、この場合、柔細胞などのマツ材組織を主要な食餌源としている可能性が示唆された。伐倒直後の丸太に線虫を接種したあと1ヶ月経過した丸太に対して、ヒラタケとシイタケをそれぞれ接種する区を設定し、丸太材内における線虫増殖経過を追った。ヒラタケを接種した丸太では、線虫個体数が減少した。シイタケ接種の影響は見られなかった。ヒラタケが示した線虫個体数抑制効果は、自然条件下、マツ枯死木材内での線虫個体数変動における、木材腐朽菌をはじめとする各種微生物の影響を示唆した。
著者
沼本 晋也 林 拙郎 西尾 陽介 近藤 観慈
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.114, pp.215, 2003

従来,復旧治山が主であったが近年は予防治山も重視されるようになった。そのため,事業に対する必要性の判断が重要となり,危険性が高いと判断される地区や支流域から順次事業を行う必要性が生じている。三重県では山地森林の適正な管理を目的とした森林GISデータベースが整備されており,治山分野に対してもこのデータベースを活用することが求められている。そこで,森林データベースを用いた山地流域の土砂災害に対する被災危険度を評価するための基準作りを目的として,崩壊との関連性の高い諸要因を設定し,数量化理論を用いて崩壊の発生・非発生事例を分析し,支流域単位での崩壊危険率の算定を行った。次に,求められた各支流域の崩壊因子と保全因子に基づき,対象地域における支流域ごとの被災危険度の評価を行った。
著者
楠本 大 鈴木 和夫
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.G05, 2004

はじめに針葉樹の師部は、傷害や菌の感染に対して、防御反応を引き起こす。それにともない師部内では様々な化学変化が起こる。これまで多くの組織化学的研究によって、師部の化学物質の変化が示されているが、それら化学物質の経時的・空間的変化を定量的に明らかにしたものは少ない。本研究では、フェノール系物質を中心に防御反応による化学物質の量的変化を、組織化学的観察と対応させながら、明らかにすることを試みた。材料と方法実験には東京大学演習林田無試験地植栽の5年生ヒノキを用いた。7月にヒノキの主幹に傷を付け、その後継続的に5本ずつ選び、傷の周りの樹皮を採取した。解剖観察:樹皮切片を作成した。ポリフェノールはジアゾ反応法とニトロソフェノール反応法で、リグニンはフロログルシン-HCl法で染色した。スベリンはフロログルシン-HClで染色した切片にUV光を照射して蛍光を観察した。フェノール類の抽出と定量:樹皮を傷害カルス、壊死部(コルク組織を含む)、傷から1mmまでの生きた師部(コルク形成層とコルク皮層を含む)、傷から1_から_2mmまでの生きた師部に分け、凍結乾燥した。10mgの組織片を粉砕し、80%メタノールで2回抽出した。総ポリフェノール量をFolin-Denis法で定量した。タンニン量は、抽出液にゼラチンを加えてタンニンを沈澱させたのち、上澄みに残ったポリフェノール量を総ポリフェノール量から引くことで計算した。壁結合フェニルプロパノイドの抽出と定量:メタノール抽出を行った後の残渣から細胞壁に結合したフェニルプロパノイドを1N NaOHで抽出した。抽出されたフェニルプロパノイドはHPLCで分析した。リグニンの定量:NaOHで抽出した後、残渣のリグニン量をアセチルブロミド法により測定した。結果傷害カルスにおけるポリフェノール量は健全部よりも測定期間を通じて有意に高く、解剖観察においてもポリフェノール粒が多数観察された。一方、壊死部では3日目で既にポリフェノール粒は消失し、量的にも減少した。0-1mm師部では、parenchymatic zoneにおいて多量のポリフェノール粒が観察された。また、師部柔細胞では14日目以降液胞の拡大とポリフェノールの染色性の低下が観察された。0-1mm師部のポリフェノール量は健全部よりも若干増加したがその差は有意ではなかった。1-2mm師部のポリフェノール量は健全部と変わらず、解剖観察によっても変化はみられなかった。タンニン量は、いずれの部位においてもポリフェノール量の20_から_35%を占め、ポリフェノールとほぼ同じ経時変化を示した。傷付け7日目に壊死部の細胞壁にリグニンの蓄積が認められ始め、14日目まで蓄積の範囲が増加した。壊死部のリグニン濃度は14日目から増加し始め、28日目に一定に達した。傷害カルスでは、カルス形成が始まったばかりの14日目に健全部に比べてリグニン濃度が低かったが、28日目以降は健全部と同様の濃度を示した。壁結合フェニルプロパノイドについては、p -クマル酸、カフェー酸、フェルラ酸、シナピン酸のうち、フェルラ酸のみが検出された。フェルラ酸は壊死部と傷害カルスで7日目以降増加した。考察傷害カルスのポリフェノールは、その発達初期から多量に含まれており、傷害カルスの防御に強く関与していると考えられた。一方で、師部柔細胞では、化学性の変化によると思われる染色性の低下が認められた。壊死部ではポリフェノールの減少がみられたが、これは細胞が傷付けられたときに遊離した酸化酵素がポリフェノールを酸化重合させたためと考えられた。壊死部のリグニンは、染色によって7日目に認められたが、実際に細胞壁中の濃度が増加するのは14日以降であった。また、その増加は28日目まで続き、壊死部であっても1ヵ月程度は生理活性を維持している可能性が示唆された。壁結合フェルラ酸はリグニン濃度に変化が認められた壊死部と傷害カルスにおいて有意に増加し、リグニン合成との関連が示唆された。このように、ヒノキ師部の防御反応は部位によって多様であり、その発現のタイミングも異なっていた。病原体に対する抵抗性は、こうした種々の防御反応の総合的な効果によって決定されると考えられた。
著者
金子 有子 金子 隆之 高田 壮則
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.P5009, 2004

