著者
堀 響一郎
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
pp.25-01, (Released:2016-11-30)
参考文献数
12

本稿は、これまでスポーツ空間で「健常者」とされてきた人々の中にも障害を有している人々が存在していることを議論の俎上に上げ、彼らにとってスポーツ実践はどのような役割を果たしているのかを問うことが目的である。障害者スポーツは障害の程度に応じてクラス分けがなされ、かつ多くの他者の援助によって実現してきた。だが近年、障害学の分野において注目されている軽度障害という概念をスポーツ領域に用いてみると、彼らは障害者スポーツの範疇からこぼれ落ちるためにクラス分けには含まれず、かつ存在が不可視であるために周囲の人々からの援助を受けられないという問題がある。そこで、吃音症当事者のスポーツ選手2名に対してインタビュー調査を行なった。 調査では、第一に、健常者スポーツの中にも運動機能そのものに影響をおよぼさない軽度障害者が存在し、こうした障害/非障害の線引きの恣意性によりスポーツ空間で困難や不利益を被っているということがわかった。例えば、吃音症ゆえに、体育会系特有の嘲笑や揶揄の対象となったり、選手間でのミーティングの際にうまく話すことができなかったこと、また時として指導者に質問することができずに、結果として上達の機会が奪われたりことなどが挙げられた。 第二に、軽度障害者にとって健常者スポーツは、承認を受ける可能性があるということが示唆された。彼らによると、学校では満足な居場所を獲得することができなかった学生時代にも野球や体操競技でよい成績を残せば周囲の人々から認められるという経験をすることがあったと語られた。 以上のように、軽度障害者たちは、健常者によるスポーツ空間に参加せざるを得ないため、様々な困難を抱えることとなるが、その一方で、スポーツは彼らが承認を受けるための契機としても機能しているということが明らかになった。