著者
坂部 真理
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.2_208-2_236, 2016 (Released:2019-12-10)
参考文献数
51

近年, 先進諸国では国民の知的水準を企業・国家の経済競争力の源と位置付け, 国民の学力向上を明示的に政策目標とする諸改革が追求されてきた。 第一に本稿は, P. ホールの社会的学習論の視点からアメリカの初等中等教育改革を分析し, 子どもの 「学力」 の規定因, およびその向上策をめぐる政策アイディア (「政策パラダイム」) の歴史的変容過程を検討する。 第二に本稿は, 同国の制度構造と社会的学習の関係について理論的考察を行う。1990年代以降アメリカでは, 連邦・州レベルで新たな政策パラダイムに基づく教育制度改革が実施されてきた。しかし, 新制度の執行を担う地方・教育現場では, 学力低下の原因に関する異なるパラダイムに依拠し, 多様な制度的機会を利用して, 新制度を別個の目標のために 「転用」 するという動きも現れた。本稿は, こうした制度 「転用」 の例として学校財政制度訴訟に注目し, 制度改革の実施後, その執行・運用をめぐって展開された諸アクター間の紛争を分析する。この分析を通じて, 本稿は, 社会的学習に基づく制度発展を (断続平衡としてではなく), 制度形成者―執行者間の紛争と相互作用の中から漸進的に進行する過程として再構築する。