1.目的 1)河川の氾濫やギャップ形成等の台風撹乱がサワグルミの個体群動態に及ぼす影響,ならびに,2)ニホンジカ(以下シカ)の食害がトチノキの個体群動態に及ぼす影響を明らかにすることを目的に,個体群センサスとセンサス結果に基づいた推移行列モデルによるコンピュータシミュレーションを行った。2.方法 京都大学農学部付属芦生演習林(京都府北桑田郡美山町芦生)のモンドリ谷渓畔域に2.8haの調査区を設定し,トチノキとサワグルミについて種子段階から成熟段階までの全生存個体に標識し,1989年から2003年まで断続的に個体群センサス,種子生産,実生の消長調査を行った。 1)サワグルミ個体群への台風撹乱の影響 大型台風(総降水量287mm)が直撃した1990年と台風撹乱の影響がなかった1989年,1991年,1992年,1993年,1996年の調査結果に基づき,サワグルミ集団の個体群成長率が台風と結実豊凶の要因に依存して変化する様子をシミュレーションで示した。台風の影響としては台風撹乱による稚樹生存率に対するマイナスの効果,および,台風直撃の2年後と3年後に観察された実生および稚樹生存率へのプラスの効果を考慮した。 2)トチノキ個体群へのシカ食害の影響 目立ったシカ食害が観察されなかった1997年までとシカ食害が激化した1998年以降の個体群センサスの結果から,シカ食害による動態パラメータ(実生定着数,稚樹の生存率および成長率)の低下の度合いをe-Aとおいて推定した。推定したシカ食害圧の下で個体群の長期変動をシミュレートし,個体群サイズの減少や食害圧がなくなった場合の回復の様子,成熟個体の生存率に依存して変化する長期個体群変動の様子等を示した。3.結果 1)サワグルミ個体群への台風撹乱の影響 サワグルミ集団の長期個体群成長率は台風要因と豊凶要因に依存して変化した。波及効果による台風の2年後と3年後のプラス効果を含めた場合の結果では,台風頻度が低いほど,また豊作頻度が高いほど個体群成長率は高くなった。プラス効果を含めなかった場合の結果と比べると個体群成長率が増加していた。また,実際の観察による豊作の頻度は2年に一度,台風の頻度は5年に一度であったが,この時の個体群成長率は1を越えていた。 2)トチノキ個体群へのシカ食害の影響 トチノキ集団の個体群サイズは2001年に1992年の36.15_%_に減少していた。1992年と2001年の個体群センサスの結果から推定したところ,シカ食害により生存率は樹高0-1mのサイズ階ではその2.13_%_,1-4mのサイズ階ではその95.16_%_に低下していたことが明らかになった。推定された動態パラメータを用いて1997年を初期値とし,50年間の動態をシミュレートした結果,個体群サイズは最初の数年で急速に減少し,9年目には20_%_以下になるが、その後は行列の最大固有値に従って減少速度が緩やかになることが分かった。また,50年後にシカの食害がなくなったとして回復速度を評価したところ,52年後には初期値とほぼ同じ総個体数になった。4.考察 1)サワグルミ個体群への台風撹乱の影響 サワグルミは台風の直撃による地表撹乱(河川の氾濫,斜面崩壊)や風倒木等による物理的撹乱によって大きな被害を受けていたが,台風撹乱の波及効果としてギャップ形成や裸地形成による実生定着のセーフサイトの増加があることにより,個体群成長率が上昇していることが確認された。 2)トチノキ個体群へのシカ食害の影響 トチノキ集団へのシカ食害は樹高4m以下の稚樹にのみ見られ最初の2,3年に著しい個体数の減少をもたらす。しかし,採餌効率によりその後の減少は緩やかになり,また,トチノキは成熟個体に達してからの余命が150年以上に及ぶことから個体群自体は長く存続すると考えられた。また,その状態で食害圧から解放されれば蓄積した成熟個体による実生供給で急速に回復することが示唆された。
著者
佐々木 峰子 倉本 哲嗣 岡村 政則 平岡 裕一郎 藤澤 義武 秋庭 満輝
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.114, pp.352, 2003

抵抗性クロマツのF1から高い抵抗性を持つ個体群を若齢で選抜し,さし木によって増殖する手法の確立を目的とした研究を進めている。この際,さし木の採穂台木となる人工接種済みの個体群において,さし木発根性が保たれていることを確認する必要がある。そこで,異なる強さの病原力を持つ材線虫を接種し,選抜された個体群のさし木発根性を調査した。 材料は抵抗性クロマツ5家系の2年生苗である。3アイソレイトの材線虫を用いて接種を行い,生き残った各個体をさし木した。分散分析による結果から,強い淘汰圧をかけて選抜した集団であってもさし木発根性はあまり影響を受けないこと,F1の発根率は母樹によって有意な差があることがわかった。
著者
小林 達明
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.B12, 2004

1.なぜJABEEに取り組んだのか 本学でJABEEに関わる検討が初めて行われたのは5年ほど前に遡る。当時の学部長が、「法人化された大学では、教育も外部評価を得る必要がある。JABEEという技術者教育評価を行う民間機関が設立されるので、各人は所属する学会に働きかけて対応して欲しい。学会がJABEEに加盟しないと審査員を派遣する事ができず、すなわち評価を受ける事ができなくなってしまう」という趣旨の発言を行った。 それから対応が始まったので、学部全体がJABEEを意識しながら進んできた経緯がある。これは学科が受審する上でメリットだった。それはJABEE審査がプログラムの達成度が検証可能なシステムになっており、その検証結果をもとに教育改善のループがうまく機能しているかどうかを重視しているからである。すなわち、制度化した形のそのようなシステムを学科単独で準備するのは難しい点がある。2.JABEE評価の特徴とそれへの対応 JABEE審査の特徴はその成果主義、アウトカムズ(outcomes)評価にある。われわれがまず取り組んだのはシラバス記述の改善である。