著者
堀井 里子
出版者
国際教養大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は、国境なき医師団と移民オフショア支援基地(MOAS)という二つの非政府組織(NGO)が欧州難民危機という文脈において開始したボートピープルの捜索救援活動を事例に、NGOがEU国境管理政策において果たす役割を明らかにすることが目的である。初年度にあたる平成29年度は、年度前半にイギリス・バッキンガム大学に客員研究員として滞在していた立地上の優位性を背景に、先行文献と関連資料の収集、専門家との意見交換および現地調査を行った。まず、イギリス・オックスフォード大学難民研究所主催のセミナーに参加し、移民をめぐる政策においてNGOと国家の関係性を研究するMollie Gerver氏(ニューカッスル大学)を初めとする専門家と意見交換を行った。また、イギリス・ケンブリッジ大学において犯罪学の専門家であるパオロ・カンパーナ氏と面会し、同氏より地中海域での移民の密入国と国際犯罪ネットワークについて知見を得た。さらに、イタリア・シチリア島での現地調査では、カタニア大学で地中海域を中心としたEU国境管理やNGOの活動を研究するDaniela Irrera氏およびRosa Rossi氏との意見交換を行い、またOxfamとDiaconia Valdeseという二つのNGOが設立した移民・難民サポートセンターにおいて職員およびシリア難民に会い聴き取り調査を行った。また、バッキンガム大学をプラットフォームとして、資料の収集を精力的に行った。これらの活動は以下の点で有益であった。まず、NGOによるボートピープルの捜索救助活動をめぐる論点が明らかになった。第二に、NGOによる捜索救助活動に関する事実的また時系列的な情報を入手することができた。第三に、現地コミュニティでの難民の受入態勢、姿勢を学ぶことができた。次年度はこれらの知見を活かし研究をさらに進める予定である。