それまでのシラバスはほとんどが教員側の視点で書かれており、学生に理解できるようには十分書き込まれていなかった毎回の学習内容の記述はもちろんのこと、他科目との関連などカリキュラムにおける位置付けの明示、学生が到達度を把握しやすい学習目標の設定、それと整合した評価基準の設定を重点的に改善してきた。現在では個別指導時間(オフィスアワー)の明示と実施に取り組んでいる。 現在、とくにJABEEが求めているのは、プログラム全体の達成度評価が可能な、学習・教育目標の設定である。プログラム全体の目標であっても、相当に細目化されて、量的な判定が可能な程度に具体化されることが求められている。ここに至るには、プログラムの教育理念がよく練られ、実際に来る学生の質に合わせたカリキュラムと講義内容が巧妙にデザインされている必要がある。正直に言って、私たちにとっては未踏の領域だが、今後、プログラム改善を継続的に行う中で、具体的な姿が見えてくるのだろう。 昨年はJABEEそのものがWAの実地審査を受けた年でもあった。その視察団から、また新たな課題が投げかけられた。指摘された事項でもっとも大きなものは、design教育が不十分だということである。ただしここでのデザインとは、広く課題解決のための計画能力のことである。彼らは技術者教育と科学教育の違いを、このデザイン教育の有無と位置付けている。3.試行審査を受けて_-_千葉大学の経験と波紋 JABEE受審の経験はわれわれに様々な影響をもたらした。主張の裏付けとなる証拠資料の重要さ、教育目標と評価の関係、理念とカリキュラムの重要性、受審準備にあたっての教員間のチームワークの大切さなど様々あるが、もっとも大きな成果は、学科が学部教育の基本単位である事を確認し、われわれ教員団の中に躍動感が持ち込まれたことではないだろうか。 JABEEが直接のきっかけではないが、1999年には園芸学部の課題について、学生にアンケート調査を行い、様々な問題のありかを把握する事ができた。さらに2002年にはフォローアップを行い、問題の解決状況を把握すると共に、卒業生にもアンケートを送付し、学科の教育が社会で実際に役に立っているかどうかモニターした。このほかにも同窓会の力を借りて、学科教育に関するシンポジウムも開催された。個々の授業は学生の評価を受けるようになった。これらの取り組みで、現在の問題の所在はほぼ把握されたと考えられる。 問題はその後の対応だが、それについても、2002年より、学科の理念と組織、カリキュラム、入試に関する3つのワーキングが組織され、議論が進んでいる。大学法人化初日には間に合いそうにないが、2004年度中には、理念にもとづいた組織とカリキュラムが組み上げられそうな見通しである。
著者
下川 真季 上條 隆志 加藤 拓 樋口 広芳
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.P5036, 2004

2000年7月の噴火以降、亜硫酸ガスの噴出が続く三宅島ではスギの枯死が顕著であり、今後、島内の多くのスギ植林地に何らかの植生回復・緑化手段が講じられる可能性がある。そこで本研究では、三宅島におけるスギ人工林の土壌中に含まれる埋土種子集団について、発芽可能な種子数および種組成を明らかにし、その植生回復・緑化利用に対する可能性を検討した。2002年12月、島内のスギ人工林において噴火により堆積した火山灰(以下、火山灰)と噴火前の埋没土壌(以下、表土)を採取した。2003年4月、表土と火山灰、および表土と火山灰の混合物(以下、混合)を用いて、播き出し実験を開始した。定期的に発芽数の測定を行い、さらに出現個体を同定した。表土試料から平均2776±90個体/_m2_(値は現地換算したもの)が発芽し、28種が同定できた。一方、火山灰試料からは85±37個体/_m2_が発芽し、6種が同定できた。また、混合試料からは 1912±638個体/_m2_が発芽し、31種が同定できた。主な出現種は、草本ではダンドボロギク・ハシカグサ・コナスビ・シマナガバヤブマオ・ドクダミ・カヤツリグサ類、木本ではカジイチゴ・ヤナギイチゴなどであり、三宅島の二次遷移初期にみられる種が多く見られた。三宅島での一次遷移初期にみられるハチジョウイタドリやハチジョウススキ、オオバヤシャブシなどの先駆種は全く出現しなかった。また、出現した種のうち、外来種はダンドボロギクの一種のみと少なく、在来種が多かった。以上のことから、三宅島のスギ人工林における埋土種子集団は、種子数・種組成ともに植生回復・緑化利用に対して大きな可能性をもつことが明らかとなった。
著者
渋谷 幸弘 餅田 治之
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.114, pp.26, 2003

フィリピンにおける森林再生事業は、初期の政府が直轄で行う造林から近年では地域の住民組織が主体となったものへと変化してきた。しかし、現在においても問題の抜本的解決には至っていない。そこで本研究では、フィリピンにおける主要な森林再生事業である、__丸1__政府が直轄で行う造林と、__丸2__住民組織による造林が地域の実態においていかなる問題をはらんでいるのかという点に関して、事業に関係している地域住民に焦点を当て考察を行った。具体的には、__丸1__事業の公平性、__丸2__地域住民による造林地の自立的な維持管理、__丸3__地域住民の生活改善への寄与、そして、__丸4__森林の再生という4つの分析視角を設定し事業の評価を試みた。政府が直轄で行う事業としては、国際協力事業団の協力により1976__から__1992年に実施されたパンタバンガン森林開発プロジェクトを取り上げた。プロジェクトの目的は、ダムの集水域に広がる荒廃林地に造林を行うことによって土砂堆積を防ぐことであり、約1万haの造林が行われた。当プロジェクトでは、林地・造林木は国の所有とされ、地域住民は主に雇用労働者として事業に携わった。住民組織による事業としては、現在の林政における最重要政策であるCBFM(Community Based Forest Management)を取り上げた。CBFMは地域の住民組織に対して25年を契約単位とする林野保有権を付与し、住民組織を基盤とした資源の共同管理を目指そうとするものである。調査地においては、二つの住民組織が各々約300haの国有林地を利用し、果樹造林を行っていた。調査地は、ルソン島中部に位置するヌエバエシハ州カラングラン町を設定した。当地域では過去にパンタバンガンプロジェクトが実施され、2001年以降二つの住民組織がパンタバンガンプロジェクトと同じ造林地を利用してCBFMを実施している。そのため、多くの住民が双方の事業に関わっており、両事業の比較が可能であった。調査は2001年8月、2002年2月、2002年9月の3回実施し、設定した二集落の全世帯に対して質問表を用いた悉皆調査を実施した。地域住民は所得水準によって以下の4つの階層に分類することが可能であった。高所得順に、__丸1__農外就業者、__丸2__自作農、__丸3__小作農、__丸4__農業雇用労働者であり、この階層の違いをもとに分析をおこなった。__丸1__事業の公平性:パンタバンガンプロジェクトにおいては、最も貧しい農業雇用労働者が最も雇用機会を得ることができず、雇用に際して平等が確保されていなかった。CBFMの実施主体である住民組織への参加率は、自作農が最も高いものの、その他の階層ではほぼ同程度であった。しかし、農業雇用労働者は日々の生活の糧を得なければならないため、造林地の維持管理ができず、CBFMは富裕層のみが利益を得ることができ、貧困層が実質的に参加できない仕組みになりつつあった。__丸2__造林地の自立的な維持管理:パンタバンガンプロジェクトにおいては、実施期間中、年平均10ha以上が山火事によって被害を受けた。林地・造林木に対してほとんど何の権利も持たなかった地域住民にとって、造林木を維持管理するインセンティブは無く、造林地を保護する自立的な行動は見られなかった。CBFMでは、その同じ造林地において、2001年に事業が開始されて以来、山火事による造林木の被害は無い。これは、住民組織が山火事に対処するために規則を作り、草刈や消火活動などを行った結果であり、25年(最長50年)に及ぶ林野保有権が林地・造林木の維持管理における強力なインセンティブになっていると考えられた。__丸3__住民の生活改善への寄与:当地域における住民のニーズはどの階層においても、「雇用機会の創出」が最も高かった。パンタバンガンプロジェクトは、16年間という長期にわたって雇用機会を提供することができたが、一時的な効果にとどまっており、地域の持続的な発展に繋がることはなかった。CBFMにおいては、住民組織が造林事業にとどまらず、家畜飼育事業や金融事業などを自主的に行うことを計画しており、CBFMを通じた新たな地域発展の可能性が生まれつつあった。__丸4__森林再生事業としての評価:パンタバンガンプロジェクトにおいては、20種類以上の多彩な樹種が造林され、採算性の低い場所にも大面積に造林された。CBFMにおいては、造林されているのはマンゴーを主体とする数種の換金樹種に限られ、また集落から交通アクセスのよい林地にしか造林が行われていない。面積は現在のところ完全に事業が成功したとして約600haである。このように、森林の再生という側面からみれば、CBFMには限界があるということができる。
著者
久米 篤 安岡 慶子 廣瀬 茂樹 大槻 恭一 小川 滋
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.114, pp.87, 2003

<B>はじめに</B>樹木は,多数の同じような形をした葉(個葉)によって構成されている。個葉は,その機能的な独立性のため,測定や解析の最小単位として扱われることが多い。しかし,ここで問題になるのは,多くの場合,一枚一枚の葉の機能的なバラつき不明であり,実質的な蒸散・生産能力評価が難しいことである。樹冠において,光合成・蒸散量のある時間における単葉ごとの違い,あるいは樹冠の位置による違いは大きい。その一方で,久米ら(2002)は,数枚の単葉の光合成の日平均値を用いることによって,単木レベルの樹冠蒸散量を高い精度で推定した。このことから,単葉が示す分散特性には時間や位置に依存した特殊性が存在することが伺われるが,理論的根拠は示されていなかった。そこで,樹冠における蒸散・光合成のばらつきを,年間の観測データから解析し,その特性を抽出し,樹冠における1枚の葉がどの程度の代表性を持つのかを明らかにし,何故数枚の単葉の光合成の日平均値によって,樹冠蒸散量を高い精度で推定できるのかを明らかにした。<BR><B>方法</B>対象林分は,九州大学福岡演習林のマテバシイ人工林(22年生)で,平均樹高は9mである。この林分には1998年に微気象観測用と樹冠観察用の2つの観測タワーが建設され,微気象観測用タワーでは,日射・長波放射・気温・相対湿度・風速が高さ別に10分間隔で測定されており,林内には林内雨・樹幹流・土壌水分・樹液流測定用ヒートパルス装置などが測定・設置されている。この樹冠観察用タワーを用いて,マテバシイの樹冠の個葉の光合成・蒸散速度の日変化を2000年7月から2001年7月まで,LI-COR LI-6400を用い,晴天日に10回(日)測定した。測定は,光量子入射量(PAR),CO2濃度,葉面飽差,葉温などが,実際の環境条件にできるだけ近くなるように調節し,葉面の位置や方向の違いが反映されるようにした。樹冠を上層と下層の2層に分け,それぞれの層で3つの別の枝についている葉を,朝から夕方まで1時間から2時間おきに測定した。そして,葉の本来持っている光合成能力のバラツキを測定するために,2001年7月初旬に樹冠頂部で5本の別の樹の枝に付いている葉について,葉内CO2濃度(Ci)と光合成速度(A)の関係(A-Ci曲線),またPARと光合成速度(A)の関係(A-PAR曲線)を測定した。<BR><B>結果及び考察</B> 2000年7月に,樹冠最上層の葉において,A-Ci曲線と,A-PAR曲線を測定した結果,異なる樹木の枝につく葉の間のバラツキは非常に小さかった。従って,個々の葉が本来持っている潜在的光合成能力には大きな差がない。ところが,野外の日変化の過程,特に夏季の晴天日においては,光合成の日中低下の影響で,この関係から大きく外れ,潜在的光合成能力を元にした光合成-蒸散モデルが,夏季においては上手く適合しなかった(過大評価する)。このことは,ペンマン-マンティース式による蒸散量の計算結果との比較においても示された。<BR> ある時間における光合成・蒸散速度の個葉間のバラツキは比較的大きい。これは,(1)葉の向きが様々であり,その位置によってある時間における光の当り方が大きく異なること,(2)午前中に強光が当っていた葉では,午後には光合成の日中低下の影響で午前中に光が当っていなかった葉よりも光合成速度が低下することなどが原因として挙げられる。それにもかかわらず,野外で一日を通して1__から__2時間おきに測定したデータから求められた光合成・蒸散速度の平均値,あるいは日積算値では,個葉間のバラツキは年間を通して小さかった。この理由は,(1)樹冠上部においては,どの位置の葉も太陽の移動のために1日に当る光の量にはあまり大きな差がないこと,(2)日中低下が生じる葉でも,午前中にはかなりの量の光合成を行っており,午後の低下の影響があまり大きくならないこと,(3)樹冠下部においても,日光合成量は上部からの積算葉面積指数の増加に伴ってほぼ同じように減少し,樹冠の同じ層に位置する葉同士では日平均値のバラツキは小さいためであることがわかった。<BR> これらの結果は,マテバシイの樹冠において,一枚の葉の代表性は高く,同時に多くの葉をたくさん測定するよりかは,少数の葉を1日を通して測定するほうが,実際の光合成蒸散量の推定には有効であると同時に,その精度にもかなり信頼性が置けるものであることを示している。また,樹冠内のいくつかの異なった高さ(異なった積算葉面積指数)の位置で測定すれば,より高い精度の推定値を得ることができるであろう。<BR>
著者
小林 正秀 衣浦 晴生 野崎 愛
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.I02, 2004

カシノナガキクイムシ(以下、カシナガ)が穿入したナラ類の生立木が枯死するのは、カシナガが樹体内に病原菌を持ち込むためと考えられている。海外でも生立木に穿入するナガキクイムシ類が知られており、カシナガと同様に病原菌のベクターになっていると疑われている種類もいる。しかし、ナガキクイムシ類は、一般に衰弱木や枯死木に穿入し、生立木に穿入しても樹液によって繁殖に成功することはほとんどない。カシナガでも、樹液が繁殖阻害要因になっていると推察されているが、樹液が繁殖に及ぼす影響を調査した事例はない。そこで、穿入孔からの樹液流出の有無とカシナガの羽化脱出数を同時に調査した。2.方 法 京都府和知町仏主の被害地(以下、和知調査地)と京北町米々谷の被害地(以下、京北調査地)で調査を行った。2003年6月17日、和知調査地のコナラ20本とミズナラ6本の穿入孔に、また6月21日、京北調査地のコナラ2本とミズナラ15本の穿入孔にチューブ式トラップ(図)を設置した。 トラップの設置は、調査木の地上高1mまでの樹幹部の穿入孔を調査し、穿入孔数が20孔以上の場合には20個のトラップを、20孔未満の場合には10個のトラップを設置した。ただし、和知調査地の調査木は、2002年6月上旬に、樹幹表面の穿入孔の有無によって穿入履歴の有無を確認し、穿入履歴がある調査木には、穿入孔数の多少にかかわらず、10個のトラップを設置した。 7月11日、フィルムケース内に入れたティッシュペーパーの変色の有無によって、穿入孔からの樹液流出の有無を確認した。また、7月11日_から_11月12日まで2週間ごとにトラップ内に脱出したカシナガ成虫を回収して雌雄別に数えた。3.結 果 穿入孔からの樹液流出とカシナガ脱出状況を表に示す。樹液を流出している穿入孔の割合は、穿入後に生存した樹木(以下、穿入生存木)の穿入孔のほうが穿入後に枯死した樹木(以下、穿入枯死木)の穿入孔よりも有意に高かった。 カシナガの脱出が確認された調査木の割合は、穿入枯死木(9本中7本)のほうが穿入生存木(34本中3本)よりも有意に高かった。また、脱出が確認された穿入孔の割合も、穿入枯死木の穿入孔のほうが穿入生存木の穿入孔よりも有意に高かった。脱出が確認された穿入孔あたりの脱出数は、穿入生存木(平均102.5頭)のほうが穿入枯死木(平均48.3頭)よりも有意に多かった。 脱出が確認された穿入孔の割合は、樹液を流出していない穿入孔(243孔中47孔)のほうが樹液を流出している穿入孔(387孔中14孔)よりも有意に高かった。しかし、脱出が確認された穿入孔あたりの脱出数は、樹液を流出している穿入孔(平均62.8頭)と流出してない穿入孔(平均69.3頭)との間に有意差がなかった。4.考 察 穿入生存木からのカシナガ脱出数は少ないとする報告が多く、今回も同様の傾向が認められた。樹液を流出している穿入孔では、脱出がなく繁殖に失敗している穿入孔の割合が高かったことから、樹液が繁殖阻害要因であり、穿入生存木からの脱出数が少ないのは、穿入生存木の樹液流出量が多いためと考えられる。 穿入孔あたりの脱出数は、平均2_から_20頭とされている。これに比較して、今回の穿入孔たりの脱出数は多く、最高337頭が脱出した。特に、穿入生存木の穿入孔からの脱出数が多かったが、これは、穿入生存木では樹液によって繁殖に失敗する穿入孔の割合が高いため、一旦繁殖に成功した穿入孔は種内競争の影響が少なく、広い繁殖容積が確保されたためと推察される。 ヤツバキクイイムシが青変菌と共生関係を結んで針葉樹生立木を衰弱または枯死させるのは、生立木に穿入しても樹脂などの防御物質による抵抗を受けて繁殖できないため、青変菌によって樹木を弱らせ、キクイムシ類が利用可能な状態にするためとされている。ナラ樹の樹液は、針葉樹の樹脂と同様の防御物質であり、R. quercivoraは青変菌と同様に、その防御を突破する役割を担っていると推察される。
著者
伊藤 かおり 井上 公基 石垣 逸朗
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.114, pp.214, 2003

1. はじめに 健全な森林や良質の木材を育成するためには、森林施業が不可欠である。また、林道を開設し森林施業を効率的に進める必要がある。しかし、林道開設にともなう伐採は、その周辺の水辺林の機能が損なわれている場合もある。また林業地帯では、河川の水際までスギ・ヒノキなどの針葉樹が植林され、水辺本来の植生が失われつつある。 水辺林の機能には、日射の遮断や倒木の供給、落葉・落下昆虫の供給、野生動物の生息環境の提供などがある。本研究では、林相の違いによる水辺林の機能を評価するために、広葉樹流域と針葉樹流域における、水温・水質・一次生産量・水生生物の種数を測定し、両者の比較検討を行った。2. 調査地概要 本調査地は、最上川支流である山形県村山市の樽石川の支流(T)と千座川の支流(S)を対象にした。Tの流域面積は141.5haであり、そのうちの97%が広葉樹林で占められている。渓畔域は、主にトチノキ・カツラ・モミジなどの樹種で構成され、それ以外はブナ林である。河川勾配は21.3%である。一方、Sの流域面積は79haであり、そのうち99%が針葉樹で占められており、河川の水際までスギが植林されている。河川勾配は6.7%である。3. 方法 T・Sの両支流にそれぞれ4ヶ所の測定地点を250m間隔毎に設置し、上流よりT1,T2,T3,T4とS1, S2,S3, S4とした。測定は2002年7月28日~12月3日の118日間行った。水温は、これら8地点で1時間間隔にエスペック社製のサーモレコーダーミニRT__-__30Sに記録した。また、日照はT3,T4とS3,S4とT3,S3の河岸から林内20mの地点で、アレック電子株式会社製のWin MDS-Mk V/Lを用い10分間隔で計測した。水面に投影される樹幹は、水温・クロロフィル量・水生生物に影響するとの考えから、河川水面に投影される樹幹投影面積をT4とS4の地点より上流に向かって50m間隔ごとに樹幹開空度を測定し、河川水面への投影面積を算出した。そして、3区間における被覆面積の平均値を算出した。一方、一次生産量として、付着性藻類を採取した。採取方法は、河川内の石を取り5cm四方に付着している付着性藻類をブラシで擦り採取した。クロロフィル量の分析は吸光光度計でおこなった。水生生物は50cm立方のコドラートを用いて採取し、同定した。クロロフィルと水生生物の採取日は、開葉期にあたる7/27__から__29,8/20・21・25と落葉期にあたる10/17__から__19,12/2__から__4の12日間とした。クロロフィルと水生生物の採取場所は、前述した3区間の投影箇所と非投影箇所である。また、河川全体のクロロフィル量と水生生物の種数は、3区間にて採取したクロロフィル量と水生生物の種数に投影面積もしくは非投影面積を乗じて求めた。水質測定は、河川ごとに設定した4地点にて採水した。採水は、クロロフィルと水生生物の採取日と同日の平水時におこなった。分析は、吸光光度計と液体クロマトグラフィーを用いて行った。4. 結果と考察水温と投影割合の関係を図__-__1に示した。Tの水温変化は、T1,T2間とT3,T4間で上昇しているが、T2,T3の間で低下している。水温低下を促した区間の投影割合は54%であった。一方、Sの水温変化は、途中区間で水温が低下することなく、S1からS4にかけて徐々に水温が上昇している。水温上昇が生じた区間の投影割合は31__から__33%であった。また、平均水温はTが12.2℃、Sが13.8℃であった。水生生物数はTで46586匹、Sで20804匹であり、TはSの2.2倍であった。また、採取した種類と区間別の採取数については両支流とも大きな差はみられなかった。水生生物数と河川の投影面積の関係については図__-__2に示した。投影箇所と非投影箇所にて採取した水生生物数は、いずれも投影割合が大きい程増加していた。しかし、投影割合が低下すると両箇所の水生生物数も減少していた。以上の結果から、広葉樹の多いTは水温の低下や水生生物が生息しやすい環境を形成していることがわかった。今後は、水温上昇の抑制を促す水辺林の規模を定量的に測定し、水辺域での森林伐採による水温上昇や、水生生物の減少を緩和する水辺林の規模を算出する必要がある。
著者
佐鹿 雅敏 柴山 善一郎 山本 武 今安 清光
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.114, pp.283, 2003

林業上重要である樹幹の曲がりや傾きを簡単に測定できるようにするためにポケットコンパスに着目して簡便な測定法を提案した.方法はつぎのとおりである.立木の曲がりや傾きが良く見える場所にコンパスを水平に設置して、測定対象木とコンパスとの水平距離を測った.樹幹のある高さの中央部を視準して、コンパスの黒針が指し示す方位角を0.25°刻みで読み取った. 測定高は,仰角が最大44°までとし,俯角は木の根元までで,それぞれ2°刻みで読み取った.測定対象木は高知大学農学部内の造園木であるアベマキ、ラカンマキ、クス、ナギなどの計28本と愛媛県久万町のヒノキさし木品種である東山1号桧、東山3号桧の親木などの計38本である.コンパスでの測定結果として、造園木では特徴のある樹幹の曲がりや傾きをみた目に近い形で的確に表現することができた.ヒノキ植林木については,みた目では極めて通直に見える立木でも樹幹にゆれや傾きが観察された.この測定法の長所と短所について簡潔にまとめた.コンパスを使った簡便な方法でも,眼では確認しにくい立木の曲がりや傾きを表現できた.今回測定した造園木や植林木の中には,根元から梢端に至るまで真直ぐで水平面に垂直に立っているような樹木は1本もないことが明らかになった.コンパスを使った測定精度は必ずしも高くはないが、現場の人誰でもが立木の曲がりや傾きを簡便に測定できるので有益である.
著者
桧山 亮 折橋 健 小島 康夫 寺沢 実 鴨田 重裕 高橋 康夫
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.P3047, 2004

1、目的 エゾシカ(以下シカとする)の嗜好性とそれが生じる要因を研究することは樹皮剥ぎ害対策のための重要な情報になると考えられる。本研究では特に樹皮の物理的な発達がシカの嗜好性に与える影響を調べるためにハリギリ丸太を用いて樹皮の剥ぎ難さの測定と野外摂食試験(Orihashi et al., 2002)およびハリギリ丸太から調製した樹皮片の摂食試験を行った。2、試験方法1)試験材料 2003年3月上旬に東京大学北海道演習林(以下北演)でハリギリ2個体(DBH17.5cm、27cm)を伐採し、樹幹及び枝の直径1_から_18cmの部分から長さ1mの丸太を調製した。丸太は長さ40cmと60cmに切り分けて前者を樹皮剥ぎ抵抗値測定用、後者を野外摂食試験用とした。丸太は切断面において直径と樹皮の厚さを0.1mm単位で測定した。2)抵抗値の測定 【剥がし抵抗値測定】大井(1999)の剥皮試験の方法を参考に、樹幹方向に15cm×1.5cmの切込みを樹皮にいれて周囲の樹皮と切断し、端から5cmの部分を剥がして掴み、残りの10cmの部分を約10秒かけて引き剥がし、デジタルひずみ測定器(共和電業製)を用いて応力を計測して剥がし抵抗値とした。【刺し込み抵抗値測定】マイナスドライバー様の型をしたステンレス製の擬似シカ門歯をデジタルひずみ測定器に取り付けて、丸太の接線方向に対しては垂直に、樹幹方向に対しては約30度の角度から刺し込み、応力を測定して刺し込み抵抗値とした。各測定では1試験体(丸太)につき5回計測を行い、平均した。3)摂食試験 【抵抗値と嗜好性】摂食試験用の丸太を北演の林道沿いに設けた試験サイト(20m×5m)にランダムに並べて直立させて3月下旬の10日間(樹皮剥ぎ被害期間)シカに自由に摂食させて剥皮された面積を測った。【樹皮片の摂食試験】直径12_から_17cmのハリギリ丸太から一辺が3cm程度の方形樹皮片を3種類(内樹皮のみ、外樹皮のみ、外樹皮つき内樹皮(以下全樹皮とする))調製した。この3種類を1組として9反復用意し、それぞれ生重量で40gずつプラスチックの容器にいれて摂食試験を行った。試験中は一日一回観察し、組の中でどれかが半分以上減っていたらその時点で回収して残ったものの生重量を測定した。試験前後の様子を撮影し、食べられ方の様子を比較した。3、結果【抵抗値と嗜好性】摂食試験で剥皮が確認された丸太は剥がし抵抗値が2kgf以下、刺し込み抵抗値が6kgf以下のものがほとんどであった(図)。丸太の直径(cm)に対する樹皮厚さ(mm)の関係は内樹皮がy=0.31x+2.44, R2=0.76、外樹皮がy=0.99x_-_0.77, R2=0.84(共に単回帰分析、P<0.01)であった。直径(cm)と樹皮剥ぎ抵抗値(kgf)の関係は剥がし抵抗値でy=0.26x+0.39, R2=0.85、刺し込み抵抗値でy=0.77x+1.90, R2=0.88(共に単回帰分析、P<0.01)であった。【樹皮片の摂食試験】試験前後での試料の減少量(生重量)は内樹皮片で38.9g(±0.3)、全樹皮片で20.8g(±10.3)および外樹皮片で4.0g(±3.0)であった。内樹皮片と外樹皮片の間で減少量に有意な差が存在した(Tukey型多重比較、P<0.05)。4、考察 抵抗値と嗜好性の試験結果より、樹皮を剥がす際の抵抗値が大きな丸太の樹皮をシカがほとんど食べていないことから、樹皮の物理的な抵抗がシカの樹皮剥ぎに影響を与えていることが予想できる。丸太の直径と樹皮厚さと抵抗値には高い正の相関が見られた。樹皮厚さは直径が大きくなると特に外樹皮が発達する。外樹皮にはシカにとって栄養にならないリグニンが多く含まれ(安井、2002)、樹皮全体に占める外樹皮の割合が高くなると樹皮中のリグニン量は増加することになる。直径が大きくなった時にシカの嗜好性が下がる(小島ら、2003)主な要因として少なくとも上述の2つ(樹皮剥ぎ抵抗値、リグニン量)が考えられた。樹皮片の摂食試験結果において内樹皮片が外樹皮片よりもよく食べられたことからシカが樹皮を食べる時には内樹皮を目的としていることが示唆された。全樹皮片は中間的な食べられ方と観察された。この試験はシカが通常好まない太さで抵抗値も大きな丸太から調製した樹皮片を用いたが、人為的に剥ぎ難さを排除して供試すると食べられた。このことから剥ぎ難さがシカの嗜好性に影響をしていると言えるだろう。しかし、全樹皮片は内樹皮片よりも食べられ方が少なかったことから剥ぎ難さを排除しても外樹皮の存在により嗜好性を下がったと考えられる。
著者
矢竹 一穂 秋田 毅 中町 信孝 本間 拓也 前田 重紀 水越 利春 河西 司 阿部 學
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.P3053, 2004

新潟県十日町市珠川の林地、開放地、道路が混在し、連続した林分と分断・孤立した林分が分布する地域におけるリスの分布と林分の利用状況について、給餌台の利用状況調査とテレメトリー法により調査した。発信機を装着した4個体の夏_から_秋季の行動圏には1)連続した林分を利用、2)分断・孤立林分内で完結、3)複数の分断・孤立した林分間を移動して、利用する3タイプがみられた。車道上の轢死事例があり、孤立林分間の移動の延長として、今後も道路横断の可能性が考えられる。
著者
坂田 景祐
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.114, pp.400, 2003

本研究は、日本、アメリカ合衆国、EU(スウェーデン)の3カ国をモデル地域として、4通りの排出権の計算方法を用いた林業経営収支モデルを作成した。このモデルでは、CO2排出権の単価(CO2価格)を$5と$10(現在の市場取引価格を参考)とした場合の「造林利回り」を算出することと、伐期に影響を与える造林利回り最大の伐期齢が異なるCO2価格により何年になるのかを明らかにした。 本研究で用いた4通りの森林の排出権の計算方法は、ストック変化法、平均貯蔵法、トンイヤー法、排出権を返還する方法である。「ストック変化法」とは、ある1時点の森林が貯蔵している炭素量を排出権として計算する方法であり、ここでは伐採時に樹木が貯蔵している炭素量を排出権として森林所有者が獲得するとした。「平均貯蔵法」とは、植栽時から伐採までの間の平均蓄積量を排出権とする方法である。植栽して早くから成長し、温暖化を防止する森林には多くの排出権が見込まれることになる。ここでは、伐期齢1年ごとの平均蓄積量の排出権を森林所有者が伐採時に獲得するとした。「トンイヤー法」とは、森林の炭素貯蔵により温暖化を防止する効果を排出権として計算する方法である。ここでは森林が貯蔵した炭素量の1/55を55年間毎年排出権として森林所有者が獲得するとした。「排出権を返還する方法」とは、森林の炭素循環を考慮した方法で、森林所有者は森林が成育している段階では、森林が貯蔵する炭素量を毎年排出権として獲得するが、伐採時には貯蔵した炭素を排出するととらえて、獲得した排出権をすべて返還する方法である。トンイヤー法と排出権を返還する方法では、森林所有者は排出権を毎年獲得することから、その排出権にはモデル国の10年国債の利回り(過去10年間の平均)(日本:2.53%/年;アメリカ合衆国:5.93%/年;スウェーデン:5.32%/年)を1年複利で乗じた。 CO2排出権取引を想定しない場合の伐採収益は、丸太を木材市場で売却した収入から造林費と伐採費を引いた金額である。CO2排出権取引を想定した伐採収益は、排出権取引を想定しない場合の伐採収益にCO2排出権の金額(4方法ごと)を加算した値である。CO2排出権の金額は、排出権(量)にCO2価格を乗じた値である。この林業経営収支モデルを日本では神奈川県津久井郡(樹種:スギ)、アメリカ合衆国は南部のジョージア州(樹種:イエローパイン)、スウェーデンは南部のユタランド地域(樹種:ノルウェースプルス)に適用した。 異なるCO2価格による造林利回り最大の伐期齢の変化については、CO2価格が上昇するにつれて「ストック変化法」と「平均貯蔵法」の場合、造林利回り最大の伐期齢は、日本、アメリカ合衆国では短縮し、スウェーデンでは延長した。「トンイヤー法」と「排出権を返還する方法」の場合では、日本、スウェーデンでは延長し、アメリカ合衆国では短縮した。 造林利回りが最大になる計算方法として、「排出権を返還する方法」において造林利回りが最大になった理由は、排出権取引を想定しない場合の造林利回りが国債の利回りと比較して低いためである。この方法は、伐採前から排出権を獲得して、その排出権は国債の利回りにより増加することから、伐期が長くなるにつれて造林利回りは国債の利回りに収束することになる。そのため、「排出権を返還する方法」以外の計算方法による造林利回りが国債の利回りより低い場合、この計算方法の造林利回りが最も高くなる。異なるCO2価格による造林利回り最大の伐期齢の変化として、「ストック変化法」と「平均貯蔵法」では、CO2価格の上昇に伴い樹木の平均成長量が最大の伐期齢に移動することを明らかにした。「トンイヤー法」と「排出権を返還する方法」では、伐期が長くなるに従い、造林利回りは国債の利回りに収束する。そのため、この計算方法による造林利回りが国債の利回りより低い場合、伐期が長くなるほど造林利回りは高くなる。この場合、CO2価格が上昇するほど国債の利回りに影響を受ける排出権の価値が増し、造林利回りが国債の利回りまで上昇する伐期は短縮する。